工藤重典アニヴァーサリー・コンサート|丘山万里子
Concert Review
工藤重典アニヴァーサリー・コンサート〜フルートと共に50年〜
2015年9月21日 サントリーホール
Reviewed by 丘山万里子(Mariko Okayama)
<曲目・演奏>
ドビュッシー:フルート、ヴィオラ、ハープのためのソナタ
flute/工藤重典、vla/川本嘉子、harp/吉野直子
ピアソラ:「タンゴ」の歴史から
flute/工藤重典、guit/福田進一
モーツァルト:フルート四重奏曲第1番ニ長調K.285
flute/工藤重典、vl/堀米ゆず子、vla/川本嘉子、vc/山崎伸子
モンティ:チャールダーシュ
flute/工藤重典、pf/工藤セシリア
プーランク:六重奏曲
flute/工藤重典、ob/古部賢一、cl/赤坂達三、bass/吉田将、horn/日橋辰朗、pf/長崎麻里香
モーツァルト:フルート協奏曲第2番ニ長調K.314
flute/工藤重典、アニヴァーサリー・オーケストラ(コンサートマスター/松野弘明)
パリから日本へ拠点を移し、演奏、教育に活躍する工藤のフルート人生50年を祝う音の饗宴。駆けつけた豪華メンバーを見れば、これが日本を代表する名手たちの最高水準の「プレイ=遊び」であることが知れる。まさに。みんな遊んだ、楽しんだ、満喫した。笑顔こぼれる各ステージ、各奏者。そして客席。
冒頭のドビュッシーが素晴らしかった。フルート、ヴィオラ、ハープの組み合わせなんてめったに聴けないが、ドビュッシーの音色の調合の見事さに耳を奪われる。スーラの点描画みたいに精緻、かつ朧な色彩がぱあっと広がった第1楽章。ふるふると響きが泡立つ第2楽章。ヴィオラの太くシャープな低声がぐっと全体をひきしめた終曲。3者の綾なす極上のアペリティフに、すでに半酔いの気分になってしまった。
在籍したリール管で共演したことがあるというピアソラは、ギターが音量的に苦しく、いささか残念。二人の息はぴったりだったけれども、いかんせんホールが大き過ぎ。
モーツァルトは前半と後半の締めくくりに置かれたが、私は『四重奏曲』のほうが好きだ。音が流れ出したとたん、『魔笛』のシーンが目に浮かぶ。そう、魔法の笛。モーツァルトはフルートを好まなかったらしいが、でも、この『四重奏曲』には、若きモーツアルトのすっとひと刷毛ひかれた愁いとか、いたずらっぽく駆け回る瞳とかが実に魅力的にのぞく。それを4者はなんとのびのび描き上げたことだろう。
愛娘との共演からの後半は、プーランクが出色。いきなりドカンと爆竹がはぜたように始まるアレグロ・ヴィヴァーチェからワクワク感満載だ。3楽章を小気味良く、洒脱に、典雅に、饒舌に、ユーモラスに、と、全員、のりのり楽興の時。親密かつ愉悦に満ちた会話を存分にくりひろげた。
工藤の妙技はモーツァルトの『協奏曲』でのカデンツァでも発揮されたが、ほんとうの技は、やはり心だろう。芳醇な音色で、てらいなく、自然な音楽を紡ぎ出す。息は楽器と一緒。心も楽器と一緒。
聴いていて、ときおり、マネの『笛を吹く少年』が目に浮かんだ。あの明晰なラインと洗練された色合い。褪せず、熟し、はこれからではないか。