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ガエターノ・ドニゼッティ:愛の妙薬 新国立劇場|藤堂 清

ガエターノ・ドニゼッティ:愛の妙薬
Gaetano Donizetti: L’elisir d’amore
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
令和2年度 文化庁 子供文化芸術活動支援事業

2022年2月11日 新国立劇場
2022/2/11 New National Theatre Tokyo
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 寺司正彦/写真提供:新国立劇場

<スタッフ>        →foreign language
指揮:ガエタノ・デスピノーサ
演出:チェーザレ・リエヴィ
美術:ルイジ・ペーレゴ
衣裳:マリーナ・ルクサルド
照明:立田雄士
再演演出:澤田康子
舞台監督:髙橋尚史

<キャスト>
アディーナ:砂川涼子
ネモリーノ:中井亮一
ベルコーレ:大西宇宙
ドゥルカマーラ:久保田真澄
ジャンネッタ::九嶋香奈枝

合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団
チェンバロ:小埜寺美樹

 

当誌の注目のコンサートに取り上げたとき、「ベルカント・テノールのフアン・フランシスコ・ガテルのネモリーノ、《アルマゲドンの夢》のベラで絶賛されたジェシカ・アゾーディがアディーナ、ドゥルカマーラを歌うのはブッフォの名手ロベルト・デ・カンディアと粒ぞろいのキャストが組まれている。指揮はイタリアの俊英フランチェスコ・ランツィロッタ。再演の場合の短い日程では、コロナによる規制との関係でキャスト・スタッフの入国が困難となるのではという点が不安材料である。」と書いたのだが、不安は的中、指揮者、歌手すべてが交代という結果に。
ここまで代わってしまっては、オリジナル・キャストと同レベルの公演を期待するのは無理なこと、それを承知で聴きに行くことに。

席について気付いたことは子供率の高さ。子供といっても小学生とおぼしき年齢の子が親とともに座り、また入ってくる。調べてみると、「文化庁 子供文化芸術活動支援事業」の対象公演で、4回の公演で692席が無料招待という。こういった形でオペラにふれる機会を子供に与えることで、将来の聴衆を育てることができれば、それはすばらしいことだろう。客席が騒がしいこともなく、皆集中して聴いていた。

この《愛の妙薬》のプロダクションは、2009-2010年シーズンにプルミエ、その後2013年、2018年に再演され、今回が4回目となる。
舞台には大きな本が置かれ、第1幕冒頭でアディーナが読み上げる「トリスターノとイゾッタ」の本が主題と分かる。
ガエタノ・デスピノーサのサクサクと進める指揮が、短い前奏曲から続く合唱へと導く。衣装や装置の明るい色が、音楽と一緒に飛び出してくるよう。合唱は歌が始まると整列し、間隔をとる。コロナの感染予防ガイドラインだかなんだかに従ったものらしいが、原演出とは異なる動きを指示する再演演出家が気の毒になる。合唱団の演技だけのときと歌うときの動きの差、今の感染状況ではやむを得ないことなのだろう。
中井の歌うネモリーノ、合唱に続くソロ〈なんてきれいで、かわいいんだ!〉はまずまず無難にこなす。本を読んでいたアディーナの笑い声がその雰囲気を破り、皆に請われて本を読み上げる〈つれないイゾッタ〉。砂川の声がやけに硬く、高音を無理に出している印象。兵士たちを率いるベルコーレが登場、〈気どったパリデがしたように〉とアディーナに花をささげる。大西のアクション、オーバーな感じが笑いをさそう。歌はしっかりしたもの、ここ数年の充実した活動がよくわかる。薬売りのドゥルカマーラが軽飛行機を操縦して登場、自分の薬の効能を早口で歌い上げる。ここはバッソ・ブッフォの聴かせどころ。声だけで「おかしみ」が伝わってほしいのだが、残念ながら久保田にそこまでの芸はない。真面目に丁寧に歌ってはいるのだが。

とまあ、ソリストの登場場面の印象を書いてみたが、オペラ全体でもほとんど変わりがない。歌でも演技でも気を吐いていたのは大西、彼にこんなブッフォへの適性があるとは気づいていなかった。中井は頑張っているのだが平板。聴かせどころの〈人知れぬ涙〉も今一つ。砂川は最後の〈おとりなさい〉以降がかなり無理な感じ。少し前までこんな声を聴かせる人ではなかったのに。
オーケストラと合唱が充実していたのと演出の完成度もあり、全体としてはよかったと評価できる。《さまよえるオランダ人》に続きこの劇場のピットに立ったガエタノ・デスピノーサが緻密な音楽づくりでまとめていたためだろう。

コロナの影響をうけずに予定のキャストで演奏を楽しめる日が近いことを期待したい。

最後になるが、疑問を一つ。レチタティーヴォでピアノではなくチェンバロを使った理由は何なのだろう。印刷されたスコアには”Pf”と指定されているし、初演された1832年には、チェンバロではなくピアノが主流になっていたのではないだろうか?

(2022/3/15)

 

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<Staff>
Conductor: Gaetano D’ESPINOSA
Production: Cesare LIEVI

<Cast>
Adina: SUNAKAWA Ryoko
Nemorino: NAKAI Ryoichi
Belcore: ONISHI Takaoki
Dulcamara: KUBOTA Masumi
Giannetta: KUSHIMA Kanae

Chorus Master: MISAWA Hirofumi
Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra
Cembalo: ONODERA Miki