東京二期会オペラ劇場 ワーグナー:《タンホイザー》|藤堂清
東京二期会オペラ劇場 リヒャルト・ワーグナー:《タンホイザー》
Richard Wagner: TANNHÄUSER, Tokyo Nikikai Opera Theatre
全3幕〈ドイツ語上演/日本語字幕付〉
2024年3月2日 東京文化会館大ホール
2024/3/2 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 寺司正彦/写真提供:公益財団法人東京二期会
<スタッフ> →foreign language
指揮:アクセル・コーバー
演出:キース・ウォーナー
演出補:カタリーナ・カステニング
装置:ボリス・クドルチカ
衣裳:カスパー・グラーナー
照明:ジョン・ビショップ
振付:カール・アルフレッド・シュライナー
映像:ミコワイ・モレンダ
合唱指揮:三澤洋史
音楽アシスタント:石坂宏
演出助手:彌六
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
公演監督補:大野徹也
<キャスト>
ヘルマン:加藤宏隆
タンホイザー:サイモン・オニール
ヴォルフラム:大沼徹
ヴァルター:高野二郎
ビーテロルフ:近藤圭
ハインリヒ:児玉和弘
ラインマル:清水宏樹
エリーザベト:渡邊仁美
ヴェーヌス:林正子
牧童:朝倉春菜
4人の小姓:本田ゆりこ
黒田詩織
実川裕紀
本多都
合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
タイトルロールのタンホイザーを歌ったサイモン・オニールの独り舞台。強靭な声、明晰な言葉、どこをとっても頭抜けている。多くのワーグナーのテノールの役を歌ってきた彼だが、タンホイザーは今回がロールデビューであったという。そんなことは信じられないような完成度の高さ。第1幕のヴェーヌスとの重唱、第2幕の歌合戦の場面、そして第3幕のローマ語り、どれもがドラマとなり、聴き応え十分。
今回の公演は、2021年2月コロナ禍の真っ最中にさまざまな制約の中、上演した舞台の再演である。
指揮者はアクセル・コーバー、前回も予定されていたが来日することができず、セバスティアン・ヴァイグレが代わって指揮台に立った。今回はそのリヴェンジということになる。演出家のキース・ウォーナーも前回は来日しての指導はできず、彼にとって不本意なところがあったかもしれない。今回は3年前に予定されていたとおりの体制での上演が実現した。
この演出はキース・ウォーナーがフランス国立ラン歌劇場のために制作したもの。
舞台の奥に小さな舞台を設けている。この内側の舞台はまるで枠付きの絵画のよう。絵は、自然の中で踊る裸の男女、狩の獲物を担いだ男たち、歌合戦の場面といったもの。そこで静止していた歌手やダンサーが前方の舞台に飛び出してきて、ヴェーヌスベルクを表す娼館、タンホイザーを迎え入れようとする騎士の一団となる。第3幕では荒野の中に置かれた処刑台といったおもむき、エリーザベトは自己犠牲のため、そちらへ重い足取りで向かっていく。
外側の舞台の上にはバルコニーのような構造があり、そこから舞台をながめている人々がいる。第2幕の歌合戦ではヴェーヌスも立って見ており、タンホイザーが彼女に手をふる場面もあった。このような二重三重の構造というのは興味深いが、意図するところが明確とは言えない。
最後のシーン、タンホイザーは三角錐状のはしごを登っていき、天上から迎えるようにさがってきているエリーザベトに手を伸ばす。二人の手がふれあったところで暗転、彼が救済されたことを示したということか。
前回も書いたが、新国立劇場で《ニーベルングの指輪》の演出を行った当時のウォーナーに感じた「こんな考え方があるのか」「こう展開するか」といった驚きにみちた舞台にくらべると、おとなしく整理された印象を受けた。
演奏だが、ワーグナーの指揮で実績の豊富なアクセル・コーバー、堅実な音楽づくり。読売日本交響楽団も弾きやすいようで、美しい響きと精緻なアンサンブルで聴かせた。とりわけ歌手をサポートする指揮ぶりで、オーケストラの音量、息継ぎなど、歌いやすいように配慮が行き届いている。オニール以外の日本人歌手たちも、彼らの最良の歌を聴かせていたと言ってよいだろう。ヴォルフラムの大沼徹、ヴァルターの高野二郎、ビーテロルフの近藤圭は、2021年の公演にもそれぞれ同じ役で出演しており、その経験は生きていた。
とはいうものの、初役のオニールのこれぞワーグナーという歌唱を考えると、まだまだ上があると言わざるを得ない。なにが違うか。まず声自体のダイナミクスの幅に差がある。強声、弱声、ともにその響きを支えるためには強い筋力が必要。こういった肉体的な差異を縮める努力が必要だろう。さらに表現の点でも、フレーズの作り方で音楽が生きてくるし、言葉が明確に聞こえる、それをいかに習得していくかも課題だろう。オニールという比較対象がいたがためではあるが、さらなる努力がのぞまれる。
エリーザベトの渡邊仁美は、パワーという点では少し弱いが、丁寧な歌唱で安心して聴いていられる。ヴェーヌスの林正子の厚みのある声は、この役には合っているが、単調に聴こえる。ヴォルフラムの大沼徹は〈夕星の歌〉ではしっかりとした歌を聴かせた。ヘルマンの加藤宏隆はがっちりと低音域から支えた。前回に較べると、全体としてもレベルアップが見られたといえるだろう。
タンホイザーにサイモン・オニールを招聘できたことが大きな違いをうんだことは間違いないが、3年という短期間に再上演した意味は十分に感じられた。
(2024/4/15)
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<STAFF>
Conductor: Axel KOBER
Stage Director: Keith WARNER
Revival Stage Director : Katharina KASTENING
Set Designer: Boris KUDLIČKA
Costume Designer: Kaspar GLARNER
Lighting Designer: John BISHOP
Choreographer: Karl Alfred SCHREINER
Video Designer: Mikołaj MOLENDA
Chorus Master: Hirofumi MISAWA
Musical Assistant: Hiroshi ISHIZAKA
Assistant Stage Director: Miroku
Stage Manager: Hiroshi KOIZUMI
Production Director: Noriko SASAKI
Assistant Production Director: Tetsuya ONO
<CAST>
Hermann: Hirotaka KATO
Tannhäuser: Simon O’NEILL
Wolfram von Eschenbach: Toru ONUMA
Walther von der Vogelweide: Jiro TAKANO
Biterolf: Kei KONDO
Heinrich der Schreiber: Kazuhiro KODAMA
Reinmar von Zweter: Hiroki SHIMIZU
Elisabeth: Hitomi WATANABE
Venus: Masako HAYASHI
Ein junger Hirt: Haruna ASAKURA
Vier Edelknaben: Yuriko HONDA
Shiori KURODA
Yuki JITSUKAWA
Miyako HONDA
Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra