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東京都交響楽団 第817回 定期演奏会Bシリーズ|藤原聡

%e9%83%bd%e9%9f%bf東京都交響楽団 第817回 定期演奏会Bシリーズ

2016年11月19日 サントリーホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:大野和士
ヴァイオリン:庄司紗矢香

<曲目>

フォーレ:組曲『ペレアスとメリザンド』op.80
デュティユー:ヴァイオリン協奏曲『夢の樹』(1983-85)
シェーンベルク:交響詩『ペレアスとメリザンド』op.5

いかにも大野和士らしいプログラミングと言うべきか。両端を『ペレアスとメリザンド』で縁取り、真ん中にデュティユーを挟み込む。前者はまだしも、デュティユーを持って来るとは。両端は言うまでもなくメーテルリンクの同名戯曲に基づくという共通点、1曲目と2曲目はフランス近代~現代のいわゆるコンサヴァティヴな(と単純に呼べない面も無論あるが)作風を旨とする作品という括り。2曲目と3曲目は全曲を通じて切れ目なく演奏されるという共通点(これは狙ったプログラミングではなく偶然と言う気もするが)。

まずはフォーレ作品。大野和士はこの夢見るように美しい作品を、雰囲気に全く流されず、非常にかっちりと演奏した。いわゆるフランス風な演奏ではなく重厚とすら言えたが、それは水平方向の流れの良さよりは縦方向の音の重なりに意識が向いた演奏だったから、と思われる。強弱の幅も意外に大きい。余りに有名な「シシリエンヌ」も甘さはいささか控え目。聴き手によっては生真面目と捉えるであろうこの演奏、しかし質は大変に高い。都響の透明かつシルキーな弦楽器の魅力も存分に発揮。

次に庄司紗矢香を迎えてのデュティユーであるが、オリヴィエ・シャルリエやルノー・カプソンの録音で馴染んでいた耳には相当に異質の演奏と思われた(初演者スターンの演奏は未聴だが)。それは苛烈とも言いうる庄司の強靭な集中力に由来するものだろうが、幽玄さや夢幻さといった要素は背後に退いていた感。ある意味で表現主義的な色彩すら帯びていたように思える。この曲としては異色の演奏であることは間違いないが、しかしこの上なく見事だった。庄司は何を弾いてもその力量で聴き手を納得させてしまうのだ。大野のサポートもかなりメリハリを強調しており、それも含めて極めてリアリスティックな『夢の樹』であった。

最後は、いかにも大野が得意としそうなレパートリーであるシェーンベルクの『ペレアスとメリザンド』。これは大野和士が都響の音楽監督に就任して以降の演奏の中でも出色のものではなかっただろうか。元々そういう曲だとは言え、大野はここで大きなうねりを感じさせるような後期ロマン派的に濃厚極まりない演奏を聴かせてくれたのだった。骨太の大きな流れで押し切った感がない訳でもないけれど――そういう観点で聴くならばペレアス、メリザンド、ゴローの各動機の扱いの差異化、という点で弱い、とも言える――、演奏の質の高さは何ら疑い得ない。大野&都響の好調ぶりが如実に伺えるものだった。

それにしても、このコンサートの後に行なわれたマーラーの『交響曲第4番』をメインとするコンサートにおいても彼らの好調ぶりは明らかで、率直に言えば前回の大野登壇時(6月)よりも遥かに良い。いよいよ本格始動、か。

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