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東京フィルハーモニー交響楽団 ヴェルディ:歌劇《オテロ》|藤堂清 

第156回東京オペラシティ定期シリーズ
ヴェルディ:歌劇《オテロ》(演奏会形式)
The 156th Subscription Concert in Tokyo Opera City Concert Hall
Verdi : Opera “Otello” in concert style

2023年7月27日 東京オペラシティコンサートホール
2023/7/27 Tokyo Opera City Concert Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)

<演奏>       → foreign language
指揮:チョン・ミョンフン(名誉音楽監督)
オテロ(テノール):グレゴリー・クンデ
デズデーモナ(ソプラノ):小林厚子
イアーゴ(バリトン):ダリボール・イェニス
ロドヴィーコ(バス):相沢 創
カッシオ(テノール):フランチェスコ・マルシーリア
エミーリア(メゾ・ソプラノ):中島郁子
ロデリーゴ(テノール):村上敏明
モンターノ(バス):青山 貴
伝令(バス):タン・ジュンボ
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:冨平恭平)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

雷鳴がホールを裂く。嵐をおそれ船の無事を祈る群衆。オルガン前のバルコニーに立ち“Esultate”と声をあげるオテロ。鮮烈な始まり。
演奏会形式とはいうものの、照明は、音楽と同期し、雷の光を見事に表現する。オーケストラを舞台奥に配置、前面に歌手が立ち、演技できるスペースを用意、大道具としてはベンチをおく。限られた空間の中ではあるが、すべての歌手が演技しながら歌う。表情の変化もあり、オペラの舞台をみているような印象。

東京フィルハーモニー交響楽団の名誉音楽監督であるチョン・ミョンフンがこのオーケストラの定期演奏会で毎年行ってきている演奏会形式のオペラ公演、今年は、ヴェルディの最後から二番目のオペラ《オテロ》を取り上げた。このオペラ、彼は1993年に録音しており、その後も日本を含む各地で演奏してきている。手のうちに入った曲といえるだろう。実際、チョンの指揮のもと、東京フィルハーモニー交響楽団が細かなところまで目配りの効いた演奏。強奏でも響きが濁ることがなく、弱音は美しい。オーケストラのみの前奏や後奏での多彩な表情は、聴きもの。普段はそれほど印象に残らないような場面転換、第1幕のイアーゴの乾杯の歌に移るところ、第2幕でカッシオがデズデーモナに近づいて行った後のイアーゴの独白へのつなぎなどもが聴き手を捉える。
オーケストラが重要なオペラであることはもちろんだが、この日の演奏では、一瞬たりといえども緩むことがなく、常に主役であり続けた。

とはいえ、歌手たちも充実した歌唱を聴かせた。
グレゴリー・クンデは、ドラマチック・テノールの代表的な役と捉えられ、そういった歌唱が評価されがちなこのタイトルロールに、彼が培ってきたベルカントの技術を活かして取り組んでいる。その高音の純な響きの美しさ、そして全体的なダイナミクスの大きさ、彼でなければできないオテロを作り出していた。69歳の彼がこの役を初めて歌ってから10年だが、年齢的な制約を感じさせることはなく、ますます進化し続けているのではと思わせる。第2幕の〈永遠にさらば、神聖な思い出よ〉のリズミカルな歌、第3幕の独白〈神よ、あなたは私に〉の悲痛な歌、その歌い分けの見事なこと。
デズデーモナの小林厚子はこの日の主役キャストの中でただ一人の日本人であったが、他のキャストに劣らず、常に安定した響きでホールをうめた。第1幕、オテロとの愛の二重唱での見事なハーモニー。第3幕、オテロに突き倒されて歌う〈地に倒れ、泥にまみれ〉の深い嘆き。そしてもちろん第4幕の聴かせどころ、〈柳の歌〉から〈アヴェ・マリア〉。そのピアニシモの美しいこと。
イアーゴのダリボール・イェニスもそのたくらみをていねいに歌う。物語に転換点となる第2幕、イアーゴのクレード〈俺は残忍な神を信じる〉から、オテロにデズデーモナへの疑いを持たせるささやき、そしてそれを信じたオテロとともに歌う〈天に向かって誓う〉。この二重唱では会場全体を一気にヒートアップさせた。
カッシオを歌ったフランチェスコ・マルシーリアのリリカルな声も魅力的。エミーリアの中島郁子も存在感を示した。

音楽だけでなく、照明も的確に場面を作り上げた。

すべてが高いレベルの公演であったが、それでも「チョン・ミョンフンの《オテロ》」であったといい得るだろう。終演後の彼に対するスタンディング・オベーション、ひときわ大きなものであった。

(2023/8/15)

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<Players>
Conductor: Myung-Whun Chung (Honorary Music Director)
Otello: Gregory Kunde
Desdemona: Atsuko Kobayashi
Iago: Dalibor Jenis
Lodovico: Hajime Aizawa
Cassio: Francesco Marsiglia
Emilia: Ikuko Nakajima
Roderigo: Toshiaki Murakami
Montano: Takashi Aoyama
A Herald: Junbo Tang
Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra