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濱田芳通&アントネッロ 第15回定期公演 G.F.ヘンデル オラトリオ メサイア|大河内文恵

濱田芳通&アントネッロ 第15回定期公演 G.F.ヘンデル オラトリオ メサイア
G.F. Handel Messiah HWV56
2023年11月24日 川口総合文化センター・リリア 音楽ホール
2023/11/24 KAWAGUCHI LILIA Music Hall

Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
写真提供:アントネッロ合同会社

<出演>        →foreign language
独唱/合唱
ソプラノ:大森彩加・金沢貴恵・陣内麻友美・中川詩歩・中山美紀
アルト(カウンターテナー):上杉清仁・中嶋俊晴・新田壮人・彌勒忠史
テノール:小沼俊太郎・田尻健・中嶋克彦・前田啓光
バス:坂下忠弘・谷本喜基・松井永太郎・牧山亮

管弦楽:アントネッロ
バロック・ヴァイオリン:天野寿彦・廣海史帆・大下詩央・阪永珠水・遠藤結子・佐々木梨花
バロック・ヴィオラ:丹沢広樹・本田梨紗
バロック・チェロ:武澤秀平
ヴィオローネ:布施砂丘彦
バロック・オーボエ:小花恭佳
ナチュラル・トランペット:阿部一樹・小野美海
ティンパニ:井手上 達
テオルボ:高本一郎
チェンバロ:曽根田 駿
オルガン:上羽剛史

 

2021年に一大センセーションを巻き起こしたアントネッロのメサイア。公演後にあちこちで見かけた評判に「これは聴いておくべきだった」と後悔した。都合がつかなかったのもあるが、今更メサイア?と思ったのも少しだけある。メサイアは、聞くよりも歌うほうが楽しめる曲であるし、ハレルヤまではいい曲もいくつかあるけれど、ハレルヤのあとは消化試合のように思えていたからだ。

コンサートに向かう前に、出演者の顔写真を見ながらメサイアの音源を聴いた。5月のマタイ受難曲を聴いた経験から、きっとそれぞれの歌手にぴったりの曲を割り振るのだろうと思われたからだ。このアリアは誰が歌うのだろう?と予想する時間はとても楽しかった。もうここからアントネッロの術中にはまっていたのかもしれない。

今回は字幕なし。そのため、ストーリーに気を取られず音楽に集中して聴くことができたように思う。最初のうちは手元の対訳を見ながら聞いていたのだが、だんだんそれがもったいないような気がしてきて、まっすぐ舞台を見て聞いた。英語だからそれが可能ということもあるだろうが、歌手も楽譜を持ってはいても、ほとんど暗譜で歌っている人もおり、音楽を介して舞台と繋がれたような感覚になった。

濱田の指揮ぶりから目が離せなくなったというのもある。毎度フィギュアスケートの比喩で恐縮だが、表現が上手いスケーターは足元のターンやステップだけでなく、たとえば足で曲のベースラインを追いながら、上半身と肩や手、顔の向きで他の声部の音を拾って表現する。濱田の指揮も同様で、体幹のグルーヴ感を起点として、体の向きや右手、左手の動きで音楽をすべて表していて、動きを見ているだけでどんな音が出てくるかわかる。演奏者たちが瞬時にそれに反応して、本当にその通りの音が聞こえてくる面白さ。対訳にかじりついていてはもったいない。

個別には挙げないが、ソロの割振りが今回も見事。それぞれに聴かせどころを配置し、濱田が1人1人に書き下ろしたという装飾がぴたりとはまっている。今回、続いているレチタティーヴォとアリアを別の歌手が歌うという箇所があった。オペラならば1つの役を二人でやることはあり得ないが、メサイアの場合には役がないためにこんなことができるのだと驚く。

メサイアは合唱をアマチュアで演奏することが多いが、今回は全員がソリストなので、合唱のレベルの高さに舌を巻いた。まず4番の合唱で、その立体的な響きに度肝を抜かれ、「この曲べつにそんなにすごい曲じゃなかったよね?」と思いつつも、足元から鳥肌が立った。この曲でこのレベルということはこの先どうなってしまうのか?と眩暈がした。案の定、7番の合唱の透明感の高さですでに涙目になった(1)

続くレチタティーヴォはリュートとオルガンとチェロのみで秀逸。ここに限らず、伴奏楽器の選択がピタリピタリとはまっていく。8番のアリアではヴァイオリン・ソロを担当した天野と歌手のやりとりに心を奪われる。

12番ピーファでは、濱田がリコーダーを演奏して田園を表象するとともに、天野がヴァイオリンをバグパイプに持ち替えて演奏。一気にクリスマス感が上昇する。短い曲だが客席が湧きたつのが感じられる。

15番の合唱で盛り上がるとそこから聴きどころのソロが目白押しで興奮のうちに第1部最後の合唱まで一気に進む。ここまであっという間だった。休憩を挟んで、第2部と第3部は続けて演奏された。

21番の合唱では、歌が始まった途端、ぞわっとした。一音一音の和声の移り変わりが明快で小気味よい。23番の合唱のグルーヴ感に酔いしれる。30番の合唱はハモりの精度の高さに唸った。こんな曲だったのかと。33番は速いテンポで歌詞が入るのだが、それが全員きちんとそのテンポで歌えているので、揃い方が尋常ではない。

続く34番のアリアは中川の甘い声と歌詞の内容、旋律が三位一体となって調和しており、ここから怒涛の名演が続く。38番のテノールのアリアでの器楽の合いの手が煽りになっていて、いやが応にも盛り上がる。

続くハレルヤでは、たっぷりの「ため」を作ったり、The kingdom of this world(この世の国は)からテンポを尋常でないほど落とすなど、これまで聞いたことのないもの。最後のティンパニのかっこよさと最後の1回だけハレルヤをシュプレヒシュティンメのように音程を感じさせない歌い方をしたところが独特でありながら、そう来たか!と唸った。当然大拍手。

第3部はいつもオマケのように聞こえてしまうのだが、1曲たりとも飽きさせないのはさすが。46番でゼクエンツが出てきて、ようやくここでか!と思うと同時に、ここまでこういった技巧を使わずに書ききったヘンデルも偉いなと初めて思う。最後の合唱の見事さは言うまでもないだろう。

プログラムに記載された濱田による「演奏ノート」にはフィグーラ(言葉と音との対応関係)の例がごく一部のみ記載されていたが、おそらく全篇をくまなく探究し、どこにどんな装飾を入れ、誰を配置し、楽器をどう扱うか、どう演奏するかといった具体的な論点まで落とし込んでいったのだろう。その過程を想像すると気が遠くなる。その果てしない作業の末に出来上がったこの演奏、また聴きたいと思った。

(2023/12/15)

(1)各曲の番号はパンフレットでの番号を用いています。歌詞の訳はパンフレンットに記載のものを引用しました。

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<performers>
Soli / Chor
Soprano:Ayaka OMORI, Kie KANAZAWA, Mayumi JINNOUCHI, Shiho NAKAGAWA, Miki NAKAYAMA
Countertenor: Sumihito UESUGI, Toshiharu NAKAJIMA, Masato NITTA, Tadashi MIROKU
Tenor: Shuntaro KONUMA, Takeshi TAJIRI, Katsuhiko NAKASHIMA, Hiromitsu MAEDA
Bass: Tadahiro SAKASHITA, Yoshiki TANIMOTO, Eitaro MATSUI, Ryo MAKIYAMA

Anthonello:
Violin: Toshihiko AMNO, Shiho HIROMI, Shio OHSHITA, Tamami SAKANAGA, Yuko ENDO, Rika SASAKI
Viola: Hiroki TANZAWA, Risa HONDA
Violoncello: Shuhei TAKEZAWA
Violone: Sakuhiko FUSE
Oboe: Yasuka KOBANA
Trumpet: Kazuki ABE, Yoshimi ONO
Timpani: Toru IDEUE
Theolbo: Ichiro TAKAMOTO
Cembalo: Hayao SONEDA
Organ: Tsuyoshi UWAHA