7月の2公演短評|大河内文恵
7月の2公演短評
♪アンサンブル・ポエジア・アモローザ第3回公演 麗しの歌、麗しの時代~バロックを彩った女たち~
♪アンサンブル・アカデミア・ムジカ プロジェクト第4弾 調和の架け橋
Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
アンサンブル・ポエジア・アモローザ第3回公演 麗しの歌、麗しの時代~バロックを彩った女たち~
2025年7月23日(水)@日本福音ルーテル東京教会→曲目・演奏
コルネット奏者である上野訓子の呼びかけによって始まったアンサンブル・ポエジア・
アモローザの第3回公演を聴いた(1回目、2回目)。関西を拠点とする上野と頼田、東京を拠点とする佐藤、パリを拠点とする高橋が毎年1回集まって京都と東京で開催するこの公演は、声楽と独奏楽器(コルネット)が対等に扱われるところに特徴がある。コルネットが歌詞のない歌手のように感じられ、さながら二人の歌手による公演のようである。
副題にあるように、今回はバロック時代の女性作曲家に焦点が当てられた。男性作曲家も出てくるが、ジューリオ・カッチーニはフランチェスカおよびセッティミア姉妹の父、ルッツァスコ・ルッツァスキは「コンチェルト・デッレ・ドンネ」という女性音楽グループの音楽監督で、いずれも女性作曲家の誕生に深い関わりをもつ人物としてプログラミングされている。
一般に、多く演奏されている作品の演奏は、巨人の肩に乗ることができる。演奏者はもちろん、聴き手にもある程度イメージがあって、そこに乗っかって演奏することが可能だ。しかし、ほとんど演奏されていない作品では、演奏者はもちろん、聴き手もどう聴けばよいのかが手探りとなる。
それを補う一つの手段が、上野による詳しい解説である。作曲家や作品についてのみならず、当時の時代背景や出版事情、女性音楽家の立ち位置についても、しなやかな文章で綴っている。
その一方で、本編終了後のトークで明かしていたように、なじみのない曲をいかに聞いてもらうかに心を砕いたことが演奏からも感じられた。特に、前半の最後に演奏されたジューリオ・カッチーニの3曲、後半の最後に演奏されたバルバラ・ストロッツィの3曲は非常に充実しており、教会が劇場に変わったかのように感じられた。
これまで3回、イタリアものを取り上げてきたが、次回はイギリスに舞台を移す予定だという。高橋の歌と上野のコルネットというツートップをテオルボとヴィオラ・ダ・ガンバががっちり支える隙のないアンサンブルが、どうイギリスの音楽と向き合うのか、今から楽しみである。
アンサンブル・アカデミア・ムジカ プロジェクト第4弾 調和の架け橋
2025年7月31日(木)@日本福音ルーテル東京教会→曲目・演奏
ナチュラル・トランペット奏者の杉村智大が主宰するアンサンブル・アカデミア・ムジ
カの手掛ける大きな演奏会の第4弾である。これまでボヘミア地方の音楽を取り上げてきたが、今回は17世紀ドイツの作曲家、とくにローゼンミュラーを中心としたプログラム。いつもながら、どれだけの時間と労力を注ぎ込んでこのプログラムを作り上げたのだろう?と気が遠くなる思いがする。
ゲストの一人、アナイス・チェンのヴァイオリンが心地よい。どれほど難しいパッセージであっても、無駄な動きが一切なく、滑らかに音楽が流れていく。随所に入れられたディミニューションも自然で技巧を感じさせない。
前回聴いたときにも感じたことだが、ナチュラル・トランペットは現代のトランペットに比べて音量も音色も他の楽器との差異が少なく、アンサンブルによくなじむ。自然倍音のみを使用するために、fisとaisの音程が他の楽器と異なるが、聞きなれてくるとfisはほとんど気にならなくなる。現代の音楽では、音程を重要視することによって、それ以外の音楽要素が背景化してしまっているのではないかと思えた。
