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クリスティアーネ・カルク  ~クララ・シューマンへのオマージュ~ |藤堂清

クリスティアーネ・カルク 
~クララ・シューマンへのオマージュ~ 
Christiane Karg & Gerold Huber 
“Hommage à Clara Schumann” 

2024年12月3日 王子ホール 
2024/12/3 Oji Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by 横田敦史/写真提供:王子ホール 

(演奏)        →Foreign Languages
クリスティアーネ・カルク(ソプラノ)
ゲロルト・フーバー(ピアノ)

(プログラム)
R.シューマン: 彼をひとめ見たときから(《女の愛と生涯》 Op.42-1)
C.シューマン: あの人がやって来たのは (《リュッケルトの『愛の春』 から12の詩》Op.12-2)
R.シューマン:献呈 Op.25-1(《ミルテの花》より)
C.シューマン:きれいだから好きというなら Op.12-4(《リュッケルトの『愛の春』 から12の詩》より)
R.シューマン:薔薇、海、太陽 Op.37-9(《リュッケルトの『愛の春』 から12の詩》より)
C.シューマン:なぜほかの人に訊くの Op.12-11(《リュッケルトの『愛の春』 から12の詩》より)
C.シューマン:6つの歌曲 Op.13より
       暗い夢の中に立つぼくは/ふたりは愛し合っていた/愛の魔力/
       月がそっと昇ってきた/あなたの目に一条の光となった/しとやかな蓮の花
R.シューマン:はすのお花 Op.25-7(《ミルテの花》より)
C.シューマン:彼女の肖像
R.シューマン:あなたはいま初めてわたしに苦痛をお与えになりました Op.42-8(《女の愛と生涯》より)
********** 休憩 **********
C.シューマン:ああ別れの辛さよ
ブラームス:ピアノ・ソナタ 第2番 嬰ヘ短調 第3楽章 スケルツォ Op.2(ピアノ・ソロ)
C.シューマン:ローレライ
ブラームス:愛と春II Op.3-3(《6つの歌》より)
C.シューマン:すみれ
ブラームス:すみれに寄せて Op.49-2(《5つの歌》)
C.シューマン:「ユクンデ」による6つの歌 Op.23
       どうして泣くの、花よ/ある明るい朝に/密かなささやきが、そこここに/
       とある緑の丘の上に/これは鳴りひびく一日か/ああ、愉しい、愉しいかな
ブラームス:それはメロディのように Op.105-1(《5つの歌》)
C.シューマン:あなたに言うこのおやすみを
ブラームス:月夜 WoO21
********** アンコール **********
R.シューマン:月の夜(《リーダークライス》 Op.39より)
R.シューマン:終わりに(《ミルテの花》Op.25より)

 

クリスティアーネ・カルクは44歳のドイツのソプラノ、前回の来日から8年経ち、声も安定し、音楽的にも多様性を増している。新進の歌手から、充実期の歌手へ変わってきたと言えるだろう。

この日のプログラムは「クララ・シューマンへのオマージュ」と題するもの。クララ・シューマンの作品を中心とした構成で。前半は夫であるロベルト・シューマンの作品との組み合わせ、後半はヨハネス・ブラームスの作品との組み合わせである。この3月17日にはピアニストは変わるが、ウィーン楽友協会による”Claras Blumenalbum“という音楽祭の一環で、楽友協会ブラームス・ザールにおいて同じプログラムでのリサイタルが予定されている。
ロベルト・シューマンの《女の愛と生涯》の第1曲で始まり、その最後の曲で終わる前半は、ロベルトとクララの出会いと結婚、そして彼の死による別離を表しているかのよう。その間で歌われるクララの作品もロベルトとの共作であるOp.12から3曲選ばれ、また同じ曲集の中のロベルトの歌曲も取り上げられている。二人の愛を表すような選曲といえるだろう。
後半、ブラームスの曲目は、彼がデュッセルドルフのシューマン夫妻を訪ね自作を披露し、ロベルト等の高い評価を受けた作品が並ぶ。クララの曲も、《「ユクンデ」による6つの歌》などデュッセルドルフ時代のものを中心に選ばれている。もちろん、ロベルトの死後の彼らの密接な関係をうかがわせるものも含まれている。

カルクは、前回と較べると声の透明感も増し、必要なところでの厚みもしっかり出せるようになってきた。もともと言葉ははっきりとした人だが、より幅の広い表現ができるようになり、説得力を増したといえる。
最初の曲、《女の愛と生涯》の第1曲〈彼をひとめ見たときから〉が歌いだされたとき、このまま全曲聴きたいと思った。それだけこの歌曲集の世界に引き込む力を感じた。だが次に歌われたのは、クララの〈あの人がやって来たのは〉。ピアノの上行音形の繰り返しによって引き出される “Er ist gekommen In Sturm und Regen,” というフレーズが印象的。ロベルトの〈献呈〉を挟んで歌われたクララの〈きれいだから好きというなら〉は、マーラーのリュッケルト歌曲集でも取り上げられている詩によるもの。聴きなれている分、そちらに引きずられてしまうが、こちらも佳曲といってよい。この《リュッケルトの『愛の春』 から12の詩》の歌曲集は、ロベルトの作品番号37,クララの作品番号12とされている。プログラム前半のメインは、クララの作品番号13の歌曲集、ハインリヒ・ハイネ、エマヌエル・ガイベル、フリードリヒ・リュッケルトの詩を用いている。この第1曲〈暗い夢の中に立つぼくは〉は、この後で歌われた〈彼女の肖像〉の改訂版である。同じ詩はシューベルトが《白鳥の歌》で使っていて、これはさすがに緊迫感などシューベルトにはかなわない。とはいうものの、6曲で歌いだされる世界はロベルトとも違っていて、とくにピアノパートの充実は聴きものである。カルクの細やかな歌詞の紡ぎ出し、フーバーのピアノの輝かしい響き、とくに前後奏での集中力は、歌全体を引き締めていた。
後半のプログラムの中心に置かれたのは、クララの《「ユクンデ」による6つの歌》、ヘルマン・ロレットの詩による歌曲集である。1853年の作曲であるが、彼女がそれまで作曲を続けて成熟してきたとは言えない(演奏家で主婦という)状況であり、大きく変わっているわけではない。それでもロベルトとは違った個性が聴きとれる。カルクのなめらかな歌い口は、詩自体より旋律の魅力を自然に感じさせてくれる。

クララ・シューマンという音楽史の中心とは言えない人の作品を取り上げ、見事なプログラムを提示したクリスティアーネ・カルクとゲロルト・フーバーに大きな賛辞を贈りたい。また、彼らの今後の活躍にも期待したい。

(2025/1/15)

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<Performer>
Christiane Karg (Soprano)
Gerold Huber (Piano)

<Program>
Robert Schumann: Seit ich ihn gesehen Op.42-1
Clara Schumann: Er ist gekommen in Sturm und Regen Op.12-2
Robert Schumann: Widmung Op.25-1
Clara Schumann: Liebst du um Schönheit Op.12-4
Robert Schumann: Rose, Meer und Sonne Op.37-9
Clara Schumann: Warum willst du andr’e fragen Op.12-11
Clara Schumann: Sechs Lieder Op.13
   Ich stand in dunklen Träumen / Sie liebten sich beide/ Liebeszauber/
   Der Mond kommt still gegangen/ Ich hab’ in deinem Auge den Strahl / Die stille Lotosblume
Robert Schumann: Die Lotosblume Op.25-7
Clara Schumann: Ihr Bildnis
Robert Schumann: Nun hast du mir den ersten Schmerz getan Op.42-8
—————-Intermission—————-
Clara Schumann: O weh des Scheidens
Johannes Brahms: Sonate für Klavier Nr.2 fis-Moll, Op.2-Scherzo (Piano Solo)
Clara Schumann: Lorelei
Johannes Brahms: Liebe und Frühling II Op.3-3
Clara Schumann: Das Veilchen
Johannes Brahms: An ein Veilchen Op.49-2
Clara Schumann: Sechs Lieder aus “Jucunde” Op.23
   Was weinst du, Blümlein / An einem lichten Morgen / Geheimes Flüstern hier und dort /
   Auf einem grünen Hügel / Das ist ein Tag, der klingen mag/ O Lust, o Lust
Johannes Brahms: Wie Melodien zieht es mir Op.105-1
Clara Schumann: Die gute Nacht, die ich dir sage
Johannes Brahms: Mondnacht WoO21
—————-Encore—————-
Robert Schumann: Mondnacht Op.39-5
Robert Schumann: Zum Schluss Op.25-26