Menu

北とぴあ国際音楽祭2022 リュリ《アルミ―ド》|藤堂清 

ジャン=バティスト・リュリ:音楽悲劇《アルミ―ド》
   プロローグと全5幕〈セミ・ステージ形式/フランス語上演・日本語字幕付〉
Jean-Baptiste Lully: Armide, Tragédie en musique
   Prologue and 5 Acts, Sung in French with Japanese surtitles 

2022年12月9日 北とぴあ さくらホール
2022/12/9 Hokutopia, Sakura Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi) 

<スタッフ>        →foreign language

指揮・ヴァイオリン:寺神戸 亮
演出:ロマナ・アニエル
振付・バロックダンス:ピエール=フランソワ・ドレ

<キャスト>
歌手:

クレール・ルフィリアートル(アルミード)
フィリップ・タルボ(ルノー)
与那城 敬(イドラオ、憎しみ)
波多野睦美(叡智、シドニー)
湯川亜也子(栄光、フェニス、メリッス)
山本悠尋(アロント、ウバルド)
中嶋克彦(アルテミドール、幸運な恋人)
鈴木美紀子(ニンフ)
鈴木真衣(勇敢な羊飼い、リュサンド)
谷口洋介(デンマークの騎士)

バロックダンス:

ニコレタ・ジャンカーキ
松本更紗
ピエール=フランソワ・ドレ
ダリウシュ・ブロイェク

合唱・管弦楽:

レ・ボレアード(オリジナル楽器使用)

 

北とぴあ国際音楽祭2022では、ジャン=バティスト・リュリ作曲の音楽悲劇《アルミ―ド》全曲の日本初演を行った。
この作品は、トルクァート・タッソの『解放されたエルサレム』のリナルド(ルノー)とアルミーダ(アルミード)の物語をもとにした、フィリップ・キノーの台本により作曲されたもので、1686年にパレ・ロワイヤルで初演された。ルノーは十字軍側、アルミードはそれと対峙するダマスカス側の戦士という役どころ。アルミードは魔力を持つ魅力的な女性。
プロローグと全5幕という構成だが、この日は第2幕のあとに休憩をはさみ、二部形式での上演。セミ・ステージ形式で、管弦楽を舞台後方におき、前面に広めのスペースを設け、そこで歌い、踊る。

簡単にあらすじをあげておこう。
プロローグ:「栄光」と「叡智」がルイ14世の治世を讃えて歌い、「愛」より「栄光」を選ぶ物語へと誘う。
第1幕:アルミードが十字軍に対する勝利にもかかわらず、ルノーだけは捕虜にできなかったことで塞いでいる。ダマスカスの人々が勝利とアルミードの魅力を讃える長大なサラバンドの合唱と踊り。そこへルノーが一人で捕虜を解放したことが告げられる。
第2幕:アルミードは一人でルノーを倒すと言い、魔力で眠らせた彼を刺そうとするが、その瞬間彼に恋してしまい殺すことができず、自分の宮殿に運ばせる。
第3幕:アルミードはルノーを愛すべきか憎むべきか葛藤する。地獄から「憎しみ」を呼び出し、愛を追い出してもらおうとするが、できないと自身で悟る。
第4幕:ルノーを探す2人の騎士、怪物の脅しや美しい女性の誘惑をうけるが、魔力を破る杖でそれらをしりぞける。
第5幕:アルミードとルノーは愛の2重唱を歌う。地獄へ行く必要のあるアルミードは「快楽」と幸運な恋人たちにルノーをもてなさせる。このパッサカイユの音楽、踊りは、聴きどころ、見どころ。2人の騎士が到着し、ルノーにかけられた魔法を解く。戻ってきたアルミードに「愛」より「栄光」に従うと告げ、彼は去る。アルミードは激怒、復讐を誓い、宮殿を破壊、彼を追う。

この公演で際立っていたのは、バロックダンスである。振付も担当したピエール=フランソワ・ドレ、男性のダリウシュ・ブロイェク、女性のニコレタ・ジャンカーキ、松本更紗の4名の舞踏家が、場面に合わせたバロック調の衣装をまとい、19世紀以降のバレエのような激しい動きはないものの、腕や脚の動きで、また手の表情で、雄弁にその感情を表現していた。踊りが、独唱・合唱といった音楽と入れ替わるように出てくる場面の変化は多様で、あきさせない。
歌唱では、主役二人、アルミードのクレール・ルフィリアートル、ルノーのフィリップ・タルボは、フランスから招請したが、他の配役はすべて日本の歌手であった。この日、ルフィリアートルは不調だが歌うとの断りがあったが、そのフランス語の朗誦は美しく、第2幕でのアルミードの感情の大きな変化をみごとに聴かせてくれた。タルボはそのつややかな声を十分に活かし、第2幕、第5幕の独唱の場面で力量を発揮。日本の歌手もそれぞれに健闘。イドラオと憎しみの二役を歌った与那城の充実した声、叡智とシドニーの波多野の安定感、栄光、フェニス、メリッスの3役を歌った湯川のがんばり、アルテミドールと幸運な恋人の中嶋の美しい響きなど。セミ・ステージ形式ということもあってか歌手の衣装は地味なもの。ダンスの衣装が美しかっただけに少し差を感じた。
レ・ボレアードの管弦楽は、チェンバロ、テオルボなど通奏低音の楽器も含め23名の体制、ピリオド楽器の音色など高く評価したい。合唱には、独唱の役と重複している人も加わっているが、あまり大人数で歌うところは多くなく、それぞれの響きの美しさを感じることができた。

17世紀のフランス・バロック・オペラの傑作といわれる《アルミード》を高いレベルで上演したことを高く評価するとともに、リュリの他の作品や彼の後継者の演目の上演を期待したいと思う。この音楽祭、来年はジャン=フィリップ・ラモーの《レ・ボレアード》が予定されている。楽しみに待ちたい。

(2023/1/15)

————————————
Staff

Conductor: Ryo Terakado
Stage Director: Romana Agnel
Choreographer, Baroque Dance: Pierre-François Dollé

CAST

Armide: Claire Lefilliâtre
Renaud: Phillippe Talbot
La Gloire / Phénice / Melisse: Ayako Yukawa
La Segesse / Sidonie: Mutsumi Hatano
Hidraot / La Haine: Kei Yonashiro
Aronte / Ubalde: Yukihiro Yamamoto
Artemidore / Un Amant fortune: Katsuhiko Nakashima
Nymphe: Mikiko Suzuki
Une Bergere heroïque / Lucinde: Mai Suzuki
Le Chevalier danois: Yosuke Taniguchi

Baroque Dance:

Nikoleta Giankaki
Srarasa Matsumoto
Pierre-François Dollé
Dariusz Brojek

Chorus and Orchestra: Les Boréades