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ナタリー・デセイ & フィリップ・カサール Farewell CONCERT |藤堂清

ナタリー・デセイ & フィリップ・カサール Farewell CONCERT 
Natalie Dessay & Philippe Cassard Farewell Concert 

2025年11月6日 東京オペラシティ コンサートホール 
2025/11/6 Tokyo Opera City Concert Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by Taira Tairadate/写真提供:ジャパン・アーツ 

<出演>        →Foreign Languages
ナタリー・デセイ  (ソプラノ)
フィリップ・カサール  (ピアノ)
<曲目>
モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》より
 無くしてしまったわ <バルバリーナ>
 とうとうその瞬間が来た ~ さあ、早く来て <スザンナ>
 自分で自分がわからない <ケルビーノ>
 スザンナは来ない!~ いずこぞ喜びの日 <伯爵夫人>
エルネスト・ショーソン:ハチドリ
モーリス・ ラヴェル:天国の美しい3羽の鳥たち
ルイ・ベッツ:傷ついた鳩
フランシス・プーランク:かもめの女王
モーリス・ラヴェル:悲しき鳥たち(ピアノ・ソロ)
フランシス・プーランク:モノローグ《モンテカルロの女》
——————-(Intermission)——————-
ジャン=カルロ・メノッティ:歌劇《霊媒》より<モニカのワルツ>
サミュエル・バーバー:《ノックスヴィル - 1915年の夏》
アンドレ・プレヴィン:歌劇《欲望という名の電車》より<私が欲しいのは魔法>
———————-(Encore)———————-
アーン:リラの木のナイチンゲール
メノッティ:歌劇《泥棒とオールドミス》より<私を盗んで、素敵な泥棒さん>
ドリーブ:歌劇《ラクメ》より<あなたは私に最も甘い夢を与えてくれた>

 

“Farewell CONCERT” というこの日のコンサート、デセイが引退を決意し、これが最後の日本でのコンサートになるということなのかと、ある種の覚悟を決めて臨んだ。
最近の二度の来日、2017年2022年でも、プログラムはオペラと歌曲で構成されており、同じ曲が並んでいるところもあった。
今回の最初の部分では、モーツァルトの《フィガロの結婚》から登場人物4人、バルバリーナ、スザンナ、ケルビーノ、伯爵夫人のアリアが歌われた。役ごとに声を変えて歌いわけるというのではないが、それぞれの場面に応じた表情付けは見事。バルバリーナの「無くしてしまったわ 」という嘆きも、伯爵から渡されたピンよりももっと深刻なものを失ったように聞こえる。スザンナの「とうとうその瞬間が来た」からの喜びへの期待に満ちた歌い口。ケルビーノの「自分で自分がわからない」と勢い込んで歌う、そのスピード感。そして伯爵夫人の「いずこぞ喜びの日」という深い悩みを歌うアリア、そのしっとりとした味わい。デセイがオペラの世界で到達した地点と拡がりをはっきりと示していた。
二番目のブロックは、まず鳥をテーマにしたフランス歌曲を4曲。フランス語になると、ぎゅっと空気が濃くなる。彼女のイタリア語がどうというのではないが、やはり母国語、響きが自然に会場をみたす。ショーソンの《ハチドリ》の出だしのしめやかな曲想、中間部の盛り上がりと静かなエンディング。デセイらしい均質な響きが美しい。
ピアノ・ソロを1曲はさんで、プーランクのモノローグ《モンテカルロの女》が前半の最後。人生に絶望した女性が、賭博に浸り、最後に海に身を投げるというもの。このドラマチックな歌をデセイは彼女の声を最大限活かして歌いあげた。フレーズごとに繰り返される「モンテカルロ」がさまざまな表情を持って響く。エンディングでは、うしろを向き両腕を大きく拡げて歌い終えた。
後半は、英語のオペラ・アリアと歌曲。歌い始める前に、曲についての解説をいれた。それとともに、今回のようなクラシカルな曲目でのリサイタルは終わりとする、そして今後は舞台での踊りのあるミュージカルに活動を移すと述べた。リサイタルのタイトルにあった「Farewell」は今までの活動に対してであり、引退するという意味ではないということを明らかにした。
メノッティの歌劇《霊媒》より<モニカのワルツ>、プレヴィンの歌劇《欲望という名の電車》より<私が欲しいのは魔法>、この2曲はオペラの一部、アリアの位置付けで歌われることがある。一方、バーバーの《ノックスヴィル - 1915年の夏》は、オーケストラと声楽のための曲、連作歌曲のような形である。この日はピアノと声楽での演奏。ミュージカルでの活動のため、英語を鍛え直したというだけあって、クリアな発音で聞き取りやすい。彼女が「15分の長い曲」と説明していたバーバーが聴き応え充分。
アンコールは3曲、それぞれにデセイの持ち味がでていたが、最後に歌われた《ラクメ》のアリアに、オペラや歌曲といったクラシカルな音楽に別れを告げる彼女の思いが詰まっているように感じられ、心うたれた。
彼女が今後どのようなキャリアを積んでいくかわからないが、このリサイタルがこれまでのデセイの歩んできた道の集大成であり、それを最上の形で示してくれたことは間違いない。

(2025/12/15)

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<Player>
Natalie Dessay (Soprano)
Philippe Cassard (Piano)
<Program>
Mozart: Le nozze di Figaro
Cavatina di Barbarina « L’ho perduta, me meschina »
Recitativo e Aria di Susanna « Giunse alfin il momento »
Aria di Cherubino « Non so più »
Recitativo e Aria della Contessa « E Susanna non vien – Dove sono »
Ernest CHAUSSON: Le Colibri
Maurice RAVEL: Trois beaux oiseaux du paradis
Louis BEYDTS: La Colombe poignardée
Francis POULENC: Reine des mouettes
Maurice RAVEL: Oiseaux tristes (pour piano)
Francis POULENC: La Dame de Monte Carlo » (texte de Jean Cocteau)
——————-(Intermission)——————-
Gian Carlo Menotti: Le Médium, «Monica’s Waltz»
Samuel BARBER: «Knoxville: Summer of 1915» (texte de James Agee)
André PREVIN: A Streetcar Named Desire (Un tramway nommé désir), «I want magic»
———————-(Encore)———————-
Reynald Hahn: Le Rossignol des Lilas
Gian Carlo Menotti:  The Old Maid and the Thief, «Steal Me Sweet Thief»
Léo Delibes: Lakmé, «Tu m’as donné le plus doux rêve»