TOPPANホール25周年 室内楽フェスティバル V フォーレ四重奏団とともに|藤堂清
〈2025/26シーズンオープニング 特別企画〉
TOPPANホール25周年 室内楽フェスティバル V
フォーレ四重奏団とともに
[ 2025/26 Season Opening Project ]
TOPPAN HALL 25th Anniversary season
Chamber music festival 5
2025年10月8日 TOPPANホール
2025/10/8 TOPPAN Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 大窪道治/写真提供:TOPPANホール
出演者 →Foreign Languages
フォーレ四重奏団
エリカ・ゲルトゼッツァー(ヴァイオリン)
サーシャ・フレンブリング(ヴィオラ)
コンスタンティン・ハイドリッヒ(チェロ)
ディルク・モメルツ(ピアノ)
アネッテ・ダッシュ(ソプラノ)
プログラム
E.キュンネッケ(リーヒマキ編):朝は幸せ(オペレッタ《リーセロット》より)
P.H.エルレバッハ(リーヒマキ編):
運命よ、お前は私を弄ぶ/我らの生は深き悲しみに満ち
エリオット・スミス(カーデン編):鉄格子の間[フォーレQ]
R.シュトラウス(ツェルナー編):
《4つの歌》Op.27より 第3曲 密やかな誘い/第4曲 あしたこそ
ドビュッシー(カウフマン編):《ベルガマスク組曲》より〈月の光〉[フォーレQ]
ヘルマン・ティーメ(リーヒマキ編):幸福は長く続かない
E.カールマン(リーヒマキ編):
ああ、幸せを追いかけてはいけない(オペレッタ《チャールダーシュの女王》より)
———————–(休憩)———————–
レハール(リーヒマキ編):愛よ、地上の楽園よ(オペレッタ《パガニーニ》より)
クルト・ヴァイル(リーヒマキ編):
ハバネラ風タンゴ〈ユーカリ〉(オペラ《マリー・ギャラント》より)
エドゥアルド・フベルト:フォーレタンゴ[フォーレQ]
コルンゴルト (リーヒマキ編):私に残された幸せよ(オペラ《死の都》Op.12より)
レナード・バーンスタイン (リーヒマキ編):
俺にとって幸運なこと(ミュージカル《オン・ザ・タウン》より)
ヴィンセント・ユーマンス (リーヒマキ編):
ときどき幸せ(ミュージカル《艦隊は踊る》より)
フランク・レッサ ー(リーヒマキ編):
幸運は女性にあり(ミュージカル《ガイズ・アンド・ドールズ》より)
——————-(アンコール)——————-
R.シュトラウス(ツェルナー編):《8つの歌》より〈献呈〉Op.10-1
ヴェルナー・リヒャルト・ハイマン(リーヒマキ編):世界のどこか
TOPPANホール25周年の2025/26シーズンオープニング 、フォーレ四重奏団を中核とした室内楽フェスティバルの最終日、ソプラノのアネッテ・ダッシュを迎えて、オペレッタ、ミュージカルを中心とするプログラムを演奏した。
1曲目、キュンネッケの〈朝は幸せ〉、フォーレ四重奏団の面々が弾き始めるなか、朱色のドレスに身を包んだダッシュが登場、歌い始める。彼女の明るく弾むような歌声に、会場があっという間にヒートアップ、大きな拍手に包まれた。
続くエルレバッハの2曲は、この日のプログラムの中では異色のバロック時代の作品。声楽技巧を駆使し運命の女神に左右される人生を歌う〈運命よ、お前は私を弄ぶ〉、望んだ幸せに裏切られた悲しみを歌う〈我らの生は深き悲しみに満ち〉。この日のコンサートのテーマそのものといえる。
スミスの〈鉄格子の間〉はフォーレ四重奏団だけで演奏された。設立30年をむかえたこの団体、各楽器間のバランス、そして他奏者とのやりとり、各人が個性を活かしながら生き生きとした音楽をうみだしていく。
R.シュトラウスの2曲の歌曲、通常はピアノ伴奏で歌われるが、フォーレ四重奏団のバックは色彩感あふれるもの。2曲目の〈あしたこそ〉はヴァイオリンのオブリガート付きで演奏されることはあるが、それより多彩なものであった。ダッシュも伴奏に負けず劣らず濃密な表情の歌を聴かせる。
