撮っておきの音楽家たち|ベルナルト・ハイティンク
ベルナルト・ハイティンク(指揮者)
Bernardo Haitink (Conductor)
2015年9月28日 サントリーホール
2015年10月5日 東京文化会館大ホール
Photos & Text by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
オランダの名指揮者ベルナルト・ハイティンクが2021年10月21日にロンドンにて死去。92歳だった。アムステルダム生まれ。
1962年にコンセルトヘボウ管を率いて初来日。そして2015年9月・10月の来日が日本最後の公演。86歳だった。来日歴は54年間に及ぶ。
主なオーケストラとの来日は、1968年コンセルトヘボウ管、1969年ロンドン・フィル、1974年&1977年コンセルトヘボウ管、1992年英国ロイヤル・オペラ、1997年ウィーン・フィル、2003年札幌・PMF、2004年ドレスデン・シュターツカペレ、2009年シカゴ響、2013年ロンドン交響楽団、そして2015年ロンドン交響楽団と最後の来日公演。
得意としているのは3つのB、即ちベート-ヴェン、ブラームス、ブルックナー、またマーラー、R.シュトラウスと言われている。「彼らの作品にはいつも新しい発見があります。常にスコアを研究しなければなりません」と語る。2013年の来日ではブルックナー「交響曲第9番」が大きな話題となる。ブルックナーについてはかなりの経験がいるということを語っている。またブルックナーをいろいろなオーケストラで演奏することほど充足感の得られることはないとも語っている。
またルツェルンの「イースター音楽祭」が指揮のマスタークラスをアレンジしてくれて、毎春意欲的な若者たちと仕事をすることは刺激的でありやりがいのあることであるとも語っている。
86歳で最後の来日をした時にロンドンの音楽ライターのインタビューを受けた。「引退の兆しはまだ感じさせない。一般の人が定年を迎える年齢をはるかに超えて、なお活動を続ける指揮者は多い。若さや美しい外見がしきりにもてはやされる今日のクラシック音楽界に於いて確固たる経験と円熟に支えられた年長のマエストロが紡ぐ音楽の威力はかってないほどの実直さを湛えているように見える」と感想を述べている。
ハイティンクはロンドン交響楽団の正式ポストに就いたことは一度もない。ハイティンクはヴァイオリニストだった。指揮者としては珍しく謙虚な性格の持ち主だった。シカゴ響の首席指揮者の在任中に音楽監督を辞任したのは「全ての指揮者には賞味期限があるからだ」とインタビューに答えている。
春のルツェルン・フェスティヴァルのマスタークラスでハイティンクが若い指揮者たちを指導する場に同席した人は、マエストロがブルックナーの第7番を振る生徒に「神ではなく、山について考えを巡らせなさい」と声をかけ、この助言に応えた生徒のサウンドがより柔らかく温もりのある親しみのあるものに変化したのを体験したという。
(2021/11/15)