藤田真央 ピアノ・トリオwith 辻 彩奈&佐藤晴真|秋元陽平
藤田真央 ピアノ・トリオwith 辻 彩奈&佐藤晴真
Fujita Mao Piano Trio with Tsuji Ayana(Vn) and Sato Haruma(Vc)
2021年12月15日 トッパンホール
2021/12/15 Toppan Hall
Reviewed by Yohei AKIMOTO(秋元陽平)
Photos by大窪道治 /写真提供:トッパンホール
<演奏> →English
藤田真央(Pf)
辻 彩奈(Vn)
佐藤晴真(Vc)
<曲目>
ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 Op.50《ある偉大な芸術家の思い出のために》
(アンコール)
ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番 ホ短調 Op.67より 第2楽章 Allegro con brio
それにしても、20代前半にしてこのアンサンブルの成熟ぶりである。
名うてのソリストが3人集まっても必ずしもその総和が素晴らしいアンサンブルとなるとは限らないというのが世の常だが、藤田真央トリオに関してはこの懸念は杞憂に終わった。
怜悧で雅量に満ちた音色がラヴェル作品に似つかわしい辻彩奈のヴァイオリン、そして第3楽章、豊穣で親密な表現で一流の哀歌を聴かせた佐藤晴真のチェロはいずれも、ソリストの華をあえてアンサンブルの中で聴くことに一つの意義を見出しうる贅沢に満ちている。第二楽章パントゥーム(個人的には、20世紀前半オールジャンル一曲選ぶならこれだ)の、凍った滝の砕けるような主題がピアノによって反復される中、彼らの弦によって旋法的な歌が冷たく輝いて拡がっていく様は、一種の凄まじさを感じさせる。ラヴェルのこの音楽においては、遊戯的/形式的であることと、ある種の厳粛さ、実存的主張が同居しているが、若い3人はすでにこの両面性のもたらす緊迫感のただなかに音楽を張り渡している。
ところで、まずここには同時に藤田真央の、おどろくべきアンサンブル・シフト、”Keep cool, but care”を地で行く包容力が介在していることは、やはり特筆すべきことであって見逃せない。他の二人もそうなのだが、ソロでスター的な活躍をしていても、一人で決して音楽が完結しない。チャイコフスキーに至って、藤田がより前面に出てそのタッチの機微を味わうことができる場面が増えていき、そこでますます感じることだが、孤独を知るものこその共感がある、ということだろうか。少し上の世代だが、欧州で聴いてこうした「ソリストのアンサンブル」の瑞々しい印象を抱いたトリオの演奏といえば、庄司紗矢香、フランソワ・サルク、ジャン=フレデリック・ノイブルガーというこれもまた名うてのソリストたちによる、同じくチャイコフスキーの演奏だった。
共通して言えることは、メディアの介在によって作られてきた20世紀のクラシック音楽の孤高表出型のソリスト像から距離を置き、アンサンブルの関係性に即して、しかし同時に深い自己沈潜を伴う表現を引き出そうとする真摯さがある、というところだ。
それにしても、藤田トリオのこうしたアンサンブルへのひたむきさ、三人の関係性は、今思えばすでに藤田の調律のAを出すタッチの驚くべき柔らかさ、深さを測るような、弦の二人に問いかけるようなその仕草で既にして予告されていたような気さえするのだった。
(2022/1/15)
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<Cast>
Fujita Mao (Pf)
Tsuji Ayana(Vn)
Sato Haruma(Vn)
<Program>
Ravel : Piano Trio a-moll
Tchaïkovski : Piano Trio a-moll Op.50 (in memory of a great artist)
————-Encore————-
Shostakovich : Piano Trio No.2 e-moll Op.67 2nd mov. Allegro con brio