プッチーニ:修道女アンジェリカ & ラヴェル:子どもと魔法|藤堂清
ジャコモ・プッチーニ:修道女アンジェリカ<新制作>
Suor Angelica / Giacomo Puccini
全1幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
モーリス・ラヴェル:子どもと魔法<新制作>
L’Enfant et les Sortilèges / Maurice Ravel
全2部〈フランス語上演/日本語及び英語字幕付〉
2023年10月7日 新国立劇場オペラパレス
2023/10/7 New National Theatre Tokyo, Opera Palace
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 寺司正彦/写真提供:新国立劇場
スタッフ →Foreign Languages
【指 揮】沼尻竜典
【演 出】粟國 淳
【美 術】横田あつみ
【衣 裳】増田恵美
【照 明】大島祐夫
【振 付】伊藤範子
【舞台監督】髙橋尚史
キャスト
《修道女アンジェリカ》
【アンジェリカ】キアーラ・イゾットン
【公爵夫人】齊藤純子
【修道院長】塩崎めぐみ
【修道女長】郷家暁子
【修練女長】小林由佳
【ジェノヴィエッファ】中村真紀
【オスミーナ】伊藤 晴
【ドルチーナ】今野沙知恵
【看護係修道女】鈴木涼子
【托鉢係修道女1】前川依子
【托鉢係修道女2】岩本麻里
【修練女】和田しほり
【労働修道女1】福留なぎさ
【労働修道女2】小酒部晶子
《子どもと魔法》
【子ども】クロエ・ブリオ
【お母さん】齊藤純子
【肘掛椅子/木】田中大揮
【安楽椅子/羊飼いの娘/ふくろう/こうもり】盛田麻央
【柱時計/雄猫】河野鉄平
【中国茶碗/とんぼ】十合翔子
【火/お姫様/夜鳴き鶯】三宅理恵
【羊飼いの少年/牝猫/りす】杉山由紀
【ティーポット】濱松孝行
【小さな老人/雨蛙】青地英幸
【合唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】世田谷ジュニア合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
新国立劇場のダブルビル・シリーズ、今回はプッチーニの《修道女アンジェリカ》とラヴェルの《子どもと魔法》を組み合わせて上演。共通するテーマは「母と子」というのだが、両者を結び付ける共通性はあまり感じられない。演出の粟國がプログラムに書いているように「それぞれ独立した作品」として受け取ったほうがよいだろう。
《修道女アンジェリカ》は修道院という閉鎖的で均質と思われる世界の中での出来事。それでも各人のひそかな希望を聞いていくとさまざまな思いがあることが分かってくる。アンジェリカは未婚で息子を産んだためにここに入ることになったのだが、その子の消息を7年の間知りたがっていた。アンジェリカが植物の薬効にくわしいことも挿話として示される。
アンジェリカの叔母である公爵夫人が面会に来て、アンジェリカの妹が結婚するので親の遺産の相続権を放棄するよう求める。アンジェリカが息子の消息を尋ねると、2年前に病死したと告げられる。母なしで死んだ子に思いをはせ、泣き崩れるアンジェリカ。天国での息子との再会を望み、薬草を煎じてあおるが、自殺者は天国に行けないと気付き、聖母マリアに慈悲を請う。すると天国の合唱とともに聖母が子供を伴ってあらわれる。子供に手を差し伸べ、息たえるアンジェリカ。ただ、今回の演出では最後の奇跡を目に見える形では表さなかった。
主役アンジェリカを歌ったキアーラ・イゾットンは厚みのある均質な声で安定した歌であった。子供の死を聞いたときの絶望の表現、歌唱でも演技でもすぐれていた。公爵夫人はこのオペラの中でアンジェリカに次いで重要な役柄。齊藤純子のアンジェリカに弱みを見せまいとしながら対峙する姿勢、表現として意味があった。
暗めで色彩の変化の少ない舞台も、この目立つ動きがないオペラにふさわしいものであった。
《子どもと魔法》では、母親にしかられ罰を受けた腹いせに部屋のものに当たり散らした子どもに対し、いろいろなものが動き出し、追いかけ回したりする。肘掛椅子、安楽椅子、柱時計、ティーポットと中国茶碗、暖炉の火などが多様な色彩や形で表現される。動きも大きく前半の《修道女アンジェリカ》とは対照的な舞台。
庭でもそれまでいじめられていた樹木やリス、トンボなどの動物たちが子どもを取り囲み、糾弾していく。その騒ぎのなかでリスがケガをする。子どもが手当をするのをみた動物たちは、そのやさしさに気付き、気絶した子どもを家に連れて行く。彼が「ママ」と呼んだところで幕となる。
カラフルでバレエなど変化も多く、まず見た目で楽しませてくれた。主役の子どもを歌ったクロエ・ブリオはこの役を得意としているとのこと、言葉も美しく、またいかにも子どもという動きができる、ピッタリの配役であった。彼をとりまくものや動物たちは、二役、三役、四役という歌手もいたが、皆立派に歌っていた。
オーケストラもこちらの方が色彩感があったように思う。
静と動、暗と明、対照的な舞台を見せたダブルビル、それぞれに楽しませてもらった。
(2023/11/15)
Conductor: NUMAJIRI Ryusuke
Production: AGUNI Jun
Set Design: YOKOTA Atsumi
Costume Design: MASUDA Emi
Lighting Design: OSHIMA Masao
Choreographer: ITO Noriko
<CAST>
“Suor Angelica”
Suor Angelica: Chiara ISOTTON
La zia principessa: SAITO Junko
La badessa: SHIOZAKI Megumi
La suora zelatrice:GOKE Akiko
La maestra delle novizie: KOBAYASHI Yuka
Suor Genovieffa: NAKAMURA Maki
Suor Osmina: ITO Hare
Suor Dolcina: KONNO Sachie
La suora infermiera: SUZUKI Ryoko
Prima cercatrice: MAEKAWA Yoriko
Seconda cercatrice: IWAMOTO Mari
La novizia: WADA Shihori
Prima conversa: FUKUDOME Nagisa
Seconda conversa: OSAKABE Akiko
“L’Enfant et les Sortilèges”
L’Enfant: Chloé BRIOT
Maman: SAITO Junko
Le Fauteuil / Un Arbre: TANAKA Taiki
La Bergère / Une Pastourelle / La Chouette / La Chauve-Souris: MORITA Mao
L’Horloge Comtoise / Le Chat: KONO Teppei
La Tasse Chinoise / La Libellule: SOGO Shoko
Le Feu / La Princesse / Le Rossignol: MIYAKE Rie
Un Pâtre / La Chatte / L’Écureuil: SUGIYAMA Yuki
La Théière (Wedgewood noir): HAMAMATSU Takayuki
Le Petit Vieillard / La Rainette: AOCHI Hideyuki
Chorus: New National Theatre Chorus
Children Chorus: Setagaya Junior Chorus
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra