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《倫理的・宗教的な森》全曲演奏シリーズ第2回「諸聖人の晩課」|大河内文恵

エクス・ノーヴォvol. 20 結成10周年記念 《倫理的・宗教的な森》全曲演奏シリーズ第2回「諸聖人の晩課」

2024年11月1日 Hakuju Hall
2024/11/1 Hakuju Hall
Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
Photos by Atsuko Ito (Studio LASP)/写真提供:一般社団法人エクス・ノーヴォ

<出演>        →foreign language

福島康晴 指揮

阿部早希子 ソプラノ
大森彩加 ソプラノ
小川美羽 ソプラノ
小林恵 ソプラノ
木下泰子 メゾソプラノ
田尻健 テノール
新田壮人 カウンターテナー
大野彰展 テノール
近野桂介 テノール
山中志月 テノール
大久保秀時 バス
松井永太郎 バス
目黒知史 バス

宮崎蓉子 ヴァイオリン
鳥生真理絵 ヴァイオリン
PRISM consort of viols:
櫻井茂
折口未桜
清水愛架
羽川恵子
新妻由加 オルガン
矢野薫 ハープ
佐藤亜紀子 テオルボ

<曲目>

モンテヴェルディ:キリエ~〈ミサ・イン・イッロ・テンポレ〉より
グローリア~7声による

諸聖人の祝日の晩課
チーマ:序詞-答唱 〈神よ、わたしを助けに来て下さい〉-〈主よ、急いでわたしを助けてください〉

カッツァーティ:アンティフォナ〈わたしは大群衆を見た〉 ソプラノ独唱:小林恵
モンテヴェルディ:詩編〈主は言われた〉第2番
《8つの教会旋法によるヴェルセット集のオルガンのための簡易なインタヴォラトゥーラ》より 第1旋法によるヴェルセット第1番

カッツァーティ:アンティフォナ〈そしてすべての天使は〉 バス独唱:目黒知史
モンテヴェルディ:詩編〈主よ、あなたに感謝する〉第3番
《8つの教会旋法によるヴェルセット集のオルガンのための簡易なインタヴォラトゥーラ》より 第5旋法によるヴェルセット第1番

カッツァーティ:アンティフォナ〈あなたはわたしたちをあがない〉 テノール独唱:大野彰展
モンテヴェルディ:詩編〈主を畏れる者は幸い〉第1番
《8つの教会旋法によるヴェルセット集のオルガンのための簡易なインタヴォラトゥーラ》より 第5旋法によるヴェルセット

~~休憩~~

カッツァーティ:アンティフォナ〈主をほめたたえよ〉 アルト独唱:新田壮人
モンテヴェルディ:詩編〈主のしもべらよ、主を賛美せよ〉第2番
《8つの教会旋法によるヴェルセット集のオルガンのための簡易なインタヴォラトゥーラ》より 第3旋法によるヴェルセット第1番

カッツァーティ:アンティフォナ〈主のすべての聖人への賛歌〉 ソプラノ独唱:阿部早希子
モンテヴェルディ:詩編〈私は信じる〉~8声による
《8つの教会旋法によるヴェルセット集のオルガンのための簡易なインタヴォラトゥーラ》より 第4旋法によるヴェルセット第2番

モンテヴェルディ:賛歌〈聖人たちの功徳〉第1番

カッツァーティ:アンティフォナ〈ああ天の国はなんと栄光あることか〉 テノール独唱:近野桂介
モンテヴェルディ:マニフィカト~6声による
《8つの教会旋法によるヴェルセット集のオルガンのための簡易なインタヴォラトゥーラ》より 第1旋法によるヴェルセット

モンテヴェルディ:〈めでたし 元后〉~3声による アルト:木下泰子、テノール:山中志月、バス:松井永太郎

 

大量の曲目表示にもめげずここまでたどりついてくださり、ありがとうございます。今のあなたの気持ちとこのコンサートの演奏が始まる前の私の気持ちはきっと同じです。え、これどうなるの?と。

エクス・ノーヴォの10周年を記念した《倫理的・宗教的な森(以下、森)》全曲演奏シリーズの第2回。マドリガーレとミサ曲を中心とした第1回に対し、今回は詩編が主に取り上げられ、グローリアと賛歌と〈めでたし 元后〉が1曲ずつ加えられた選曲であった。詩編の選択も、演奏会当日(11月1日)が「諸聖人の日」であることにちなみ、この日の晩課で演奏されるべき5つの詩編と賛歌を軸にしている。さらに、詩編の前後にはアンティフォナとヴェルセットが演奏されるという凝ったプログラム構成。ゆえに、曲目だけを見ると膨大に見えてしまったのだ。

前回同様、解説と対訳がセットになったプログラム冊子が配布された。ゴンベールのモテットに基づくキリエに続いて、ミサ曲の一部としてではなく単独で《森》に掲載されているグローリア。細かく素早い音の動きに耳を奪われるだけでなく、縦に揃う部分あり、3拍子で揺れる部分ありと次々とエクス・ノーヴォの魅力が繰り出されてくる。さらに楽器との掛け合いもふんだんに盛り込まれ、歌詞が聞こえているのにグローリアであることを忘れそうになった。

詩編1曲目の〈主は言われた〉第2番は、歌唱声部が揃っているところ、各声部でバラバラになっているところ、独唱者数人で歌うソリの部分とさまざまなテクスチャーの交代からなっており、わくわくしながら聴いた。

