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NISSAY OPERA 2024 ガエターノ・ドニゼッティ:《連隊の娘》|藤堂清

NISSAY OPERA 2024
ガエターノ・ドニゼッティ:《連隊の娘》
オペラ全2幕〈フランス語上演/日本語字幕付〉
Gaetano Donizetti: La fille du régiment
Opera in Two Acts
Sung in the original language [French] with Japanese subtitles

2024年11月10日 日生劇場
2024/11/10 Nissay Theatre
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 長澤直子 (Naoko Nagasawa)

<スタッフ>        →foreign language
指揮:原田慶太楼
演出:粟國 淳(日生劇場芸術参与)
美術:イタロ・グラッシ
照明:稲葉直人(A.S.G)
衣裳:武田久美子
ヘアメイク:橘 房図
振付:伊藤範子
合唱指揮:三澤洋史

<キャスト>
マリー:熊木夕茉
トニオ:小堀勇介
ベルケンフィールド侯爵夫人:鳥木弥生
シュルピス:町 英和
オルテンシウス:森 翔梧
伍長:市川宥一郎
農民:工藤翔陽
クラッケントルプ公爵夫人:金子あい
公証人:阿瀬見貴光
従者:大木太郎

管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:C.ヴィレッジシンガーズ

 

《連隊の娘》は、ドニゼッティが1838年10月にパリに拠点を移してから新たに作曲したオペラ。オペラ・コミック座で1840年2月に初演されている。歌と歌の間を台詞でつなぐ「オペラ・コミック様式」の喜劇的な作品である。歌も台詞もフランス語という点が日本での上演を難しくしている。今回の上演では台詞のカットは少なくし、舞台の進行が分かりやすいようにしていた。
簡単に登場人物とあらすじを書いておこう。チロル地方の山村、人々が敵フランス軍をおそれているところに、ベルケンフィールド侯爵夫人が登場、状況を嘆く。そこへ退却したはずのフランス軍の軍曹シュルピスが登場、人々は逃げ去る。連隊の中で働く娘マリーが現れ、シュルピスとともに連隊の生活を歌う。そこへチロルの青年トニオを引き立てて兵士たちが出てくる。マリーが自分の命の恩人だと言うので、皆納得。点呼のため兵士らが去ると、マリーとトニオは愛を確かめあう。侯爵夫人とシュルピスのやりとりから、マリーが夫人の姪であることが分かり、ともに旅立つことになる。一方マリーと一緒にいたいトニオは連隊に新兵として加わることにして、その喜びを歌う。だが、マリーが夫人とともに行ってしまうことを知り絶望する。第2幕は侯爵夫人の邸宅。マリーは嗜みのため歌のレッスンを受けているが、飽き飽きしている。そこへ連隊とともにトニオも登場、すっかり元気になりシュルピスも交え3人で歌う。クラッケントルプ公爵と結婚することとされていたマリーだが、実はベルケンフィールド侯爵夫人の娘であることがはっきりし、最後には侯爵夫人もマリーが愛しているトニオと結婚することを認める。

第1幕、舞台の背景はチロルの山の写真のジグソーパズル、はまっていないピースがいくつかあり、穴があいている。この演出ではオモチャの世界の話として進められていく。フランス軍の連隊の構成員は、戦争ごっこなど男の子が遊ぶキャラクター。一方マリーのもともと属していたはずの貴族の世界の人々は、着せ替え人形で表わされる。無理な読み替えではなく、ほっこりした雰囲気の舞台。踊りの間で、衣装を受け渡し、着替えさせていくなど、見ていて楽しい趣向もあり、客席の笑いを誘っていた。

演奏面では、まず主役2人の充実に注目。
マリーを歌った熊木夕茉はこれがオペラデビューというのだが、実にしっかりした歌。シュルピスやトニオとの重唱では言葉のやりとりがはまっている。第1幕最後のロマンス〈行かなくちゃならないの〉での悲し気な表情も的確。全体として、ベルカントの技術も冴えをみせた。楽しみな若手の出現といえる。一方のトニオの小堀勇介、超高音が連続する〈僕にとっては何という幸運〉で見事な歌を聴かせた。場内の興奮はおさまらず、アンコールで再度高音を響かせた。第2幕でのロマンス〈マリーの傍に居るために〉ではしっとりとした歌で、幅広い技巧を示した。
準主役ということになるだろうか、ストーリー展開で重要な役割を果たすベルケンフィールド侯爵夫人の鳥木弥生は、ベテランの味というべきか、特に台詞まわしで存在感を示した。また、シュルピスの町英和も重唱でしっかりと低音から支えていた。
指揮の原田慶太楼は読売日本交響楽団からがっちりとした音を引き出す。オペラ・コミック様式とは決して軽い音ではなかったのだと示しているようだった。

高い水準で作り上げたこのプロダクション、一般公開は2回だが、その他に「日生劇場オペラ教室」として3回の公演が中高生を対象に行われている。若いうちにこのような体験ができることはすばらしいこと。おそらく多くが、将来聴衆となっていくことだろう。

(2024/12/15)

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<Staff>
Conductor: Keitaro Harada
Director: Jun Aguni (Nissay Theatre Art Advisor)
Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra
Chorus: C. Village Singers

[Cast]
Marie: Yuma Kumaki
Tonio: Yusuke Kobori
La marquise de Berkenfield: Yayoi Toriki
Sulpice: Hidekazu Machi
Hortensius: Shogo Mori