アメリカンシアターシリーズII NY「ガーシュウィンなクリスマス」| 谷口昭弘
アメリカンシアターシリーズII NY「ガーシュウィンなクリスマス」
2016年12月18日 Hakuju Hall
Reviewed by 谷口昭弘 (Akihiro Taniguchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏>
柴田智子(ソプラノ、ヴォーカル)
大田翔 (テノール)
内門卓也 (ピアノ&アレンジ)
伊藤郁馬(ピアノ)
アメリカンシアターシンガーズ(Jeity、太田有美、酒井翔子、坂口杏奈、中村桜子、蛭牟田実里)
広渡勲(監修、アーティスティックアドバイザー、演出)
<曲目>
ガーシュウィン:《ラプソディー・イン・ブルー》
ガーシュウィン:《エンブレイサブル・ユー》
ガーシュウィン:《愛がやって来た》
ガーシュウィン:《アイ・ガット・リズム》
ガーシュウィン:オペラ《ポーギーとベス》より
序曲〜<サマータイム>
<そうとは限らない>
<あたしの男はもういない>
<ベス、あんたはやっと俺の女>
<あんたが好きよ、ポーギー>
<サマータイム>
(休憩)
ミランダ:ミュージカル《ハミルトン》より<ヘルプレス>
ミランダ:ミュージカル《ハミルトン》より<アップタウンはひっそりと>
バーリン:《ホワイト・クリスマス》
クリスマス・メドレー
クリスマス・キャロル:デック・ザ・ホールズ(柊飾ろう)
クリスマス・キャロル:ジョイ・トゥ・ザ・ワールド(諸人こぞりて)
クリスマス・キャロル:ウィー・ウィッシュ・ア・メリー・クリスマス(おめでとうクリスマス)
クリスマス・キャロル:オー・ホーリー・ナイト
(アンコール)
辛島美登里:《サイレント・イヴ》
ジョン・レノン&オノ・ヨーコ:《ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)》
コンサートはピアノ連弾による《ラプソディー・イン・ブルー》抜粋で始まった。やや重々しい演奏ながらも賑やかな幕開けになったし、ガーシュウィンが自己紹介をするようなスライド(一人称語りが文字で書かれていた)がステージ後方にスライドとして映しだされていたのは、(ややチープな感じはするものの)この作曲家について多くの聴衆に親しんでもらう工夫として面白かった。
これに続いて柴田智子が、ブロードウェイのソングライターとしてガーシュウィンが残した数々の名曲を歌っていく。オペラ的ベル・カント唱法だと歌詞が不明瞭になるし、時折音程を探るように出だしをずり上げる彼女の歌い方が気になったものの、澄み切った声は堂々としており、高声域の延ばしは見事だった。
アメリカンシアターシンガーを交えての《ポーギーとベス》の抜粋は、その舞台を忠実に再現するというよりは(舞台後方のスライドはサウスカロライナ州の港町ではなく中西部によく見られる掘っ立て小屋を映し出す)、オペラから生まれたガーシュインの名曲を楽しむ趣向といえる。上手の客席通路から登場したスポーティン・ライフは、やや毒々しさも欲しいと思いつつ、<そうとは限らない>を歌う軽薄な感覚は舞台にミュージカル的な楽しさを観客に与える。
柴田による<あたしの男はもういない>では彼女の歌唱スタイルを活かした真に迫る歌唱が聴け、ガーシュインが黒人社会の根底にある鬱屈した世界観を音楽的に盛り込んでいることを実感させる。
アメリカンシアターシンガーの面々は、それぞれのナンバーにおいて誰がどう物語に関与し音楽に反応していくのか、一人ひとりの舞台上の役割が演出上もう少し明確に練ってあれば、彼らが舞台の引き立て役以上のものとして機能し、立体的な舞台になっただろう。
さてその若いメンバーからなるアメリカンシアターシンガーの本領が発揮されたのは、おそらく第2部の冒頭、ミュージカル《ハミルトン》からの2曲だ。マラカスを持ちストンピングも交えてエネルギッシュに歌われるコーラスからは、音楽に対する共感も格段に伝わってきた。スロー・ナンバーにおいても言葉が立っており、歌詞におけるアクセントが曲のリズムと密接に呼応していることが分かる。
その後はクリスマスの名曲が続くが、中でもガーシュイン・ソングの一節を引用した小粋なアレンジの《ホワイト・クリスマス》は、伊藤郁馬のジャジーなピアノが歌に華を添えた。クリスマス・メドレーでは、客席にサプライズ・プレゼントも配られ、演奏家と聴衆が一体となってコンサートをもり立てる臨場感がアンコールまで続いた。