アミティ・カルテット弦楽四重奏リサイタル|齋藤俊夫
アミティ・カルテット弦楽四重奏リサイタル
Amity Quartet Recital
8月16日 JTアートホールアフィニス
8/16 JT Art Hall Affinis
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by H.Kuboki/写真提供:東京コンサーツ
<演奏> →foreign language
アミティ・カルテット
ヴァイオリン:尾池亜美、須山暢大
ヴィオラ:安達真理
チェロ:山澤慧
<曲目>
シューベルト:弦楽四重奏曲第13番イ短調D804「ロザムンデ」
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調作品131
前半のシューベルト第13番『ロザムンデ』は、第1楽章から、「妙に関節が硬い」「妙に音が乾燥している」と感じてしまった。各人の個人技が拙かったのではなく、4人で1つのアンサンブル=弦楽四重奏団となれず、個人個人の演奏を4つ集めたようで、お互いの音の受け渡しの拙さや、4人の音楽的表情の不一致を感じたのだ。それでも舞曲風主題による第4楽章の元気さはこのコロナ禍の中にあって心をじんわりと温めてくれた。
後半、Gis-His-Cis-Aの半音階的なイントロに始まるベートーヴェン第14番第1楽章の、各人の音が複雑に絡み合って構築される、気高くも悲愴な音楽の精神的高み!我を忘れて音楽に飲み込まれた。
優しい第2楽章、3楽章を挟んで、主題とその変奏曲である第4楽章は懐かしい思い出に浸るように、喜びと悲しみが次々に現れては消えていく。音楽と人生を結びつけるのはあまりにもナイーヴかもしれないが、この楽章はまさに人生そのものであり、そして音楽そのものだ。優しく語りかけてくる音楽がこちらの心と共振し、皆が同じ音楽を聴きながら、それぞれの人生の美しい場面を幻視する。
第5楽章、輝ける主題とその展開によって会場全体に光が満ちる。4人の個人技が最も冴え渡ったのはこの楽章であろう。ソリストとしても活躍する4人の音の眩しさは尋常ではなく、楽章終わり近くのスル・ポンティチェロでも光が増すことこそすれ陰ることがない。
内省的な第6楽章は第5楽章と対をなす。束の間の思い出と輝きは失せ、再び人はその人生の悲しみと対面する。
最終楽章、大いなる悲しみと対峙するこの音楽のスケールの大きさは英雄的、あるいは神々に逆らったプロメテウス的・巨人的である。たった4人の弦楽奏者によって神話的な悲劇体験ができる、これこそまさに弦楽四重奏の深奥に他ならない。あらゆる感情を飲み込むような圧倒的な迫力で最後の短三和音が響いた。
コロナ禍以前に企画された本公演は元々ハイドン、デュティユー、そして今回演奏されたベートーヴェンというプログラムであったが、コロナ禍により開催が繰り延べられ、曲目からハイドンとデュティユーがなくなり、シューベルトのロザムンデが加わった。前半のアンサンブルがやや拙かったのはこの曲目変更によると筆者は考える。しかし、ベートーヴェン14番の風格ある演奏が聴けた喜びは何ものにも代えがたいものであった。
(2020/9/15)
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<players>
Amity Quartet
Violin : Ami Oike, Nobuhiro Suyama
Viola : Mari Adachi
Cello : Kei Yamazawa
<pieces>
F.Schubert : String Quartet No.13 in A minor, D804 “Rosamunde”
L.v.Beethoven : String Quartet No.14 in C# minor, Op.131