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リッカルド・ムーティ指揮ヴェルディ:《シモン・ボッカネグラ》|藤堂清

リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京
ヴェルディ:《シモン・ボッカネグラ》(演奏会形式)

2025年9月15日 東京音楽大学 100周年記念ホール(池袋キャンパス A館)
2025/9/15 Tokyo College of Music 100th Anniversary Hall (Ikebukuro Campus)
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 平舘平/写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会

出演        →Foreign Languages
指揮:リッカルド・ムーティ
シモン・ボッカネグラ(バリトン):ジョルジュ・ペテアン
アメーリア(マリア)(ソプラノ):イヴォナ・ソボトカ
ヤコポ・フィエスコ(バス):ミケーレ・ペルトゥージ
ガブリエーレ・アドルノ(テノール):ピエロ・プレッティ
パオロ・アルビアーニ(バス・バリトン):北川辰彦
ピエトロ(バス):片山将司
隊長(テノール):大槻孝志
侍女(メゾ・ソプラノ):小林紗季子
管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:仲田淳也

 

何と緻密で、細かいところまで神経の行き届いた演奏だろう。弱音で始まるプロローグの緊張感にみちた音、聴き手を一気に物語の中に引き込んでいく。ムーティが《シモン・ボッカネグラ》というオペラで語りたいことをすべて引き出した演奏。このオペラ、1857年、ヴェルディが40代の作品だが、1881年に大幅に改訂、そのため彼の後期の作風が反映されている。現在ではもっぱらこの改訂版が上演される。ムーティの演奏も作品のこのような経緯を意識したものとなっている。
彼の指揮のもと、東京春祭オーケストラが弾きだす音のつややかなこと。最強音の圧力は凄まじい。一方、弱音も音圧は低くなるものの響きはホール内にしっかりと伝わる。緊迫感は途切れることはない。若い奏者たちが集まっているのだが、しっかりと応えている。
演奏会形式の公演といっても様々な形態があるが、ムーティが イタリア・オペラ・アカデミーで行うのは、歌手が指揮者の前に並び、楽譜を見て歌うというもの。オーケストラだけでなく、歌にも指揮者の細かな指示が徹底される。

歌手ではヤコポ・フィエスコを歌ったミケーレ・ペルトゥージをまず挙げよう。豊かな響き、強い声で歌う時の迫力、弱声のつややかさ。60歳の今でもまったく衰えをみせない。プロローグのアリアでの圧倒的な歌唱、その後のシモンとの二重唱での充実。そして第3幕で再び彼と対決する場面でのリズムにのった力強い歌とアメーリアが自分の孫であることを知ったあとの歌い分けの見事さ。
イヴォナ・ソボトカの歌ったアメーリアも実に魅力的。彼女はエリザベート王妃国際音楽コンクール で優勝後間もない2005年に来日し、リサイタルを開いているが、その当時と美声は変わらず、声に厚みが出てきて、表現の幅が拡がっている。43歳の現在、成熟した歌唱を聴かせてくれた。
タイトルロールのシモン・ボッカネグラのジョルジュ・ペテアン、ムーティの起用に応え、細かいところまで揺るがせにしない歌を聴かせた。もうすぐ50歳となるベテランだが、声に力はあるし、誰よりも頻繁に指揮に目を向けていた。
ガブリエーレ・アドルノのピエロ・プレッティはやや一本調子の感はあったが、破綻なく歌っており、まずまず。
パオロ・アルビアーニの北川辰彦、ていねいな歌唱で、音楽的には十分満足できるものであったが、悪役の表現にもう一歩踏み込んで欲しいと感じるところもあった。
とにもかくにも、歌手全員がムーティの期待に応えようと一所懸命に取り組んでいる姿に心打たれた。
東京オペラシンガーズの合唱も充実。弱声の透き通った響き、強声の圧倒的な音圧。

84歳のリッカルド・ムーティの円熟の棒、あいまいさを残さず細部までしっかりとコントロールしていく。だが、決してガチガチに締め付けるのではなく、各演奏者が豊かな音楽を奏でるように仕向ける余裕を持った振り方。まさに巨匠の指揮といえるだろう。

(2025/10/15)

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Cast
Conductor:Riccardo Muti
Simon Boccanegra(Baritone):George Petean
Amelia(Maria)(Soprano):Iwona Sobotka
Jacopo Fiesco(Bass):Michele Pertusi
Gabriele Adorno(Tenor):Piero Pretti
Paolo Albiani(Bass-baritone):Tatsuhiko Kitagawa
Pietro(Bass):Masashi Katayama
Un capitano dei balestrieri(Tenor):Takashi Otsuki
Un’ancella di Amelia(Mezzo-soprano):Sakiko Kobayashi
Orchestra:Tokyo-HARUSAI Festival Orchestra
Chorus:Tokyo Opera Singers
Chorus Master:Junya Nakata