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ファビオ・ルイージ 指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団|秋元陽平

ファビオ・ルイージ 指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団|秋元陽平
Royal Concertgebouw Orchestra conducted by Fabio Luigi

2023年11月9日 文京シビックホール
2023/11/9 Bunkyo Civic Hall
Reviewed by 秋元陽平(Yohei Akimoto)

Photos by K.MIURA/写真提供: 公益財団法人文京アカデミー

<キャスト>         →Foreign Languages
ファビオ・ルイージ(指揮)
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

<曲目>
ビゼー:交響曲第1番
ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」

 

異なる二つの都市では吹く風の匂いだけでなく、ひとびとの時間感覚や礼儀作法が異なるように、異なる二つのオーケストラでも、音色のみならず、そこに堆積する芸術的慣習、エトスとでも言うべきものの違いがあって、それは街角の風景や商慣習のようにひとつの<人間的自然>を形成している、そのことは頭では分かってはいたが、改めてロイヤル・コンセルトヘボウという街の相貌は群を抜いてユニークだ。それは、こんにちどこの一流オケにも当てはまるような、個々のプレイヤーの巧さが精緻に組織される「粒度の高さ」にとどまらない。むしろ、ホルン、ブラス、木管といったセクション単位のまとまり、ソロでもトゥッティでもない中間的な色のユニットがあって、それが複合体として音響をつくりだすというところに新鮮さがある。街がその内部に、いくつもの異なる路地をもつように。その街を訪れた指揮者のファビオ・ルイージは、着実かつ丁寧なタクトを頼りに、一歩一歩踏みしめるようにしてひとつひとつの街頭を照らしていく。ビゼーの若書きの交響曲は、わたしにはフランス版ロッシーニとでもいうべき、歌のないオペラとして記憶されていたのだが、ルイージの解釈はより言語アクセントの強い独墺系のオペラのような、たとえばウェーバーふうと言ってもいい趣だ。けっして重々しいというわけではない、端正で、地に足がついたエレガンス。もっと軽やかな推進力があっても良いような気もしたが、ひとつひとつの音響をつまびらかにするからこそ、前述のオーケストラの美質がより輝くことは確かだ。
いずれにせよルイージとコンセルトヘボウの出会いは、ドヴォルザークにおいてよりはっきりとその果実を結んだように見える。さきほど書いた、セクションの織りなす「面」の魅力でいえば、ドヴォルザークがしばしばセクションの2番以下の奏者に与える複雑な役まわりによってそれがより広がりをもち、加えて「点」の魅力、つまり個々のプレイヤーがソリストとして、いやむしろオペラのアリアでスポットを当てられるような、そうした部分がぐっとせり出してくる。
わたしがこれまでにこの曲の実演で聴いたうちでも最上級の、忘れ難いソロがフルート、オーボエ、コールアングレなどできかれ、改めてこの作曲家の類稀な歌心に思い至ったが、これは一流のオーケストラに卓越したソリストがいるという、そうした当たり前の事実だけを意味するのではない。セクションの面の厚みが、いわば美しい舞台背景のようにこれらのソリストを支えることに成功しているからだろう。このような立体構造のなかで、オーケストラにtuttiとしての魅力が生まれる。点、面、立体。この多層性が、このオーケストラの強みであり、オペラで鍛えたルイージの手腕はそれを引き出すことで、ドヴォルザークですらひとつの楽劇のように、さまざまなスケールを交錯させながらみごとに響かせたのだった。

(2023/12/15)

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<Cast>
Fabio Luigi (Cond.)
Royal Concertgebouw Orchestra

<Program>
Bizet : Symphony No.1
Dvořák : Symphony No.9 “From the New World”