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ベンヤミン・アップル バリトン・リサイタル ~魂の故郷|藤堂清

ベンヤミン・アップル バリトン・リサイタル ~魂の故郷
Benjamin Appl Bariton Recital ~Heimat 

2023年11月28日 浜離宮朝日ホール
2023/11/28 Hamarikyu Asahi Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 

<出演>        →Foreign Language
ベンヤミン・アップル(バリトン)
ジェームズ・ベイリュー(ピアノ)

<プログラム>
◇序章
シューベルト:至福 D433

◇由来
レーガー:こどもの祈り op.76 No.22
シューマン:もう春だ op.79 No.23
ブラームス:子守歌 op.49 No.4

◇場所
シューベルト:ひとり住まいの男 D800
ブラームス:月の夜 WoO 21
シュレーカー:森の孤独

◇ひとびと
ブラームス:ぼくのあの子の唇は赤い WoO 33 No.25
R.シュトラウス:万霊節 op.10 No.8
シューベルト:夜曲 D672

◇旅にて
シューベルト:遠くへ行きたい D770
       さすらい人が月に寄せて D870
A.シュトラウス:ぼくはかたく信じている

——————(休憩)——————

◇憧れ
シューベルト:郷愁 D456
       さすらい人 D489

◇国境を越えて
プーランク:ハイド・パーク FP127 No.2
ブリテン:グリーンスリーヴズ
ヴォーン=ウィリアムズ:静かな午後
ビショップ:ホーム・スウィート・ホーム(埴生の宿)
ウォーロック:私の故郷
ウォーロック:独り身
アイアランド:もし売られている夢があるなら

◇エピローグ
グリーグ:6つの歌 op.48
     挨拶
     いつの日か わが思いよ
     世のならい
     秘密を守る夜うぐいす
     薔薇の季節に
     
—————(アンコール)—————
ヴァイル:ユーカリ
岡野 貞一:故郷
シューベルト:音楽に

 

この日のプログラムは『ハイマット(Heimat)』と題されている。このドイツ語は、しばしば「故郷」「家」という意味で訳されるが、その一言では表すことができないニュアンスがあり、人の誕生と幼年期、その言語、最も初期の経験などを含んでいる。そういった説明を加えられてリサイタルは始められた。「魂の故郷」という日本語タイトルは、少しでも意味を近づけようとしてのものだろう。

ベンヤミン・アップル、1982年ドイツ生まれのバリトン、活動の中心はリサイタルやコンサートのようで、オペラ出演の予定は少ない。CDなどの録音も歌曲がほとんどである。この日と同じタイトルの“Heimat”という録音(一部曲目は異なるが)も発売されている。その彼がどのように歌うか楽しみに臨んだ。

結論からいえば、プログラムの構成のみごとさと較べると、個々の歌の完成度はかなりバラツキがあった。
最初のシューベルトの〈至福〉、こんなに気張らなくてもよいだろうと思うほど、全体に大きな声で歌い通した。この曲の後に前述の説明を加えた。話をし終えたことで落ち着きを取り戻したのか、「由来」と名付けられたグループ(子どもやことの初めがテーマか?)では力みはなくなった。丁寧に歌っており、言葉も自然に伝わってくるが、その曲でそれ以上に何か表現しようというものは聴こえてこない。続くグループでも、〈ひとり住まいの男〉の平板な歌に対し、〈森の孤独〉では表情の変化がみられるというような状態。
とここまで聴いて、彼の表現は、各曲をどのように歌うかではなく、グループとして選曲したこと自体なのではないかと考えた。したがって、曲ごとに表情を付けたりせずに、ごく自然に歌うことで十分であると。「ひとびと」というグループ、〈ぼくのあの子の唇は赤い〉〈万霊節〉〈夜曲〉をそういった観点で聴いてみると、若々しい思いの発露、亡き人をしのぶ気持ち、そして死に向かう人というつながりが浮かぶ。その変化を楽しめばよい。
後半の「国境を越えて」というグループでは、1曲ごとに表情が大きく変わる。それぞれの表現をそのまま受け止めることができた。
最後のグリーグの6曲には連作歌曲というほどのつながりはない。各曲の表現を楽しみながらも、もっと踏み込んだ歌を聴きたいとも感じた。

アップルの声楽家としての技術に疑いはない。だが、もう一段のぼるためには、より細かな表現力が必要だろう。今後に期待したい。
終わりになったが、ジェームズ・ベイリューのピアノが着実で、安心して聴いていられたことは書いておきたい。

(2023/12/15)

<Player>
Benjamin Appl (Bariton)
James Baillieu (Piano)

<Program>
Schubert: Seligkeit D 433
Reger: Des Kindes Gebet Op.76/22
Schumann: Er Ist`s Op.79/23
Brahms: Wiegenlied Op.49/4
Schubert: Der Einsame D 800
Brahms: Mondnacht Woo 21
Schreker: Waldeinsamkeit
Brahms: Mein Madel Hat Einen Rosenmund
R.Strauss: Allerseelen Op.10/8
Schubert: Nachtstuck D 672
Schubert: Drang In Die Ferne D 770
Schubert: Der Wanderer An Den Mond D 870
A.Strauss: Ich Weiss Bestimmt. Ich Werd` Dich Wiedersehen
————(Intermission)————
Schubert: Das Heimweh D 456
Schubert: Der Wanderer D 489
Poulenc: Hyde Park Fp127/2
Britten: Greensleeves
V.Williams: Silent Noon (From `the House Of Life`)
Bishop: Home. Sweet Home
Warlock: My Own Country
Warlock: The Bachelor
Ireland: If There Were Dreams To Sell
Grieg: Sechs deutsche Lieder Op.48
    1.Gruss
    2.Dereinst, Gedanke Mein
    3.Lauf Der Welt
    4.Die Verschwiegene Nachtigall
    5.Zur Rosenzeit
    6.Ein Traum
—————(Encore)—————
Weill: Youkali
Okano: Furusato
Schubert: An die Musik D 547