リヒャルト・シュトラウス:《エレクトラ》|藤堂清
R.シュトラウス作曲、歌劇《エレクトラ》
(演奏会形式/全1幕/ドイツ語上演/日本語字幕付き)
Richard Strauss: “Elektra”
(concert style in 1 act, sung in German with Japanese subtitles)
2023年5月12日 ミューザ川崎シンフォニーホール
2023/5/12 Muza Kawasaki Symphony Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 池上直哉/写真提供:ミューザ川崎シンフォニーホール
<出演> →foreign language
指揮=ジョナサン・ノット
演出監修=サー・トーマス・アレン
エレクトラ=クリスティーン・ガーキー
クリテムネストラ=ハンナ・シュヴァルツ
クリソテミス=シネイド・キャンベル=ウォレス
エギスト=フランク・ファン・アーケン
オレスト=ジェームス・アトキンソン
オレストの養育者=山下浩司
若い召使=伊藤達人
老いた召使=鹿野由之
監視の女=増田のり子
第1の侍女=金子美香
第2の侍女=谷口睦美
第3の侍女=池田香織
第4の侍女/ クリテムネストラの裾持ちの女=髙橋絵理
第5の侍女/ クリテムネストラの側仕えの女=田崎尚美
合唱=二期会合唱団
管弦楽:東京交響楽団
演奏中ほとんど舞台に立ち、ダイナミックな声を聴かせたクリスティーン・ガーキー。オーケストラも負けじと爆演、豊かで鮮烈な響きの連続、緊張感が途切れない。終始テンションの高い演奏を続けた。
父アガメムノンを謀殺した母クリテムネストラとエギストへの復讐のみを心の支えとして生きているエレクトラ、妹クリソテミスも巻き込もうとするが、彼女は普通の女の幸せを望み受け入れようとしない。クリテムネストラがエレクトラの予知能力を頼り相談に訪れるが、エレクトラはクリテムネストラ自身を生贄にすることが問題解決の手段だと示唆する。そこへエレクトラが復讐の実行者として期待していた弟オレストの死が伝えられる。エレクトラはクリソテミスに二人で復讐することを強く求めるが、クリソテミスは拒絶する。しかしオレストの件を知らせに来た者がオレスト本人であることがわかる。エレクトラとオレストの再会の喜び。オレストはクリテムネストラとエギストを斃す。エレクトラは喜びの踊りを舞いながら息絶える。
音楽監督のジョナサン・ノットが東京交響楽団を使いオペラを上演しているシリーズ、リヒャルト・シュトラウスの作品の第2弾として《エレクトラ》を取り上げた。オペラハウスであれば、オーケストラは一段低いピット内で演奏するが、演奏会形式の場合その厚みのある響きが舞台上にあり、歌手はそれと同じ高さで対峙しなければならない。しかし、タイトルロールのガーキーはそんな不利な条件をものともせず、圧倒的な声量で舞台を支配する。声の美感という点では難点をあげることはできるが、最初から最後までおとろえない声の威力には頭を下げるしかない。
歌手で次にあげるべきは、クリテムネストラを歌ったハンナ・シュヴァルツ。79歳という年齢でこの役を歌うこと自体が驚異だが、しっかりと歌詞を聴かせ、歌のニュアンスも見事。エレクトラとの対話、対決が一段と深く、聴き応えのある場面となった。彼女が舞台を去る時「オレストの死」を聞き、ホッとした表情を浮かべたが、その演技にこの役を長年歌ってきた経験の厚みを感じた。
クリソテミスのシネイド・キャンベル=ウォレス、オレストのジェームス・アトキンソン、エギストのフランク・ファン・アーケン等もそれぞれの場面でしっかりした歌を聴かせたが、ガーキーの勢いに押されがちであったことは否めない。とくにキャンベル=ウォレスは必要以上に張り上げていたように思う。
また、上記のような場面の変化に応じたオーケストラの表情が十分であったかというと疑問は残る。ダイナミクスの幅が大きく、厚みのある音響は圧倒的であったが、弱音での緊迫感のある響きや、歌手の言葉を浮き上がらせる部分など、多様な演奏が求められるのではないだろうか。
ともあれ、このオペラの上演、国内では2005年3月以来18年ぶり。ひさしぶりに劇場で高いレベルでの公演を楽しむことができた、大いに感謝したい。
(2023/6/15)
<PERFORMERS>
Jonathan Nott, Conductor (Music Director, Tokyo Symphony Orchestra)
Sir Thomas Allen, Direction
Christine Goerke, Elektra (Soprano)
Sinéad Campbell – Wallace, Chrysothemis (Soprano)
Hanna Schwarz, Klytämnestra (Mezzo-soprano)
Frank Van Aken, Aegisth (Tenor)
James Atkinson, Orest (Baritone)
Koji Yamashita, Orest’s guardian (Bass)
Tatsundo Ito, A young servant (Tenor)
Yoshiyuki Shikano, An old servant (Bass)
Noriko Masuda, Overseer of the servants (Soprano)
Mika Kaneko, First maid (Alto)
Mutsumi Taniguchi, Second maid (Mezzo Soprano)
Kaori Ikeda, Third maid (Mezzo Soprano)
Eri Takahashi, Fourth maid /Klytämnestra’s trainbearer(Soprano)
Naomi Tasaki, Fifth maid /Klytämnestra’s confidante(Soprano)
Nikikai Chorus Group
Tokyo Symphony Orchestra