前半の最後は、カールマンのオペレッタ《チャールダーシュの女王》から〈ああ、幸せを追いかけてはいけない〉。この曲では、ダッシュは舞台狭しと踊りながら歌い、会場の注目を一身に集めた。
後半はレハールのオペレッタ《パガニーニ》のアリアから始まる。パガニーニとの愛を失った女主人公が、その愛に切々と訴えかける。ダッシュの歌のしっとりとした味わいが聴きもの。
続いてヴァイルのハバネラ風タンゴ〈ユーカリ〉、幸福を求めて憧れる架空の国、でもそんなものは存在しないと歌う。ジャズっぽいなどいろいろなアプローチがある曲だが、ダッシュとフォーレ四重奏団にかかると、随分と立派な雰囲気のものとなる。
エドゥアルド・フベルトのフォーレタンゴはフォーレ四重奏団のために作曲された作品、彼らが名刺がわりに演奏している。ピアソラを思わせるタンゴのリズム、会場も盛り上がる。
コルンゴルト のオペラ《死の都》のアリアをはさみ、コンサートの最後のパートは、ミュージカルからの3曲。バーンスタイン の〈俺にとって幸運なこと〉、ユーマンス の〈ときどき幸せ〉、レッサーの〈幸運は女性にあり〉と幸運について歌う。
アンコールは2曲、R.シュトラウスの〈献呈〉、そしてリヒャルト・ハイマンの〈世界のどこか〉。「世界のどこかに小さな幸せが」と歌う2曲目はこのコンサート全体をまとめるようで見事な選曲。
アネッテ・ダッシュの華やかさを感じさせる声、それを支えたフォーレ四重奏団の緻密で豊かな響き。なにより、ダッシュがフォーレ四重奏団の一員となったような舞台姿、演奏スタイル、それがこの日の音楽を決めていたと言えるだろう。そして、幸福や運命、充たされない愛、といったテーマを編み込んだプログラムもぴったりとはまっていた。
(2025/11/15)
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Performers
Fauré Quartett
[ Erika Geldsetzer, vn / Sascha Frömbling, va / Konstantin Heidrich, vc / Dirk Mommertz, pf ]
Annette Dasch, Sop
Program
E.Künneke: “Liselott”, ‘Glücklich am Morgen’
P.H.Erlebach: Fortuna, du scherzest mit mir / Unser Leben ist mit viel Not umgeben
Elliott Smith: Between the Bars
R.Strauss: 4 Lieder Op.27, No.3 ‘Heimliche Aufforderung’ / No.4 ‘Morgen’
Debussy: “Suite Bergamasque”, ‘Clair de lune’
Hermann Thieme: Das Glück kennt nur Minuten
E.Kálmán: “Die Csárdásfürstin”, ‘O, jag’ dem Glück nicht nach’
——————(Intermission)——————
Lehár: “Paganini”, ‘Liebe, du Himmel auf Erden’
Kurt Weill: “Marie Galante”, Tango ‘Youkali’
Eduardo Hubert: Faurétango
Korngold: “Die tote Stadt” Op.12, ‘Glück, das mir verblieb’
Leonard Bernstein: “On the Town”, ‘Lucky to be me’
Vincent Youmans: “Hit the Deck”, ‘Sometimes I’m happy’
Frank Loesser: “Guys and Dolls”, ‘Luck be a lady’
———————(Encore)———————
R.Strauss: 8 Lieder Op.10, No.1 ‘Zueignung’
Werner Richard Heymann: ‘Irgendwo auf der Welt’

