角野隼斗×ジャン=マルク・ルイサダ|西村紗知
芸劇リサイタル・シリーズ「VS」Vol.10 角野隼斗×ジャン=マルク・ルイサダ
GEIGEKI Recital series 「VS」 Vol.10 SUMINO Hayato × Jean-Marc Luisada
2025年12月25日 東京芸術劇場 コンサートホール
2025/12/25 Tokyo Metropolitan Theater Concert Hall
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)
写真:©T.Tairadate /写真提供:東京芸術劇場
<演奏> →foreign language
角野隼斗、ジャン=マルク・ルイサダ(ピアノ)
<プログラム>
ラヴェル/マ・メール・ロワ
フォーレ/組曲『ドリー』
モーツァルト/アイネ・クライネ・ナハトムジーク
角野隼斗による即興*
――休憩――
ブラームス/間奏曲 作品118-2**
シューベルト/間奏曲第3番 – 劇音楽『ロザムンデ』D797より
ブラームス/ワルツ 作品39より第2番 ホ長調、第6番 嬰ハ長調、第15番 イ長調
ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲
チャイコフスキー/《金平糖の踊り》《花のワルツ》 – バレエ『くるみ割り人形』より
●アンコール
映画『Diva』より プロムナード・センチメンタル**
バッハ/神の時こそいと良き時 BWV106
Santa Claus Is Coming To Town*
ブラームス/ハンガリー舞曲 第6番
ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲より フィナーレ
*角野 ソロ
**ルイサダ ソロ
角野隼斗は、今現在国内で最も注目度の高いピアニストと言っても過言ではないだろう。YouTuberとしての名義「Cateen(かてぃん)」の愛称でも知られ、昨年の11月にはKアリーナ横浜でソロリサイタルを開催し、「屋内のソロピアノリサイタルで販売されたチケットの最多枚数」としてギネス世界記録を達成するなど、特色あふれる活動を展開している。元旦には結婚を発表し、プライベートにも関心が寄せられているところだ。2021年にはショパン国際ピアノコンクールでセミファイナリストとなり、実力も折り紙つきである。
今回の公演は芸劇リサイタル・シリーズ「VS」の第10回。過去のラインナップには、山下洋輔&鈴木優人(Vol.2)、河村尚子&アレクサンドル・メルニコフ(Vol.7)など錚々たる顔ぶれが並ぶこのシリーズで、角野は師匠であるジャン=マルク・ルイサダと登場した。
プログラムはセミ・クラシック寄りに、フランス音楽、ドイツ音楽、ロシア音楽をバランスよく織り交ぜたもの。「マ・メール・ロワ」では愛らしく甘美な音色が堪能でき、「ドリー」組曲は朴訥とした風情を湛えていた。ルイサダが事前に出したコメントには「隼斗にとっては比較的新しいレパートリーであるシューベルトとブラームスの曲」とあった。シューベルトには寂寥の感があった一方で、ブラームスの二台ピアノの作品「ハイドンの主題による変奏曲」の方はいくらか音響の平板さが否めず、確かにレパートリーとしては日が浅いのかもしれないと感じた。
休憩に入る直前に角野がソロで即興演奏を聞かせた。直前に演奏した「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の主題に始まり、ジングルベルに移行し、のちにフーガのような展開があり、やがてベートーヴェン「月光」の三楽章を挿入するなど、様々な曲が接続されていた。全体としてはポップにまとまっていて、途中登場したジャズっぽいパッセージはいくらかカプースチンのようだとも思った。
角野の即興については、今現在の日本の音楽に通じるものがあると思った。一昨年、ネット上でMrs. GREEN APPLEの「ライラック」(2024年リリース)を「ドーパミン中毒のガキ向けの音楽」と評した人がおり物議を醸したのだったが、カラフルでスピーディーな展開が繰り広げられる角野の即興にも、少し似たようなものを感じた。それを打ち込みではなく生身の肉体で達成できる、高い演奏技術に感心すると同時に、人気の秘訣を窺い知った気にもなった。
この日は連弾の曲が大半を占めていた。すなわち「マ・メール・ロワ」「ドリー」「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」「ロザムンデ」、それからブラームスのワルツがそうである。このうち「ドリー」のみルイサダが1st、つまり主旋律の側を担当した。
ルイサダの右手の演奏技術に唸らせられた。音数が少ないと、かえって積み上げてきた経験が出るものなのだろうか。単旋律に立体感がある。一音をたっぷり聞かせたのち、それらひとつひとつの音をスラーでつないでいくのを聞くと、さながら縦糸と横糸とが織り合わさっていくのを直に見ているような心地になる。
単旋律に立体感をつくり出す演奏技術を発展させたものとして、アンコールの「プロムナード・センチメンタル」を聞いた。右手のメロディーを打ち鳴らした直後に、同じ音を小さく鳴らしていて、元の録音にあるエコーの効果を打鍵で再現していた(会場に特にマイクなど設置されていなかったので、やはり打鍵で再現したのだと思う)。この奏法が興味深かった。
「くるみ割り人形」の《金平糖の踊り》では、最初の、原曲ではチェレスタが担当する旋律を、角野がトイピアノで演奏した。弾き終わるや否や、くるりとまたピアノの方へと向き直す身振りも含めて、たいへん可愛らしい音楽だった。
アンコールでは、角野が「Santa Claus Is Coming To Town」を軽やかなタッチで弾いている間、ルイサダがサンタの格好をして1列目の客席にプレゼントを配る一幕も。5曲も披露されたため、時間が下るにつれルイサダが、それこそプレゼントをたくさん配るサンタクロースか、あるいはおなかいっぱいになるまで振舞うフレンチのシェフのように見えてきたものだった。なんにせよ、聴衆にとってこの日は心暖まるクリスマスになったに違いない。
(2026/1/15)
<Artists>
SUMINO Hayato, Jean-Marc Luisada(Piano)
<Program>
Ravel: Ma mère l’oye
Faure: Dolly Suite
Mozart: Eine kleine Nachtmusik
SUMINO Hayato solo*
–intermission–
Brahms: Intermezzo Op.118 No.2**
Schubert: Rosamunde, D797: Entr’acte No. 3 in B-Flat Major
Brahms: Valse Op.39 – No.2 in E Major, No,6 in C-sharp Major, No.15 in A Major
Brahms: Variations on a Theme by Haydn
Tchaikovsky: “Dance of the candy fairy”, “Waltz of the flowers” from The Nutcracker
Encore
Promenade Sentimentale from Diva**
Bach: Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit BWV106
Santa Claus Is Coming To Town*
Brahms: Hungarian Dance No. 6
Brahms: Finale from Variations on a Theme by Haydn
*solo: SUMINO
**solo: Luisada







