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Pick Up (2026/5/15)|国際古楽コンクール山梨2026|大河内文恵

第37回国際古楽コンクール山梨2026
International Competition for Early Music YAMANASHI, Japan
2026年4月24日~4月25日 甲府商工会議所、Cotton Club
2026/4/24-25 Kofu Chamber of Commerce and Industry, Cotton Club
2026年4月26日  山梨県立図書館多目的ホール
2026/4/26 Hall of the Prefectural Library, Yamanashi Prefecture

Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi) 

国際古楽コンクール山梨が創立から40年を迎えた。回数が40でないのは、2011年の東日本大震災で1回、2020年と2021年のコロナ禍で2回延期になったためである。長く続くこのコンクールに今年は異変が起こった。開催された鍵盤楽器部門とアンサンブル部門のうち、アンサンブル部門に応募者がなかったのだ。このようなことは創立以来初めてのことだという。また、鍵盤楽器部門も応募者が20名とこれまでよりも少数であった。しかし、コンクール自体は却って活況を呈した。

昨年最後の実行委員長荒川氏の挨拶の中で、次年度は少し変化があるかもしれないと予告されており、実際にいくつかの変更がおこなわれたのだが、応募人数の変動がコンクールのあり方に影響を与えるという思いがけない展開になった。

受付で配布されるプログラムは、これまで部門ごとのエントリー順に参加者が記載されていたが、今年は最初から演奏順に記されており、わかりやすくなった。使用楽器は2024年と同一で、ピッチも2024年と同様にチェンバロはa=415、フォルテピアノはa=430に固定された。アンサンブル部門はピッチの変更を考慮すると参加要項にあったが、アンサンブル部門の応募者がなかったため、実施されなかった。

予選は24日に8人、25日に12人という形でおこなわれた。例年ならば一人12~13分程度の演奏時間のところ、今年は前提出した曲目の中から20分のプログラムを組むよう、コンテスタントに実行委員会から指示があり、そのプログラムに沿っておこなわれた。

コンテスタントは、演奏前に英語で審査員と聴衆に向かって、演奏する曲目をアナウンスするのが、このコンクールの特徴の一つであるが、しばしばこれが聞き取りにくいことがある。今回は、演奏後に荒川氏によって演奏曲と使用楽器がアナウンスされ、把握しやすかった。チェンバロ部門はスヴェーリンクもしくはバードのラクリメがおそらく必須で全員が演奏し、J.S.バッハのカプリッチョと現代曲は本選用に外した上でプログラムが組まれた。ルイ・クープランは任意のプレリュード・ノン・ムジュレで始めることのみが指定されているため、奏者によってどの組曲のどの曲を選ぶかはさまざまとなっていたり、ブクステフーデ、スカルラッティ、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの曲は入れる奏者と入れない奏者がいたりと、一つとして同じプログラムがなく、奏者の個性をじっくりと聞くことができた。

事前申請では、チェンバロが16名、フォルテピアノが4名だったが、「適当と考える場合は、フォルテピアノ課題の数曲をチェンバロで、チェンバロ課題数曲をフォルテピアノで演奏してもよい」との但し書きがあり、フォルテピアノの中に一部をチェンバロで演奏した奏者がいたことも記しておきたい。

夜におこなわれるコンサートは、今年は1日目が審査員であるミリアム・リニョルとジュリアン・ヴォルフスを中心に彼らと活動をしている演奏者(川久保洋子、村上暁美、水内謙一)が加わったアンサンブルによるもの、2日目が声楽部門3位の小池優介と旋律楽器部門3位の瀬下莉瑚によるコンサート、3日目が声楽部門2位の小林恵によるコンサートで、それぞれが互いのコンサートに賛助出演した。

通常、1日目と2日目のコンサートはコットンクラブでおこなわれるのだが、今回1日目はコンクールと同じ商工会議所の201号室で開催された。会場に入ると、中央に桜が活けられ、床のあちこちで蝋燭が揺らめいている。「シェイクスピアの春夏秋冬」と題されたコンサートは、すべての電灯が消され、真っ暗ななかでイントロ(ヒューム:問いかけ)が流れてきて始まった。一列だけ電気がついて、春のパートに入ると、後ろからカッコウ の鳴き声が聞こえてきた。水内氏がカッコウ(1)のメロディーを奏でながら入ってきてステージに合流すると、場が整う。2台チェンバロあり、リコーダーソロありとさまざまな春を堪能し、最後はトマス・モーリーの軽快な曲で会場が活気づいた。

