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DAI-ICH SEIMEI HALL クァルテット・ウィークエンド2024-2025 クァルテット・インテグラ|藤原聡

DAI-ICH SEIMEI HALL クァルテット・ウィークエンド2024-2025
クァルテット・インテグラ
DAI-ICH SEIMEI HALL QUARTET WEEKEND2024-2025
Quartet Integra

2025年1月11日 第一生命ホール
2025/1/11 DAI-ICH SEIMEI HALL
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
写真提供:トリトン・アーツ・ネットワーク

〈プログラム〉        →Foreign Languages
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第3番 ニ長調 Op.18-3
バルトーク:弦楽四重奏曲 第3番 Sz.85 BB93
ブラームス:弦楽四重奏曲 第3番 変ロ長調 Op.67
※アンコール
ハイドン:弦楽四重奏曲 ニ短調 Op.76-2『五度』〜第4楽章

〈演奏〉
クァルテット・インテグラ
 三澤響果(ヴァイオリン)
 菊野凜太郎(ヴァイオリン)
 山本一輝(ヴィオラ)
 パク・イェウン(チェロ)

 

クァルテット・インテグラ(以下QI)が2023年より3年計画で第一生命ホールにおいて行ってきたベートーヴェン、ブラームス、バルトークの「3大B」による弦楽四重奏曲シリーズ、このたびはそれぞれの第3番が取り上げられた。2023年には第1番、2024年には第2番というプログラミングだったが、ベートーヴェンとバルトークに共通しているのは彼らのキャリアの比較的初期の作品であること(第3番は過渡期か)、ブラームスにおいてはキャリア中期の作品ではあるが、第1番および第2番は交響曲第1番の作曲に20年以上の歳月をかけたのに似て最低8年以上の歳月を費やして初めて世に問われた弦楽四重奏曲であることを勘案すれば、これも「キャリア初期」とみなすことも可能だろう。このコンセプトが興味深かった本シリーズのラストである。

最初のベートーヴェンの第3番では4人の完璧なハーモニーの均衡から醸し出される音の美しさにすぐさま魅了される。またそのニュアンスのなんと繊細なことよ。しかも、それらが手管を弄している印象なくごく自然に湧き出てくるかのように成し遂げられていて瞠目するしかない。終楽章の快活な運動性も絶品の極み。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の中では初期作品は比較的軽んじられている感もあるが(中期・後期にあのような怪物的作品を連発されては仕方ない面もあろう)、このような名演に接すると改めてその魅力、充実度に気付かされる。

さて、次のバルトークでも驚くことにベートーヴェンでの印象とあまり変わらない演奏が展開された。もちろんバルトークであるからその表現の振幅は未だハイドンやモーツァルトの影響の色濃いベートーヴェンとは比較にならないが、このバルトークにおける個別のパートが全く突出せずに完全な均一性が保持された肩怒らせない自然さは驚異的だ。しばしば用いられるスル・ポンティチェロやスル・タストといった特殊奏法ではその音色の鋭利な強調が印象的だったが、それとて本節の最初に記した印象が優位である。恐らく、QIの技術レヴェルがあまりに高度であるがゆえにバルトークの書法がやすやすと消化されていることがその理由だろう。また、テクニカルな余裕は作品全体をより俯瞰的にみることを可能とし、切れ目なく演奏され非常に有機的に構成されている本作の古典的ともいいうる相貌をより明快に提示する。筆者はより「刺々しい」バルトーク演奏が好みではあるが、それはそれとしてこのQIの演奏はすごい。

休憩をはさんでの後半、ブラームスでも各パートの独立性と全体の響きの統一が二つながら確保されているので、ともすると厚ぼったい響きに支配されがちな本作のプロポーションが非常にすっきりと表出される。第2楽章での清澄さには耳が洗われ、ヴィオラが主役となり他の3声部には弱音器が付けられる第3楽章ではそのヴィオラの山本一輝による雄弁な演奏にしばし聴き惚れる。終楽章の変奏曲ではそれぞれの描き分けが明確、それゆえ第1楽章主題の再現も効果がより高まる。細部の表現のていねいさと全体への目配り。これもまたQIならではの稀有な名演であった。

何度かのカーテンコールのあと、昨年からQIのチェロ奏者となったパク・イェウンが日本語で新年の挨拶、続けてお約束の山本一輝による「朴訥トーク」。今まで当たり前だと思っていたことがそうとは思えなくなり、逆に今まで違うと思っていたことが正しいと思うようになる、弦楽四重奏の学びには終わりがない(大意)、との話の後にはアンコールとしてハイドンの『五度』から第4楽章。これもまた見事すぎるほど見事な演奏で、古典的な枠内でそれぞれが自在に振舞い(特に第1ヴァイオリンの三澤響果)、ハイドンの愉悦を存分に表現。QIにはハイドン弦楽四重奏曲ツィクルス(これ、あまり聞いたことがない。数が多すぎるしマニアックだから?)などをやっていただきたい。

(付記)
QIはこの6月から全6回のベートーヴェン・ツィクルスを第一生命ホールとフィリアホールで開始する。これはクァルテット・ファンのみならず特にそうというわけでもないクラシック・ファン必聴(敢えてそこまで言わせていただく)だ。

(2025/2/15)

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〈Program〉
Ludwig van Beethoven:String Quartet No.3 in D major,Op.18,No.3
Béla Bartók:String Quartet No.3 Sz.85 BB93
Johannes Brahms:String Quartet No.3 in B flat major Op.67
※Encore
Franz Joseph Haydn:String Quartet in D minor Op.76-2 “Fifths”〜4th movement

〈Player〉
Quartet Integra
 Misawa Kyoka,violin
 Kikuno Rintaro,violin
 Yamamoto Itsuki,viola
 Park Ye Un,cello

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