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模倣か独創か パーセルとイタリアのマエストロたちのトリオ・ソナタ|大河内文恵

模倣か独創か パーセルとイタリアのマエストロたちのトリオ・ソナタ
Purcell’s Trio Sonatas: “Just Imitation of Most Fam’d Italian Masters?”

2019年11月2日 近江楽堂
2019/11/2 Oumi Gakudo
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by Juan Salgado

<演奏>        →foreign language
レザミ・ドゥ・バルバスト
  ヴァイオリン:コリーヌ・オルモンド、天野寿彦
  チェロ:山本徹
  チェンバロ:辛川太一

<曲目>
イングランド内戦から王政復古期にかけてのイギリス音楽とパーセルへの影響
H. パーセル:3声のソナタ集(1683)第6番
W. ローズ:3つのヴィオールとオルガンのための組曲第2番
H. パーセル:3声のソナタ集(1683)第9番
W. ヤング:3、4、5声のソナタ集第3番
M. ロック:ブロークン・コンソート第1巻 組曲第4番

~休憩~

イタリア趣味の音楽の台頭とパーセルのトリオ・ソナタへの影響
N. マッテイス:エール集より組曲ト長調
M. カッツァーティ:トリオ・ソナタ集作品18より「ラ・ストロッツァ」
H. パーセル:4声のソナタ集(1697)第10番
A. コレッリ:トリオ・ソナタ集作品1第3番
H. パーセル:4声のソナタ集(1697)第1番
G. B. ヴィターリ:ソナタ集作品5より「ラ・グイドーニ」
H. パーセル:4声のソナタ集(1697)第9番「黄金ソナタ」

~アンコール~
N. マッテイス:シャコンヌ

 

バロック時代にロンドンで活躍した作曲家といえば、ヘンデルの名前が真っ先に浮かぶが、正真正銘のロンドン生まれでその後のイギリス音楽に深い影響を与えたと言えるのは、ヘンリー・パーセルであろう。今日では晩年(とはいえ30代!)に作曲されたオペラ作品で知られ、最近でこそ宗教音楽作品も演奏されるようになってきたが、器楽作品が取り上げられることは多くはない。

パーセルは『3声のためのソナタ集』(12曲)と『4声のためのソナタ集』(10曲)を残しており、本日は前者から2曲、後者から3曲が演奏された。

まず前半は「イングランド内戦から王政復古期にかけてのイギリス音楽とパーセルへの影響」と題して、パーセルよりも1世代半から2世代前のイギリスの作曲家による作品と、パーセルの『3声のためのソナタ集』から2曲。

一番年長のローズの《ファンタジア》は、途中で別の調が混在したような不協和な音が混じり、何の調で弾いているのかわからなくなる瞬間があった。そうなると確かに落ち着かないのだが、さりとて決して不快ではなく、宙ぶらりんな状態を楽しんでいるとまた普通に戻っていく。今のはいったい何だったのだろう?

つづくパーセルの9番のソナタは、最初の6番のソナタに比べて“素直ではない”。冒頭のテーマからして半音がわざとぶつかるように組み合わされている上、緩やかな連関をもつ第3部分のカンツォーナや最後のアダージョでも、このぶつかりが活かされている。一筋縄ではゆかぬ感じがローズの曲想を思い起こさせる。

ヤングの曲は、イギリス人作曲家による最初の「ソナタ」だそうだが、一見わかりやすそうな曲想で始まり、声部間のやり取りを聴かせる音楽かと思いきや、フッと違う調に移ったり、一瞬だけマイナーに振れたりといった突然の聴きどころが随所に潜んでいて、一瞬も気が抜けないまま、翻弄されるがままに駆け抜けていってしまった。

前半最後のロックはブロークン・コンソートのための作品で、フルートなどの管楽器が編成に入ることが多いが、今回は2本のヴァイオリンで演奏された。テンポが細かく揺れ動いたり、旋律が思いもかけぬ方向に飛んでいったりして、まるでジェットコースターに乗っているかのようなドキドキ感を味わった。終わった瞬間、奏者全員がにっこり笑って「してやったり」の笑顔になったのが印象的だった。

