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三つ目の日記(2025年11月)|言水ヘリオ

三つ目の日記(2025年11月)

Text by 言水ヘリオ(Kotomiz Helio):Guest

 

2025年11月7日(金)
7時に起きる。目覚ましが鳴る前に目覚めた。身支度をして電車に乗る。ラッシュ前でまだすいている。昼には待ち合わせている数名で食事することになっているが、腹がへっているので新宿駅構内の立ち食いそば屋で食事する。久喜で東武伊勢崎線に乗り換えて足利市駅まで。10時過ぎに到着する。待ち合わせの時間は11時30分で、だいぶ早く着いてしまった。駅のおみやげ屋みたいなところに喫茶コーナーがあり、そこでコーヒーを飲みながら読書して待つ。
皆と昼食を済ませて、展示を見はじめる。空き家など、足利市内14か所で催されているアートイベント。山田稔の展示会場を訪れると、本人が畳の上に横になって眠っている。そういうパフォーマンスを行っている可能性があり、そのまま展示を見ていると、起き上がって「眠っちゃってた」とのこと。両面真っ黒な折り紙が用意されていて、わたしはそれで鶴を折って畳の上の折り鶴に加えた。ひとりだったらここで長居をしていたと思うが、同行者も今後の予定もありおいとまする。14か所のうち数か所で展示を見る。15時30分頃、美術館へ。1時間ほど滞在して、足利市駅へ。居酒屋で20時頃まで食事する。

 

11月19日(水)
目的駅に着くまでに乗り換えの駅構内にある立ち食いそば屋で食事する。空腹ががまんできずはしでそばとかきあげを摑んでがつがつ食う。『幸福の黄色いハンカチ』での高倉健の食堂での場面を思い出す。吉祥寺へ。黒須信雄の展示を見る。いつも、作品を見た体験をことばにすることができず、今日も感想のようなことはなにも伝えられなかった。作者が展示や作品について話した音源が公開されているとのこと。個展のたびに配布される文章をまとめてホチキスで閉じたものをもらって帰宅する。

 

11月21日(金)
早起きして病院へ。定期検診。今日の採血の人は、親指を手のひらのなかに入れて握らせることもなく、ただ腕を出した状態でさらっと針を刺して血を採った。およそ3時間後、薬をもらって病院を出る。食事して、展示をいくつか見る。
高田馬場のギャラリーへ岩崎美ゆきの写真を見に行く。途中、コンビニエンスストアで飲み物を買って一息つく。パイナップルジュース。飲み終えて歩いていると、知人とすれ違う。だが、うす暗い室内でしか会ったことがなく、明るい屋外では、その人なのかどうか判断に迷いが生じて声を掛けられなかった。ギャラリーに入り名を記すとき、自分の前にその人の名があった。
静止画というものを、撮影することはできるのだろうか。何分の一秒とかの、動いた時間の幅がうつっているということから、逃れることができるのだろうか。一枚一枚の写真のそういった時間の幅のなかで、どれだけの花が散り、茎が断ち切られたか。動的にみえる動物の生き死ににくらべ、植物のそれは静的か。そして、先端の末に宿る発色したものの陰にあるかもしれない、なにかがつづられることを待つ余白。
保護するとともに遮蔽するもの。ガラス。窓。網。茂み。カーテン。水面。光があたる。反射する。透過する。剝き出しの、紙一枚の写真が、ときに額縁に収められ、かつて存在したのか定かではない空間を、すでにあるイメージとして、ここにピン留めしたり、象嵌したりする。
15時半ころから約1時間の滞在。陽が落ちはじめている。もうすこし早い時間であったら外光が差して不思議な光の模様が壁にできていたらしい。
21時過ぎに帰宅。厚着して外出したため汗をかいている。着ていた服をぜんぶ脱いで裸になる。しばらくそのまま過ごす。寒くなりエアコンの暖房をつける。服を着る。冷蔵庫にあるもので食べものをつくる。何年も前から吊るしてある一本の薔薇が目に入る。干からびて花も葉も茎も同じ色になっている。この部屋に生命体と思しきものがなにかあるだろうか。捨てられず保管しているポポーの種はたぶん生きている。棚に置いてあるはずだがみつからない。ほかのものに埋もれている。
2021年11月20日の日記)(2024年12月4日の日記)

 

11月25日(火)
来月、海のある町へ出かける。昼ころに駅に着いて、食事してから港まで歩く。そのあと、立ったまま、または座って、なにか飲みながら、誰かと話をするか、ひとりであたりを眺めるか、本を読むかするだろう。しばらくしたら、駅へ戻って電車に乗るだろう。

 

11月28日(金)
歩いていたら昔ながらの立ち食いそば屋があったので食事する。壁にあるメニューを見る。品数は多くはない。店のおすすめであるらしい肉そばを注文する。調理しているのは年配の男性。ちょっと怖い感じがして緊張する。文化放送のラジオ番組が流れている。代金を払いそばを受け取る。
用事を済ませて、もういちどそば屋の前を通ると、のれんが店内にしまわれていた。店の人の影がちらと見えた。次にここを通った際にはまた寄りたいと思った。

 

〈写真掲載の展示〉

岩崎美ゆき個展 étincelle 会場:Alt_Medium 会期:2025年11月21日〜11月26日

(2025/12/15)

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言水ヘリオ(Kotomiz Helio)
1964年東京都生まれ。1998年から2007年まで、展覧会情報誌『etc.』を発行。1999年から2002年まで、音楽批評紙『ブリーズ』のレイアウトを担当。現在は本をつくる作業の一過程である組版の仕事を主に、本づくりに携わりながら、2024年にウェブサイトとして再開した『etc.』を展開中。https://tenrankai-etc.com/