詩編の前にはカッツァーティによる晩課のためのアンティフォナ集から1曲が演奏され、詩編の後にはオルガン独奏によるヴェルセットが演奏されるというこの構成は、聴き手への配慮が行き届いている。というのも、詩編1つ1つは歌詞の上でも音楽の上でも内容が詰まっていて、情報量が多い。これが次々と切れ目なく演奏されたら、聴き手はおそらく情報過多で受け止めきれなくなってしまうだろう(少なくとも私はそうなると思う)。

アンティフォナと詩編とヴェルセットで1セットという形で進められていくと、1回ずつリセットされ、新たな気持ちで次の詩編と向き合うことができる。アンティフォナやオルガンの後奏は単なる場繋ぎではなく、意味があったのだと聞きながら気づいた。特に2つ目の詩編〈主よ、あなたに感謝する〉第3番は非常に美しい装飾に満ちていて、客席の皆が魂を持っていかれてしまい、ヴェルセットのオルガンの音色で一息ついた。

詩編3曲目の〈主を畏れる者は幸い〉第1番はいかにもモンテヴェルディらしい曲であり、エクス・ノーヴォらしい曲でもある。バッソ・オスティナートにのって、こちらも浮き立つような心持ちで聴く。演奏者の解釈で付け加えられたものではなく、曲そのものがもつグルーヴ感を楽譜から汲み取って音にしていくエクス・ノーヴォならではの強みが発揮された演奏であった。

ここまで前半はあっという間だった。後半は4曲目の詩編〈主のしもべらよ、主を賛美せよ〉第2番のセットが終わると、楽器奏者が入ってくると同時に歌手も位置を変える。5つ目の詩編〈私は信じる〉~8声によるが二重合唱になっているためである。第1合唱隊のみ、第2合唱隊のみ、全体とそれぞれの響きを堪能した。

賛歌〈聖人たちの功徳〉第1番では、第1連はハープ、第2連はテオルボ、第3連はオルガンと伴奏楽器を1つに絞って変化させ、間奏の部分には他の器楽が入る。ここまで歌のことばかり書いてきたが、楽器奏者の活躍もモンテヴェルディの世界を体現させるのに大きな役割を果たしていた。

最後は全員によるマニフィカト。途中でソプラノ2人が後ろに移動してエコーを担当したり、パートソロの部分があったりと個々の技を聞かせる部分がふんだんに盛り込まれており、最後を飾るにふさわしい曲だった。ポピュラー系のコンサートでは最後にソロの即興を入れつつメンバー紹介をする場面をよく見かけるが、それを彷彿とさせた。このマニフィカト以外にもソロで歌われる部分はあちこちにあり、合唱となったときには個性を封印して全体として溶け込んだ音色になるように歌われている一方、ソロではそれぞれがこれぞという名人芸をみせる。エクス・ノーヴォの演奏は、あくまでも自然で作為的なところがどこにもないのに、作品のもつ時代性、様式を明確に示すことで、単に美しい音楽を聴くというだけでなく、当時の文脈ごと体験することを可能にする。来年6月に予定されている第3回、聞き逃す手はない。

(2024/12/15)

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<performers>

Yasuharu FUKUSHIMA conductor

Sakiko ABE soprano
Ayaka OHMORI soprano
Miu OGAWA soprano
Megumi KOBAYASHI soprano
Yasuko KINOSHITA mezzo soprano
Takeshi TAJIRI tenor
Masato NITTA countertenor
Akinobu OHNO tenor
Keisuke KONNO tenor
Shizuki YAMANAKA tenor
Hidetoki OHKUBO bass
Eitaro MATSUI bass
Tomofumi MEGURO bass

Yoko MIYAZAKI violin
Marie TORIU violin
PRISM consort of viols:
Shigeru SAKURAI viola da gamba
Miou ORIGUCHI viola da gamba
Aika SHIMIZU viola da gamba
Keiko HAGAWA viola da gamba
Yuka NIITSUMA organ
Kaoru YANO harp
Akiko SATO theorbo

<program>

Claudio Monteverdi: Kyrie, Missa da capella a sei voci, fatta sopra il motetto IN ILLO TEMPORE del Gomberti
Monteverdi: Gloria, A7 voci

Vesperae in Festo Omnium Sanctorum

Giovanni Paolo Cima: Versiculus: Deus, in adjutorium meum intende – Responsorium: Domine ad adiuva dum me festina

Maurizio Cazzati: Antiphona: Vidi turbam magnam
Monteverdi: Psalmus: Dixit Secondo
Intavolatura d)Organo Facilissima, Accomodata in versetti sopra gli Otto Tuoni Ecclesiastici Versetto: I del Primo Tuono

Cazzati: Antiphona: Et omnes angeli
Montverdi: Psalmus: Confitebor Terzo
Versetto: I del Quinto Tuono

Cazzati: Antiphona: Redimisti nos
Monteverdi: Psalmus: Beatus Primo
Versetto: V Tuono

–intermission—

Cazzati: Antiphona: Benedicite Dominum
Monteverdi: Psalmus: Laudate Pueri Secondo
Versetto: I del Terzo Tuono

Cazzati: Antiphona: Hymnus omnibus Sanctis ejus
Monteverdi: Psalmus: Credidi a 8 voci da capella
Versetto: II del Quarto Tuono

Monteverdi: Hymnus: Sanctorum meritis Primo

Cazzati: Antiphona ad Magnificat: O quam gloriosum est regnum
Monteverdi: Magnificat
Versetto: I Tuono

Monteverdi: Salve Regina