温故知新 ~ガット弦で紡ぐ新しき世紀のうた~ シバムジークサロンコンサートVol.25|大河内文恵
アーク紀尾井町サロン主催シリーズ木曜コンサート 温故知新 ~ガット弦で紡ぐ新し
き世紀のうた~ シバムジークサロンコンサートVol.25
2026年2月5日 紀尾井町サロンホール
2026/2/5 Kioicho Salon Hall
Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
写真提供:株式会社シバムジーク
<出演> →foreign language
Duo Yamane:
山根 風仁(チェロ)
山根 友紀(ピアノ)
主催:アーク証券株式会社
共催:紀尾井町サロンホール運営事務局
企画・制作:株式会社シバムジーク
<プログラム>
エドワード・エルガー:夜の歌
レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ:イギリス民謡による6つの習作
E. エルガー:朝の歌
イーゴリ・ストラヴィンスキー:イタリア組曲
~~休憩~~
ガブリエル・フォーレ:エレジー
夢のあとに
チェロソナタ第2番
~アンコール~
フォーレ:シチリアーナ
シバムジークサロンコンサートは、紀尾井町サロンホールで月1回開催されているシリーズである。普段は古楽器(バロック・チェロとフォルテ・ピアノ)で古典派、ロマン派時代の作品を演奏することの多いDuo Yamaneが、ガット弦を張ったチェロとモダンのピアノで臨むコンサートを聴いた。
曲目はエルガー、ヴォーン・ウィリアムズ、ストラヴィンキーにフォーレと20世紀前半の作曲家が並ぶ。モダンの奏者の演奏会ならば何の不思議もないプログラムだが、これを古楽器奏者が演奏するというのは前代未聞。少々意地悪な言い方をすると、古楽の愛好家にとっては聴きたい曲目から大きく外れるし、この時代の音楽が好きな人であれば、わざわざ古楽器奏者の演奏を選ぶ必要はない。それを反映してか、空席の目立つ客席ではあったが、それを忘れさせる熱気が会場に溢れた。
第1部と第2部の最後に置かれた組曲とソナタがメイン曲で、それ以外は比較的短い、どちらかというと軽く扱われる曲目が並んだが、それらが決して「軽く」ないのが印象に残った。冒頭の《夜の歌》は、ガット弦によって柔らかな音色を奏でるチェロのたゆたう響きの傍らで、ピアノの和声が刻々と変化していく。ピアノは単なる伴奏ではなく、むしろ音楽を引っ張っていく存在で、その万華鏡のような変化に心躍らせながらチェロの音色が沁み込んでくると、涙腺が緩みそうになる。いや、まだ1曲目だぞ。
2曲目はイギリス民謡を使った小品集。チェロという楽器は人の声に近いとよく言われるが、楽器で弾いているのに、まるで人の声で歌われているように感じる。1曲1曲が1分ほどと短く、曲想がどんどん変わっていく。ピアノとチェロのデュオの場合、チェロ奏者はピアノ奏者の視線の先あたりに位置どることが多いが、今回のチェロはピアノ奏者の背中側にいて、お互いが90度で背中合わせになっている。互いに視線を交わすことなく、却って聞こえてくる音楽から、互いの信頼関係が感じられた。以前にDuo Yamaneを聴いたときには、どちらかが仕掛けると「ほいきた!」と遣り取りが聞こえるように思えたのだが、それすら聞こえず、そうした意識すら不要になったのかと驚いた。
話は逸れるが、フィギュアスケートのペアの競技では、危険と隣り合わせの技が多く、絶対的な信頼関係と細部にまで行き届いたシンクロニシティがないと、オリンピックで金メダルをとった「りくりゅう」(1) のようなトップ選手にはなれないというが、それに通じるものを感じた。続く《朝の歌》では、息ぴったりという形容すら野暮だと感じるに至る。
さて、ここまでが前菜である。第1部の最後はストラヴィンスキー。1曲目はプルチネッラでお馴染みのあの曲。さすがに本物感がすごい。2曲目、3曲目と進むにつれて、徐々に新古典主義に包まれたストラヴィンスキーがその本性をあらわし始める。何重にもくるまれていても隠し切れない狂気、いやストラヴィンスキー生来の変態性とでも言うべきか。嵐のように前半が終わった。
第2部はフォーレの《エレジー》と《夢のあとに》から。どちらも言わずと知れた名曲だが、それにしてもこの無敵感は何? 朗々としたチェロの音色に、和音を連打するピアノが絡む。ふと、山根友紀がかつて通奏低音奏者として活躍していたことを思い出した。独奏楽器に寄り添いつつも、引っ込み過ぎず、つかず離れずの絶妙な距離で進んでいく、これはまさに通奏低音奏者の匠のなせる業ではないか。
こういうアプローチのしかたがあったのかと半ば夢見心地になっていると、最後のチェロソナタが始まった。これまでの2曲が圧倒的な名旋律に裏づけられた曲であったのと対照的に、ソナタの1楽章には息の長い旋律は出てこない。駆け上がる旋律はすぐに途切れ、下降線を描き、また昇っていくといったふうにこちらの期待を裏切っていく。メロディーに頼らずとも、立ち現れる構成感に「ソナタ」の本領をみた。音の数の多い3楽章では、まったく難しさを感じさせず、流れが一連の動きに還元され、それに客席が共鳴するのを感じた。間違いなく、このシリーズの伝説回になったことを確信する。
アンコールでは、これまたフォーレの名曲《シチリアーナ》。しかし、彼らの演奏は甘すぎず、感傷に傾くこともなく、音そのものだけが語る。そしてここでも、二人のバランスの良さが光る。小さな会場でモダン楽器を演奏すると、ともすると響き過ぎてしまうことがあり、音楽の内容よりもそちらが気になってしまうことがあるが、彼らの演奏はその点でも申し分なかった。古楽を愛する人にもモダンの人にもどちらにも是非聴いて欲しい演奏会だった。
(2026/3/15)
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<Player>
Duo Yamane:
YAMANE Futo Violoncello
YAMANE Yuki Piano
<Program>
Edward Elgar: Chanson de Nuit
Ralph Vaughan Williams: Six Studies in English Folksong
E. Elgar: Chanson de Matin
Igor Stravinsky: Suite Italienne
–intermission—
Gabriel Fauré: Élégie
Après un rêve
Deuxième sonate pour violoncelle et piano
–encore—
Faure: Sicilienne, Op. 78