後半はイタリアの作曲家とパーセルとの組み合わせ。前半とはがらりと変わり、最初のマッテイスはわかりやすいメロディーで聞きやすく、カッツァーティの《ラ・ストロッツァ》はひたすら楽しい曲。ヴィヴァルディなどに代表されるような18世紀的な明るさではないが、やはりイギリスものをいくつも聞いた耳で聞くと、能天気な音楽という感は否めない。

そしてその後のパーセルは、マッテイスやカッツァーティよりもお堅い感じがするが、よくよく考えると、前半の2曲よりは断然ストレートな曲になっている。つづいてコレッリ。コレッリの作品はヴィヴァルディなどの個性の強いイタリア作曲家と組み合わされることが多いせいか、「キレイだけど毒にも薬にもならない」印象を持ってしまうことがあるが、今回の文脈の中で聴くと、均整のとれた端正な美しさがパーセルの生真面目さと呼応して、俄然引き立ってくるから不思議である。

その端正さを引き継いだかのような、パーセルの4声のソナタ集第1番だが、後半のVivaceの部分でイタリアっぽい快活さをみせる。そこからは、ヴィターリの《ラ・グイドーニ》のいかにもイタリア・バロックな踊りだしたくなるようなグルーヴ感、パーセルの《黄金ソナタ》のGraveの息の長い旋律、最後のAllegroの一気呵成の勢いなど、あれよあれよという間に楽しい時間は終わってしまった。

アンサンブルは真ん中にチェロの山本が座り、左右にヴァイリンのオルモンドと天野が曲によって左右を交代しながら務めるという布陣。室内楽に山本が入ると彼の上手さが突出してしまうこともまれにあるのだが、このアンサンブルは4人のバランスがとても良かった。通奏低音を担当したチェンバロの辛川は、単に和声音を埋めるのではなく、他のパートの音型を入れてやり取りをしたり、不協和音を強調してメリハリをつけるなど、アンサンブルの完成度に貢献していた。

演奏会タイトルの「模倣か独創か」について、天野は「この質問への正しい答えを出そうという趣旨」ではないとトークでも語っていた。おそらくその答えは、聴いた人ひとりひとりの心の中に正解があるのだろう。今回の演奏会のためにオルモンドが出してきた曲のリストが膨大すぎて、時間内におさめるために曲数を削ることに苦労したと天野は語っていたが、オルモンドの確かな技術と豊かな音楽性に裏打ちされつつも遊び心を忘れない演奏は、コンサートが終わってもまだまだ聴きたいと思わせるものであった。

トリオ・ソナタという地味にみえる編成でも、これだけ心躍る体験ができるのだということが証明された演奏会だったと思う。ぜひ第2弾第3弾を楽しみにしたい。

(2019/12/15)

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<Performers>
Les Amis de Barbaste
  Violin: Coline ORMOND, Toshihiko AMANO
  Violoncello: Toru YAMAMOTO
  Cembalo: Taichi KARAKAWA

<Program>
Henry Purcell: Sonnata of III parts(1683) No. 6
William Lawes: Suite for 3 viols and organ No. 2
H. Purcell: Sonnata of III parts(1683) No. 9
William Young: Sonate a 3,4,e 5 No. 3
Matthew Locke: Brocken Consorts Part 1(1661) Suite No.4

–Intermission—

Nicola Matteis: Suite in G from Ayres for the Violin
Maurizio Cazzati: “La Strozza” from Suonate a 2 violini col suo Basso Continuo Op. 18(1659)
H. Purcell: Ten Sonatas in Four Parts(1697) No. 10
Arcangello Corelli: Sonate a trè Op. 1 No. 3
H. Purcell: Ten Sonatas in Four Parts(1697) No. 1
Giovanni Battista Vitali: “La Guidoni” from Sonate a due, tre, quattro, cinque strumenti Op. 5
H. Purcell: Ten Sonatas in Four Parts(1697) No.9 “Golden Sonata”

–Encore—
N. Matteis: Ciaccona