ヴォルフス氏が桜の枝を向日葵に差し替え、夏が訪れる。それまで各自、黒の衣装のどこか一部に黄緑色のものを身に着けていたのだが、ここでそれがすべて黄色に置き換わった(衣装チェンジはこの後、すべての季節の変わり目におこなわれた)。このパートはパーセルの《妖精の女王》(原作『真夏の夜の夢』)から曲が選ばれている。後半4曲はすべてダンス・チューンが並ぶが、一曲として同じものはない。編成に工夫がされているのみならず、1つ1つの舞曲の性格がきっちり描き分けられており、舞曲という一括りのものではなく、微妙なニュアンスの違いと多様性を体感した。

秋は葡萄の枝とオレンジ色であらわされる。3曲目の《酒をくれ》では、酒瓶の口の部分を吹いて音を出し、その音程を使って合奏する。彼らはこんなこともするのかと驚いていると、次の《喉が渇いた》が始まり、一列に並んで一人ずつカノンでずらしながら歌い出した。え、待って。これは何のコンサートだったっけ?と頭の中にクエスチョンマークが飛び交う。さらに、次の曲では、酔っぱらった一人が寝落ちしそうになる芝居までついて、まるで劇場にいるかのよう。最後にアンコールでもう一度カノンを歌い、歌いながら退場。1つ1つの演奏が精緻なだけでなく、衣装・照明・装置と動きも加えて、全力で楽しませようとしてくる彼らに脱帽の夜であった。

2日目はコットンクラブにて、まずヘンデルのヴァイオリン・ソナタから。始まって数秒であぁ、これこそヘンデルの世界だと思った。旋律の歌いかたにヘンデルらしさが溢れているのはもちろん、長く延ばす音での瀬下の音の延びが絶妙。楽器の巧さというのはいわゆるテクニックの部分も重要だが、音色のもつ魅力も大きな位置を占める。そんなことを考えながら聴いていたら、3楽章が始まったところで弦が切れた。

弦を張り替える間、次の曲を演奏したり、賛助で入っていた島根がピリオド楽器にとって「弦」とは?というトークを展開して場をつなぎ、さらに翌日に演奏する予定のパーセルの曲を小池と小林とで演奏し、凌いだ。弦を張り替えて戻ってきた瀬下は3曲目のローマンのアッサッジョを演奏。時間の都合上しかたないとはいえ、ヘンデルの3,4楽章が聴けなかったのは非常に残念だった。いつか、また別の機会にでも聴いてみたいと思う。最後のJ.S.バッハのカンタータは全員での演奏。ヘンデルでのイタリア語も板についていたが、やはり小池のドイツ語は安定感が際立っている。さらに、声種としてはバスであるにもかかわらず、高い音域の声も魅力的であることに気づく。1時間足らずの短い時間だったが、瀬下も小池ももっと長い時間聴いていたかった。

3日目は「17-18世紀のイングランドの歌」と題する小林恵のリサイタル。きれいな声のお姉さんといったイメージだった小林が昨年のコンクールでは幅広い表現力を発揮し、新たなステージに上がったことが印象的だったが、1年たってさらにそれが感じられた。とくに6曲目の《おお、美しきセダリアよ》ではギアを1つ上げたことを感じさせる冒頭に続き、3連目で一気に空気が変わり、ヒリヒリとしたものを感じさせた。続く《ああ、燃え盛る薪から~》でも悲劇を見ているかのような前半と、開き直って明るく宣言する後半との対比が見事。この日は小池と瀬下も賛助で出演し、ソリストとしてだけでなくアンサンブル奏者としての彼らの能力の高さを示した。また、入賞者全体で(さらに賛助で入ったチェロの島根とチェンバロの石川も含め)いいものを作ろうと一丸となって協力する姿に、アンサンブルのよさと彼らの1年間の成長を感じた。

3日目、荒川氏より今回のコンクールについて2点の言及がなされた。1)アンサンブル部門に応募がなかったこと。これは日本の音楽教育の大きな問題である。アンサンブルをするというのは民主的にそれぞれの意見を取りまとめる力、すなわちリーダーシップを涵養する場であるとし、そうした力を育てるべく40年このコンクールをやってきたことが述べられた。さらに、この部門が育っていないことへの危機感に触れ、フロアに向かって協力を呼び掛けた。

2)今回の応募者、裏方を務めた楽器製作者、審査員ともに「国際」にふさわしいさまざまな国の人々が集まったことが報告された。なかでも、審査員には先輩・中堅・若手と意図的にさまざまな年代を組み入れ、さらに日本人の審査員も東京一極集中ではない方向性を考慮し、さまざまな考えをもってあたっていただくことを目指したという。また、結果発表の前には、裏方としてコンクールを支えた楽器製作者たちを聴衆に紹介した。コロナ禍以前には楽器の展示などがあり、聴き手も楽器製作者と点を持つことが可能だったが、展示がなくなってからはそのような機会がなくなっていたので、こうした紹介は非常に重要だった。

