ベルカントオペラフェスティバル ロッシーニ《オテッロ》|藤堂清
ジョアキーノ・ロッシーニ作曲《オテッロ》
オペラ全3幕〈字幕付き原語(イタリア語)上演〉
Gioachino Rossini : Otello, ossia Il moro di Venezia,
Opera in 3 Acts, Sung in Italian with Japanese surtitles
2023年1月20日 テアトロ・ジーリオ・ショウワ
2023/1/20 Teatro del Giglio Showa
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
<スタッフ> →foreign language
指揮:イバン・ロペス=レイノーソ
演出:ルイス・エルネスト・ドーニャス
美術:キアーラ・ラ・フェルリータ
衣裳:エリーザ・コベッロ
照明:カミッラ・ピッチョーニ
<キャスト>
オテッロ:ジョン・オズボーン
デズデーモナ:レオノール・ボニッジャ
ロドリーゴ:ミケーレ・アンジェリーニ
イアーゴ:アントーニオ・マンドゥリッロ
エルミーロ:トーニ・ネジチュ
エミーリア:藤井泰子
ドージェ/ゴンドラ乗り:渡辺 康
ルーチョ:西山広大
合唱・管弦楽:
合唱:藤原歌劇団合唱部
合唱指揮:河原哲也
管弦楽:ザ・オペラ・バンド
ロッシーニの《オテッロ》、原作はシェイクスピアの『オセロ』であるが、こちらの舞台はヴェネツィアに一本化されている。第1幕はヴェネツィア総督府の大広間と、デズデーモナの父エルミーロの館の一室と大広間。第2幕もエルミーロの館の一室で始まる。ついでオテッロの家の庭。第3幕はデズデーモナの寝室、といった具合。
イアーゴのオテッロを陥れるために用いる道具もハンカチではなくデズデーモナの手紙に変えられている。
オテッロ、ロドリーゴ、イアーゴの各役それぞれの声質にあった3人のテノール歌手が必要、デズデーモナも優秀な人が求められる。逆にいえば、歌手がそろえば高いレベルの公演が可能ということになる。
第1幕の冒頭、第2番のオテッロのアリア、トルコ軍に勝利した褒美に感謝するもの、オズボーンが厚みのある声で低音域から高音域まで駆け上がる。その強い響き、そして高音での輝きに圧倒される。オテッロに嫉妬する二人、ロドリーゴとイアーゴの第3番の二重唱、アンジェリーニの高音の伸びとマンドゥリッロの均質な声が美しく響き合う。第4番で登場するデズデーモナ、柔らかな声で歌い始めるボニッジャ、すぐに続くエミーリアとの二重唱もよいバランス。それぞれが持ち味を発揮し、聴き応えがある。この場面では、舞台奥の演技で、影絵のように見せながら、デズデーモナのオテッロにあてて書いた手紙がエルミーロを経てイアーゴの手に渡ったことを示していた。第5番は、ロドリーゴと結婚させようとするエルミーロと嫌がるデズデーモナ、ロドリーゴの訴えかけの三重唱、そこへ彼女と結婚の約束がと言って登場したオテッロと、エルミーロ、ロドリーゴとの対決。合唱を交えた激しい第1幕フィナーレとなる。
第2幕はデズデーモナにロドリーゴが言い寄る場面から始まる。それに対しはっきりと拒否する彼女、ロドリーゴのやさしく訴える前半とオテッロへの復讐を歌うカバレッタからなる第6番、アンジェリーニのコロラトゥーラの技巧のさえが聴ける。場面はかわって、イアーゴが手紙をオテッロに示し、ロドリーゴあてのものと信じさせ、嫉妬を煽る第7番。苦しむオテッロの様子をみてほくそ笑むイアーゴの独白、そこでのマンドゥリッロの歌のいやらしさ。オテッロの怒りの強烈さ。イアーゴと入れ替わりにロドリーゴが登場、二人が決闘に同意し、激しく歌いあげる第8番、二人の超高音のぶつかりあいは、聴き手の頭を直接刺激するよう。そこへ駈け込んできたデズデーモナを加えた三重唱、ついに彼女は失神する。第9番はエミーリアの介抱で意識をとりもどしたデズデーモナのアリア・フィナーレ。オテッロの身を案じる前半、無事を知り安堵するが、現れたエルミーロに非難され、許しを請うも受け入れられず、絶望する。ここまではテノールたちの聴かせどころが目立ったが、ボニッジャの本領発揮。柔らかな声から、かなり厚みのある声まで使い、歌い上げた。
第3幕は第10番という一つのナンバーで通す。前半は父からもオテッロからも拒絶されて嘆くデズデーモナ、柳の歌を歌い悲しみのなか眠りにつく。オテッロがナイフを持って隠し扉から入ってくるが逡巡していると、デズデーモナが目をさます。彼女は、彼がイアーゴを信じ切り、自分の言葉を受け入れないことに絶望し、殺すよう求める。オペラでの設定は刺殺となっているが、この舞台ではロープを使った絞殺であった。ここでの二重唱の緊迫感は、ブッフォでのロッシーニ作品からは想像しがたいもの。イアーゴが死に際に悪事を白状したと皆が入ってきてオテッロを祝福しようとするが、彼は過ちを悟り自刃する。
演出面では、ロープがいろいろな役割を果たしていた。一本のロープで人と人を結びつけたり、しばりあげたりして、彼らの関係をイメージさせる、天井からつるした多くのロープを間仕切りに使ったり、一人を包み込み、その人の孤独を印象づける、といったように。
前面での演技・歌唱とは別に、舞台奥で演技させて、それを影絵のように見せ、関連する場面の説明とするという手法、何箇所かで使われており、効果的であった。
舞台装置は簡素なものであったが、費用対効果のよい演出ということができるだろう。
オーケストラが、オペラのために集まって演奏する人々の団体、ザ・オペラ・バンドであったこともよい結果をもたらした。若い指揮者ロペス=レイノーソのきびきびとした統率のもと、ロッシーニ・クレッシェンドをあざやかに決め、また第1幕フィナーレなどでの合唱を交えたアンサンブルの躍動感は、聴き手の興奮をさそった。
歌手のレベルも高く、オーケストラ、演出もよく、上演機会の少ないこのオペラ・セリアを十全な形で味わうことができた。
(2023/2/15)
Conductor: Iván LÓPEZ-REYNOSO
Stage Director: Luis ERNESTO DOÑAS
Stage Designer : Chiara LA FERLITA
Costume Designer : Elisa CBELLO
Lighting Designer : Camilla PICCIONI
CAST
Otello: John OSBORN
Desdemona: Leonor BONILLA
Rodrigo: Michele ANGELINI
Iago: Antonio MANDRILLO
Elmiro: Toni NEZIC
Emilia: Yasuko FUJII
Doge di Venezia/Un gondoliere: Yasushi WATANABE
Lucio: Kodai NISHIYAMA
Chorus and Orchestra
Chorus : Fujiwara Opera Chorus Group
Chorus Master : Tetsuya KAWAHARA
Orchestra : The Opera Band