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注目の1枚|コントラバス颱風2 溝入敬三|齋藤俊夫

コントラバス颱風2 溝入敬三
Contrabass Typhoon 2 Keizo Mizoiri

ALM Records/有限会社コジマ録音
ALM-147
12月7日発売

Text by 齋藤俊夫 (Toshio Saito)

<演奏>
コントラバス(全ての作品で演奏):溝入敬三
イングリッシュホルン:溝入由美子(*)
<曲目>
溝入敬三:『小吉の夢[英語版]』
溝入敬三:『マイクロトーンズ・スタディII』
松平頼暁:『レプレースメント』
一柳慧:『空間の生成』
湯浅譲二:『インター・ポジ・プレイ・ションIII』(*)
松平頼暁:『ダイアレクティクスI』(*)

CDはまず溝入敬三『小吉の夢』と『マイクロトーンズ・スタディII』の自作自演で始まる。生きたコントラバス「小吉」の苦難の少年時代を物語る前者の終盤、コントラバスの最高音域近くをarcoで弾く部分が実に美しい。後者のコントラバスの機動力を最大限まで高めた旋律線は微分音と通常奏法の別け隔てを越えて瑞々しく映える。
だが、溝入というコントラバス奏者による作曲を離れると、コントラバスというのは、その楽器の存在理由(レゾン・デートル)を理屈っぽく理論武装しないといけない因業な楽器となるのだな、と感じさせられた。「理屈っぽく」という言葉の語義を正確に述べるのは難しいが、音楽が自然に流れるように現れることなく、何らかの作為的裏付けに従って音が現れ続けるように聴こえる、と言えば良かろうか。
それは本CD中のコントラバスによるカンタービレ作品と言える一柳慧『空間の生成』を一聴してみれば首肯されると思う。(古典的な感覚としての)自然さは徹底的にそこから排除されている。いや、排除「されている」と言うより、排除「されねばならなかった」と言うべきか。独奏カンタービレ作品がコントラバスによるカンタービレ作品たるためにはそうならざるを得なかったのだと思う。
湯浅譲二『インター・ポジ・プレイ・ションIII』では序盤こそコントラバス主導であるが、中盤以降、イングリッシュホルンが旋律を主導し、「いつものオーケストラのごとき役割り」である伴奏楽器にコントラバスが甘んじざるを得なくなっている。湯浅の(彼にしては珍しい)甘さゆえ、と言うべきか。
理屈を介すれば古今東西最も光る作曲家・松平頼暁がコントラバスという理屈っぽい楽器を理屈っぽく制御しきった『レプレースメント』は理屈は(なんとなく)わかるが、何を聴いたら良いのか最初はわからない。だが、目をつぶって低音arcoとピチカートと特殊奏法の規則正しい順列に耳をそばだて続けていると、あら不思議、とっても楽しくて安らぐ音楽が⋯⋯現れるかどうかはあなた次第。筆者は何周か聴き通してやっと〈わかった〉気になれた。
さらに松平による一番〈はっちゃけた〉愉快な暴走曲は『ダイアレクティクスI』である。コントラバスの突進力とわけのわからない理屈攻めでこちらの耳と心を強引にねじ伏せて一笑を誘う。いつもながら松平の一筋縄でも二筋縄でもいかない作品群に安心・愉快・痛快である。

コントラバスという〈難しい〉楽器が体当たりするように向かってくる本CD、溝入敬三という異才と、彼を通じて発揮された異能の作曲家たちの〈理屈〉と〈理屈を通り抜けた所に現れる音楽美〉を味わいたい人には全力でお勧めする。

(2026/1/15)