結果発表の前にはコンクールのスポンサーである(株)印傳屋社長の挨拶と、審査員長の大竹氏による全体講評がおこなわれた。(株)印傳屋上原勇七氏からは、400年以上続く会社の歴史と古楽との共通点について触れられ、古楽という文化をサポートするという力強い言葉が聞かれた。文化・芸術に対する風当たりの強さを実感する出来事が多発する現在、これほど心強いことはない。大竹氏からは、鍵盤楽器の応募が20名と少なかったことで、演奏時間の拡張と、コンテスタント自身によるプログラム作成がおこなわれたことで、実にさまざまなプログラムを聴くことができたことの意義が語られた。また、プログラムを組むということそのものが、ルネサンス・バロックのみならず、古代ギリシアからの伝統を引き継ぐものであるという、長期的な視座に立つ結果になったことが述べられた。

今回の入賞者は、1位、2位、3位がひとりずつで久しぶりに1位入賞者が誕生した。
来年は2027年4月30日~5月2日で、声楽部門と旋律楽器部門が開催される予定である。

(2026/5/15)

 

(1) 日本ではカッコウは5~6月にあらわれる初夏を告げる鳥だが、イギリスでは4月頃にアフリカから飛来し、春を告げる鳥とされている。

4月24日(金)
シェイクスピアの春夏秋冬 Four Seasons by Shakespeare
ミリアム・リニョル ヴィオラ・ダ・ガンバ
ジュリアン・ヴォルフス チェンバロ
川久保洋子 ヴァイオリン
水内謙一 リコーダー
村上暁美 チェンバロ
於: 甲府商工会議所201室

イントロ
ヒューム:問いかけ
~芽吹きの春~
ニコルソン:カッコウ
ジョンソン:ミツバチが蜜を吸うところで 『テンペスト』より
ファーナビー:2台のヴァージナルのための小品
ジョンソン:父は深い海底に 『テンペスト』より
モーリー:恋する若者とその彼女 『お気に召すまま』より
モーリー:五月祭の季節がやってきた
~夏の夜の夢~
パーセル:妖精の女王(原作『真夏の夜の夢』)より
プレリュード
恋が甘い情熱なら
緑色の服を着た男たちの踊り
妖精たちの踊り
干し草つくりの人々の踊り
シャコンヌ~中国の男女の踊り
~実りの秋の収穫祭~
コペラリオ:ニンフのダンス (フランシス・ボーモント『インナー・テンプルとグレイの法曹院のマスク』より)
コペラリオ:コペラリオ (フランシス・ボーモント『インナー・テンプルとグレイの法曹院のマスク』より)
レイヴンズクロフト:酒をくれ
喉が渇いた
ジョンソン:サチュロスのマスク(ロバート・ジョンソン『オベロン』より)
~寒さ厳しい冬~
トムキンズ:4手のためのファンシー
ホワイト:3声のファンタジア
ギボンズ:時を告げる鐘
結び
ヒューム:答え
~アンコール~
レイヴンズクロフト:喉が渇いた

4月25日(土) 入賞記念コンサート
小池優介(バリトン)瀬下莉瑚(ヴァイオリン)デュオ・コンサート
賛助出演:小林恵(ソプラノ)石川友香理(チェンバロ)島根朋史(チェロ)
於: Cotton Club

ヘンデル:ヴァイオリン・ソナタニ長調Op. 1-13 HWV371
ヘンデル:愛の戦から逃れよ
ユーハン・ヘルミク・ローマン:アッサッジョ
F. ベンダ:ヴァイオリン・ソナタ第23番ハ短調(Lee III:9)
J.S. バッハ:我が片足すでに墓穴に入りぬ
平安、汝とともにあれ(BWV 158)

4月26日(日) 入賞記念コンサート
17-18世紀のイングランドの歌
ソプラノ 小林恵
賛助:小池優介(バス)、瀬下莉瑚(ヴァイオリン)
島根朋史(チェロ)、石川友香理(チェンバロ)
於: 山梨県立図書館多目的ホール

ジョン・ダウランド:晴れても、曇っても
来たれ、重苦しい夜
ヘンリー・パーセル:朝の賛歌
夕べの賛歌
G.F. ヘンデル:カンタータ「恋に溺れた魂は」HWV173より抜粋
H. パーセル:おお、美しきセダリアよ
ジョン・エクルズ:ああ、燃え盛る薪から彼の体をそっと抱き上げて
パーセル:僕が口づけを求めるたびにダルシベラは
ヘンデル:カンタータ「黙って、ああお前たち、黙って」HWV196
~アンコール~
ヘンデル:カンタータ「アポロとダフネ」HWV122より、二重唱