もう一人のゲスト、夏山の存在も大きかった。彼女の歌は、声の輝かしさや音程の妙を聞かせるというより、言葉に寄り添うもので、歌詞を音符に載せて届けているように聞こえる。そして、それをしっかり理解している楽器奏者たちがこれまた過不足のない音楽で寄り添い、相乗効果がみられた。
感じられるのは歌詞の世界観と音の流れのみ。もちろん、3拍子系のリズムがあればうきうきするし、チャコーナも心浮き立つ。しかしながら、それらが目立つことはなく、あくまでも大きな音楽世界の一部になっている。ふと、音楽の原点というのは、そういうものなのではないかという気持ちになった。ムジカ・ムンダーナではないが、宇宙の大きな動きの一部としての音楽。音楽が作曲家や演奏家の自己表現になる以前の音楽を体感できる機会は意外に少ない。なんのために音楽を聴くのか?と自分に問いかけたくなった。
(2025/8/15)
アンサンブル・ポエジア・アモローザ第3回公演 麗しの歌、麗しの時代~バロックを彩った女たち~
2025年7月23日(水)@日本福音ルーテル東京教会
出演:
高橋美千子(ソプラノ)
上野訓子(コルネット)
頼田麗(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
佐藤亜紀子(テオルボ)
曲目:
《ルネッサンスの静寂を破った、才気ある女性たちの声》
マッダレーナ・カズラーナ:おお夜よ、空よ、海よ、岸よ、山々よ
クラウディア・セッサ:キリストの御目に
《女性の創造力に火を灯した、宮廷音楽の演出者》
ルッツァスコ・ルッツァスキ:第1旋法によるリチェルカーレ*
私の心よ、どうか萎えないでおくれ
私は若い娘
《娘たちに継がれた、表現の革命》
ジューリオ・カッチーニ:麗しい私のアマリッリ
ああ、わが苦き涙の甘い泉よ*
戻ってきて、どうか、わが幼き愛の神よ
~休憩~
《知性と感性を抱く、バロック初期のミューズたち》
フランチェスコ・カッチーニ:優しきマリアさま
愛の神とは何かを知りたくば
セッティミア・カッチーニ:ふたつの輝く瞳が*
かつて希望もあったが、今はもう何も望まない
佐藤亜紀子:トッカータ
バルバラ・ストロッツィ:恋に落ちたヘラクレイトス
居眠りキューピッド*
秘密の恋人
~アンコール~
バルバラ・ストロッツィ:居眠りキューピッド(歌)
*:器楽曲
アンサンブル・アカデミア・ムジカ プロジェクト第4弾 調和の架け橋
2025年7月31日(木)@日本福音ルーテル東京教会
出演:
ゲスト:
アナイス・チェン バロック・ヴァイオリン
夏山美加恵 歌
アンサンブル・アカデミア・ムジカ:
杉村智大 ナチュラル・トランペット
村上信吾 ナチュラル・トランペット
鷲見明香 バロック・ヴァイオリン
中島由布良 バロック・ヴィオラ
小池香織 ヴィオラ・ダ・ガンバ
角谷朋紀 ヴィオローネ
宮崎賀乃子 オルガン
曽根田駿 バロック・ハープ
曲目:
R.ヴァイヒライン:ソナタ第5番 ハ長調
J.H.シュメルツァー:ソナタ第2番 ホ短調
J.ローゼンミュラー:主よ、御手に委ねて ホ短調
G.ムファット:チャコーナ ト長調
ローゼンミュラー:おお、至福の楽園の光景よ ハ長調
~休憩~
D.ペーターセン:ソナタ第2番 イ短調
S.カプリコルヌス:我らの贖い主イエス イ短調
ローゼンミュラー:ソナタ第9番 ニ長調
ローゼンミュラー:親愛なる神よ ヘ長調
シュメルツァー:降誕のソナタ ハ長調
~アンコール~
シュメルツァー:降誕のソナタ(一部)