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東京芸術劇場シアターオペラvol.19  ドニゼッティ/歌劇《愛の妙薬》|藤堂清

2025年度 全国共同制作オペラ  東京芸術劇場シアターオペラvol.19 
ドニゼッティ/歌劇《愛の妙薬》 
(全2幕/イタリア語上演/日本語・英語字幕付き/新制作) 
Tokyo Metropolitan Theatre Opera vol.19 
Gaetano Donizetti: Opera “L’elisir d’amore” 
New Production, opera in 2 Acts sung in Italian, with Japanese and English surtitles 

2025年11月9日 東京芸術劇場コンサートホール 
2025/11/9 Tokyo Metropolitan Theatre Concert Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by 長澤直子 (Naoko Nagasawa) 

出演       →Foreign Languages
指揮:セバスティアーノ・ロッリ
演出:杉原邦生(KUNIO)
アディーナ:高野百合絵
ネモリーノ:宮里直樹
ベルコーレ:大西宇宙
ドゥルカマーラ博士:セルジオ・ヴィターレ
ジャンネッタ:秋本悠希
ダンサー:福原冠、米田沙織、内海正考、水島麻理奈、井上向日葵、宮城優都
合唱:ザ・オペラ・クワイア
管弦楽:ザ・オペラ・バンド

 

2025年度の全国共同制作オペラ、ドニゼッティの歌劇《愛の妙薬》、東京芸術劇場、大阪フェニーチェ堺、京都ロームシアター京都の3劇場で上演される。全国共同制作オペラは、「単館では成しえない、独創的かつ高いレベルのオペラを新演出で制作するプロジェクト」で、舞台構造の限界から装置は限られたものとなることが多い。演出に他分野の人をあて、新たな視点を取り込む舞台を作り続けている。今年の演出家は杉原邦生、木ノ下歌舞伎など多くの演出を手がけているが、オペラの演出は今回が初めてという。
舞台はなかなか大胆なもの。ホールのステージ全体に白い内舞台を設置、その中央に白い円盤、その上に大きなショッキングピンクのハート。円盤を回転させるとハートは真っ黒な鏡面に変わる。ハートの色が主人公の恋の状況を表す。また6人のダンサーがピンク系の衣裳で、黒衣的な役割を果たす。演出の基本コンセプトは「カワイイ」とのこと。全体としてポップな明るい色調で統一されていた。ドゥルカマーラがパンダ車で登場するなども、このコンセプトに従ったものだろう。
歌手はおおむね健闘。純朴な農夫のネモリーノという役どころにピッタリの宮里直樹、余裕たっぷりの声、会場をつつむ響きで、聴衆をとりこにした。〈人知れぬ涙〉は見事。ベルコーレ、「キザで自信家な軍曹」というのがプログラムの登場人物紹介の言葉だが、大西宇宙の役作りはそれに嵌っている。アディーナに向かって歌う〈パリスがやったように〉は自信がみなぎる歌。アディーナの高野百合絵、はじめのうちは不安定なところもあったが、すぐに落ち着きを取り戻した。彼女の強みはなにより舞台映えするところだろう。歌手の中で、残念だったのは、ドゥルカマーラを歌ったセルジオ・ヴィターレ。本来喜劇の回し役だが、歌も演技もそれが見えず、凹んでいる感じであった。
指揮のセバスティアーノ・ロッリは、ベルカント・オペラのスペシャリストだというのだが、このオペラに新たな視点を持ち込むといった前向きな姿勢はうかがえず、アリアや重唱など歌手が歌いやすいように配慮しているだけに聞こえた。ザ・オペラ・バンドはその範疇でよく演奏していたと思う。
とはいえ、演出、歌手、高い水準で楽しませてくれたことに感謝したい。

 (2025/12/15)

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[Cast]
Conductor: Sebastiano Rolli
Stage Director, Choreographer, Designer: Kunio Sugihara
Adina: Yurie Takano
Nemorino: Naoki Miyasato
Belcore: Takaoki Onishi
Dr. Dulcamara: Sergio Vitale
Giannetta: Yuki Akimoto
Dancers: Kan Fukuhara, Saori Yoneda, Masataka Uchiumi,
     Marina Mizushima, Himawari Inoue, Yuto Miyagi
Orchestra: The Opera Band
Chorus: The Opera Choir