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撮っておきの音楽家たち|ホアキン・アチュカロ |林喜代種

ホアキン・アチュカロ(ピアノ奏者)
Joaquín Achúcarro, Pianist

2022年7月3日 王子ホール
Photos & Text by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

現代スペインの音楽界を代表するピアニストのホアキン・アチュカロが来日。的確なリズムと音楽性でピアノの魅力を十分に披露した。指揮者のサイモン・ラトルは「彼の創り出す非常に独特な音色は今ではほんの僅かなピアニストしか持っていない。それはとても稀有で瞬時にそれと分かるものである」と評している。

ホアキン・アチュカロは1932年11月1日にスペインのビルバオで生まれる。1946年13歳で地元オーケストラとモーツァルトの協奏曲を演奏してコンサート・デビューを飾る。10代の頃物理学を学ぶためにマドリードに移った。卒業後すぐ音楽の研究に専念するため、イタリアのシエナに移りキジアナ音楽院に学んだ。ホセ・クレビスにもレッスンを受けた。1959年フェルッチョ・ブゾーニ国際ピアノコンクール第4位、同年リヴァプール国際コンクールで優勝する。それをきっかけにロンドン交響楽団でのデビューを果たす。以来58ヶ国で活動し、ベルリン・フィル、ニューヨーク・フィル、ロンドン交響楽団、BBCフィル、シカゴ響、フランス国立オーケストラ、東京フィル、ロサンジェルス・フィルなど数多くのオーケストラと共演。またクラウディオ・アバド、ズービン・メータ、メニューイン、小澤征爾、サイモン・ラトルなどの著名指揮者と共演を重ねる。
1980年代半ばよりアメリカのテキサス州の南メソジスト大学のメドゥス芸術学校の教授を務める。1996年スペインのファン・カルロス国王より芸術金メダルと共に騎士の爵位を授与される。二キタ・マガロフからは作曲家の魂に肉薄する奏法と表現を学ぶ。そしてスペインの名ギタリスト、アンドレアス・セゴビアからも「常に勤勉であること」との教えを受けていて、この教えをアチュカロはいまなお守り続けているという。2000年にはその卓越した芸術上の功績が認められ「平和のためのユネスコ・アーティスト」に選出された。2003年当時のスペイン国王ファン・カルロス一世より国家功労十字勲章を授与された。またビルバオ・グッゲンハイム美術館の開館記念式典で二万五千人の観客と世界生中継で世界中の観客が注目する中で演奏を行なった。2008年ダラス市の関係団体より「ホアキン・アチュカロ財団」が創設され、その芸術上および教育上の功績を後世に伝え前途ある若いピアニストを助成することを目指している。

アチュカロはアルベニス、グラナドスなどのスペイン作品を根幹に据えているが、今回のプログラムではリスト、ブラームス、ラフマニノフという多彩な作品で魅了した。また演奏前に、同行したエマ夫人が60年におよぶ日常生活と音楽生活をエピソードを交えて披露した。

(2022/9/15)