Back Stage|愛知県芸術劇場のオルガン事業は、次のステップへ…|水野 学
愛知県芸術劇場のオルガン事業は、次のステップへ…
Organ projects at Aichi Prefectural Art Theater go to the next stage…
Text by 水野 学(Manabu Mizuno)
◆毎年人気!「クリスマスはオルガンだ!」
愛知県芸術劇場の代表的なオルガン公演といえば、2002年から毎年継続している長寿公演の「クリスマスはオルガンだ!」で、今年で実に18年も続いています(2017年は劇場の改修工事のため開催無し)。
オルガンだけでも、時代や国が異なる様々な曲目とオルガン最大の特色でもある多彩な音色で、十分に飽きさせないコンサートにすることも可能ですが、より多くのお客様が楽しめるよう、“共演”と“投影”という2つのエッセンスをスタート数年後から加えてきました。特に投影は、客席から遠い演奏台の様子を、大型スクリーンにリアルタイムで映すのですが、お客様からは未だに高い評価を得ています。
おかげさまで、近年では、毎年、売り切れとなることが続いており、クリスマスシーズンの愛知のクラシックシーンにおいて、すっかり恒例行事の一つとなったようです。
今年は、親しみやすいながらも本格的なプログラムをご用意しました。共演にはシリーズ初となる“カウンターテナー”が登場します。オルガンとの妙なる響きを聴かせてくれることでしょう。
なお、このシリーズでは、昨年から新たな試みとして、視覚に障害のあるお客様を対象に、公演前の事前説明会や、点字資料などの対応も始め、少しずつではありますが、他の公演でも、障害のあるお客様に足を運んで頂けるようになってきたようです。
◆オルガンの魅力をより多くの人々に広げたい!
2009年から「安い入場料」「短めのプログラム」をコンセプトに掲げた「THEオルガンNIGHT」THEオルガンDAY」がスタートしました。
具体的には500円、45分というコンセプトをプログラムに設けたこの事業は、主にオルガン・ビギナーへの入り口として、実施時期は夏休みの平日、NIGHTが大人対象で19:30開演、DAYが子ども対象で14時開演としています。
スタート当時、DAYは午後のみの1公演でしたが、来場する子どもが乳児から中学生くらいまで年齢層が幅広く、8年目となる2016年からは幼児向けを午前に、子ども向けを午後に分けて実施するようになりました。これにより、より小さなお子様を持つ保護者の方が、より来やすくなったようで、幼児の部のベビーカーの列は、この事業ではお馴染みの光景となりました。
NIGHTでもカップルはもちろん、近年では、会社帰りと思しき若い男性数名のグループや、通常のコンサートではお見掛けしないような雰囲気のお客様がいらっしゃるようになり、しっかりと新規顧客開拓に貢献できているようです。
◆地元出身、地元在住の若手が劇場オルガニストに就任!
2017年8月から2018年11月下旬にかけて実施されたコンサートホールの改修およびオルガンのオーバーホールを契機に、専属の劇場オルガニストを置くこととしました。
人選にあたっては、劇場のオルガン保守もやってもらう必要があるため、劇場まで通える距離に住んでいること、劇場の主催事業にも出演してもらうため、十分な実力を持っていることを条件としました。また人材育成の観点から、若手のオルガニストと一緒に劇場も成長していこうと、豊田市出身・在住の都築由理江さんに委嘱しました。
就任してまだ1年未満ですが、既に冬のクリスマスと夏のワンコインの2つに出演したほか、次にご紹介する新たな育成事業を立ち上げるなど、劇場オルガニスト就任の効果は着実に出てきており、この先も楽しみです。
◆愛知からもっと多くのオルガニスト誕生を目指して
劇場オルガニストを据えたことで、活性化した一番のものが「オルガニスト養成事業」でしょう。都築さんの是非やりたい、という熱い想いを実現するため、コンサートホールの再スタートに先駆けて、2018年の初夏から中学生~25歳を対象に受講生の募集を開始し、12月にオリエンテーション、1月から3回にわたって大オルガンを使ったレッスンを行いました。
受講生は6名だけでしたが、それぞれがレッスンの最中で変わっていく様子に、講師の都築さんが嬉しそうに楽屋で話していたのが印象的でした。
今年は夏休み期間に実施したためか、前回を大きく超える24名の申し込みが殺到し、悩みながら選考した結果、13名に受講していただきました。受講生の中から近い将来、オルガニストを志す人が出てくるのではないかと、都築さん共々、早くも期待に胸を膨らませているところです。
◆アウトリーチ活動は、まだこれから
オルガン事業で最もハードルが高いのが、アウトリーチです。オルガンという楽器がホールに備え付けられた状態のため、他の楽器や声楽のように、簡単には外へ出ていく訳にはいきません。「ポジティフオルガン」といわれる簡単に運搬可能な小型のオルガンがあれば、劇場外での活動も見込めますが、導入できるとしてもまだまだ先のようです。ポジティフにしても持ち込んだ後、演奏するには調律が必要ですし、温度や湿度に敏感な楽器なので、持ち込める場所も限定されます。現状において現実的なものとしては、オルガンに関する短い講座などを外部で行うくらいが精一杯ですが、少しでも活動の範囲を広げていければと思っています。
水野 学(愛知県芸術劇場 企画制作)
(2019/10/15)
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公演情報
◆クリスマスはオルガンだ!2019
2019年12月20日(金)19:00開演
2019年12月21日(土)15:00開演
<演奏>
オルガン:近藤 岳
カウンターテナー:中嶋 俊晴
<曲目>
聖歌:「久しく待ちにし」(ヴェニ・ヴェニ・エマヌエル)★
J.S.バッハ:「いざ来ませ、異邦人の救い主よ」BWV659
N.ブルーンス:「いざ来ませ、異邦人の救い主よ」
A.ハイラー:「いざ来ませ、異邦人の救い主よ」
L.ヴィエルヌ :オルガン交響曲第6番 op.59 より V.フィナル(終楽章)
イングランド民謡(近藤 岳 編曲):グリーンスリーヴス(クリスマス・キャロル“御つかいうたいて”)★
O.メシアン:『主の降誕』より
II. 羊飼いたち
V. 神の子たち
IX. 神はわたしたちのうちに
F.グルーバー(近藤 岳 編曲):きよしこの夜★(賛助出演:都築由理江)
ほか
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/detail/000173.html#000173