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小倉貴久子のモーツァルトのクラヴィーアのある部屋 第40回記念公演|藤堂清

小倉貴久子のモーツァルトのクラヴィーアのある部屋
Zimmer mit Mozarts Klavier von Ogura Kikuko
第40回記念公演 ~クラヴィーアコンチェルト~ 
【シリーズコンサート最終回】 
Das letzte Serienkonzert
L.v.ベートーヴェン Ludwig van Beethoven [1770-1827]

2019年12月7日 第一生命ホール
2019/12/7 Dai-ichi Seimei Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:メヌエット・デア・フリューゲル

<演奏>        →foreign language
小倉貴久子(クラヴィーア)
使用楽器:Klavier made by Johann Baptist Streicher [1845]

☆ピリオド楽器使用室内オーケストラ☆
【ヴァイオリン】若松夏美、荒木優子、山内彩香、原田 陽、廣海史帆、天野寿彦
【ヴィオラ】成田 寛、丸山 韶
【チェロ】山本 徹、島根朋史
【コントラバス】西澤誠治
【フルート】前田りり子
【オーボエ】三宮正満、森 綾香
【クラリネット】満江菜穂子、渋谷圭祐
【ファゴット】堂阪清高、永谷陽子
【ホルン】塚田 聡、大森啓史
【トランペット】川田修一、霧生貴之
【ティンパニ】井手上 達

<曲目>
W.A.モーツァルト:《ロンドンのスケッチブック》より 小品 変ホ長調 K.15cc
W.A.モーツァルト:ロンド ニ長調 K.382
L.v.ベートーヴェン:クラヴィーアコンチェルト 第4番 ト長調 作品58
———————–(休憩)————————–
L.v.ベートーヴェン:ポロネーズ ハ長調 作品89
W.A.モーツァルト:クラヴィーアコンチェルト 第20番 ニ短調 K.466
———————(アンコール)———————–
W.A.モーツァルト:クラヴィーアコンチェルト 第21番 ハ長調 K.467より 第2楽章 Andante

 

小倉貴久子の「モーツァルトのクラヴィーアのある部屋」第40回、2012年から続けられてきたこのシリーズの最終回となる。普段は少人数の古楽奏者を加える場合が多かったが、10の倍数の回は時代楽器によるオーケストラを編成し、コンチェルトが演奏されてきた。この日はベートーヴェンをゲストにむかえ、ベートーヴェンのクラヴィーアコンチェルト第4番と、彼が書いたカデンツァのあるモーツァルトのクラヴィーアコンチェルト第20番を中心としたプログラムが組まれた。オーケストラのメンバーは、古楽器や時代楽器の演奏で見かける人が集められている。というより、彼等が小倉のために集まったということなのだろう。楽器は、カデンツァの音域が広いため、1845年のシュトライヒャーが使われた。

前半のベートーヴェンはクラリネットも加わった編成。冒頭のクラヴィーアの音があたたかく、またモダン・オーケストラに較べ低めのピッチが、耳にも体にもやさしく響く。金管はモダン楽器のようになめらかでないが、その少しささくれ立ったような音色が、音量以上にオーケストラの中で自己主張する。
ベートーヴェンのころまでは、ピアニストが楽器を弾きながらオーケストラに指示し、音楽を作っていくことが普通だっただろう。この日のように弦楽器もふくめ少人数の編成であれば、合奏もスムーズに進むし、クラヴィーアとの受け渡しも首の向きや表情の変化だけでできる。
短い第2楽章でのクラヴィーアと弦楽器の静かな対話、第3楽章ではオーケストラを圧して決然と響くが、ふたたび両者が溶け合うようになっていく。

モーツァルトの数少ない短調で書かれたコンチェルトの一つ、ニ短調K.466。オーケストラの長く暗い音楽に続き、ひそやかに入ってくるクラヴィーア。モダン・ピアノの場合、暗闇の中に光が差し込んできたような変化を感じるが、クラヴィーアで弾かれるとそのような急な展開ではなく、徐々に移り変わっていく印象を受ける。
ベートーヴェンが好み、カデンツァを書いたのは前者のような演奏を想定したからかもしれないが、筆者の年のせいか、オーケストラと一体となる演奏スタイルに惹かれるようになってきた。一緒に「音楽をする」楽しさが直に伝わってくるようで、「モーツァルトの短調」といった思い込みからはなれたこの日の演奏、心が湧き立つ想いで聴いた。

シリーズは終わるが、そこで演奏された曲や共演者といった情報は、小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》【シリーズコンサート】に残され、みることができる。モーツアルトと35人のゲスト作曲家の多様な世界。一人の演奏家が中心となって行った記録があとあとまで残されるということは大きな意味があるだろう。
2020年秋から新たなシリーズを開始するとのこと、その活動を見守っていきたい。

(2020/1/15)

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〈Performers〉
Klavier: Ogura Kikuko
(Klavier made by Johann Baptist Streicher [1845])

Violin: Wakamatsu Natsumi, Araki Yuko, Yamauchi Ayaka, Harada Akira, Hiromi Shiho, Amano Toshihiko
Viola: Narita Hiroshi, Maruyama Sho
Cello: Yamamoto Toru, Shimane Tomofumi
Kontrabass: Nishizawa Seiji
Flute: Maeda Liliko
Oboe: San’nomiya Masamitsu, Mori Ayaka
Klarinette: Mitsue Nahoko, Shibuya Keisuke
Fagott: Dosaka Kiyotaka, Eitani Yoko
Horn: Tsukada Satoshi, Omori Keiji
Trompete: Kawata Schuichi, Kiryu Takayuki
Pauke: Ideue Toru

〈Program〉
W.A.Mozart: Londoner Skizzenbuch Es-Dur K.15cc [1764]
      Rondo in D-Dur K.382 [1782]
L.v.Beethoven: Konzert für Klavier Nr.4 G-Dur Op.58 [1806]
—————(Intermission)—————
L.v.Beethoven: Polonaise C-Dur op.89 [1814/15]
W.A.Mozart: Konzert für Klavier d-Moll K.466 [1785]
——————(Encore)——————
W.A.Mozart: Andante aus Konzert für Klavier C-Dur K.467 [1785]