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スイス・ロマンド管弦楽団|佐野旭司

スイス・ロマンド管弦楽団
東京芸術劇場 海外オーケストラシリーズ

2019年4月13日 東京芸術劇場
Reviewed by 佐野旭司 (Akitsugu Sano)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:ジョナサン・ノット
ヴァイオリン:辻彩奈
管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団

<曲目>
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調op. 64
[ソリスト・アンコール]
 J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 BWV1006 より第3曲《ロンド風ガヴォット》
マーラー:交響曲第6番 イ短調

 

今年で創立100周年を迎えるスイス・ロマンド管弦楽団。4月にはその記念によるアジア・ツアーの一環として、5日間にわたり東京、名古屋、大阪をまわった。中でも13日の東京公演ではヴァイオリニスト辻彩奈との共演により、見事なかけ合いを披露していた。

本公演はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲で幕を開ける。ソリストは美しい音色を巧みに響かせていたが、しかし独奏の存在感を際立たせるというより、むしろオーケストラと独奏の一体感を重視した演奏といえよう。オーケストラはソロを際立たせつつも、その背後に回ることはなく、指揮者とソリストの卓越したバランス感覚が伺える。
この作品では第1楽章の展開部の終わりに長いカデンツが置かれているが、辻の演奏は比較的控えめであったように思われる。ダイナミックにうねるような表現ではないが、それでいて表情豊かである。この曲にも後述のアンコール曲にもいえるが、あえて技巧を衒おうとしないところに彼女の魅力があるのではないか。
ところでこの協奏曲は、3つの楽章がアタッカでつながっているが、楽章の変わり目が今ひとつ自然な流れとはいい難かった。第1楽章から第2楽章に移る際には、その橋渡し役のファゴットをもう少し抑えた方がよかったのではないか。ちなみに第2楽章から第3楽章への移行でもいくらか違和感を覚えるが、しかしこれは今回に限ったことではなく、演奏よりもむしろ曲の構造上の問題であろう。

アンコールはバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番より第3曲《ロンド風ガヴォット》。 音色とテンポの両方に「柔軟性」が感じられる演奏であった。
力強く輝かしい音色というよりはむしろ柔らかい音色で、特に重音奏法では決してアタックが強くなることなく、心地よい響きがした。またテンポの変化のつけ方が絶妙で、特に短調の部分ではテンポを自由に変化させており、演奏家の独特のセンスが伺えよう。

プログラム後半はマーラーの交響曲第6番。メンデルスゾーンの時と同様、指揮者とオーケストラの優れたバランス感覚が伝わる演奏であった。複雑な構造の曲であるが、オーケストレーションや形式構造およびその他の様式的特徴と、それらがもたらす魅力を十分に引き出していたといえる。
この作品は、全体の楽章構成やその内部の形式構造が伝統的である一方、オーケストレーションが斬新という二面性を持っている。後者はこの交響曲の聴きどころの1つでもあり、特に打楽器がその代表的な例であろう。
第1,3,4楽章にはカウベルが用いられるが、これは当時としては真新しい試みで、オーケストラの楽器の中では音色的にも異質である。今回の演奏ではそれがオーケストラの中で音色的にうまく溶け込み、特に第1楽章の展開部では、ヴァイオリンのピッツィカートと完全に一体化していたといっても過言ではないだろう。また第4楽章に登場する金属の板も、他の楽器と調和しつつも存在感がはっきりと現れていた。一方第4楽章で2回用いられるハンマーは、音量や迫力は十分だったが、やや重厚さに欠けるという感も否めない。いかにも木の板を叩いているような(実際にそうなのだろうが)、乾いた音色だったのが残念である。
さて、この交響曲は伝統的な4楽章構成で、特にソナタ形式の第1,4楽章では主題とその発展による統一性が重視されており、どちらも長大でありながらもその内部構造は分かりやすい。そして他の楽章も含めて、曲全体において主題の発展が網の目のように張り巡らされている。主題の発展の際には、複数の要素が同時進行で現れることが多いが、この演奏ではそれらがしっかりと響いていたといえる。
ただ、第1楽章の推移動機(木管によるコラール風の旋律)の対声部として弦のピッツィカートが第1主題を奏するところや、終楽章の第1主題再現の際に第2主題の旋律が対声部として現れるところで、対声部がはっきり響いていなかったのは残念。こういう構造的な面白さがもっと強調された方が良いだろう。
特に前者はこの時期のマーラーの様式的特徴を端的に表す部分であるからだ。彼の交響曲においては、異なる性格の動機を並列させる特徴が目立つ。しかし第6番以降では、彼の初期の交響曲とは異なり、そのような部分でもモティーフ関連による連続性や統一性が保たれる傾向にある。細かい話に思えるかもしれないが、第1楽章の推移部はマーラーのそうした様式変遷を示す重要な部分でもある。そのような特徴を踏まえることは、演奏においても大切ではないだろうか。

 (2019/5/15)

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