Pick Up (2025/10/15)|藤原歌劇団公演『ラ・トラヴィアータ〜椿姫〜』|長澤直子
藤原歌劇団公演『ラ・トラヴィアータ〜椿姫〜』ゲネプロレポート
The Fujiwara Opera “La Traviata”
2025年9月6日 新国立劇場 オペラパレス
2025/9/6 New National Theatre, Tokyo
Text&Photos by 長澤直子(Naoko Nagasawa)
〈スタッフ〉
指揮:阿部加奈子
演出:粟國淳
合唱指揮:安部克彦
美術&衣裳:アレッサンドロ・チャンマルーギ
照明:原中治美
振付:伊藤範子
舞台監督:菅原多敢弘
副指揮:大浦智弘、矢野雄太
演出助手:上原真希、澤田康子
〈キャスト〉
ヴィオレッタ:田中絵里加
アルフレード:松原陸
ジェルモン:押川浩士
フローラ:北薗彩佳
ガストン:工藤翔陽
ドゥフォール:アルトゥーロ・エスピノーサ
ドビニー:大塚雄太
グランヴィル:相沢創
アンニーナ:萩原紫以佳
ジュゼッペ:原優一
使者:江原実
召使:岡山肇
合唱:藤原歌劇団合唱部/新国立劇場合唱団/二期会合唱団
ダンサー:水友香里、浅井敬行
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
藤原歌劇団が主催するオペラ公演「ラ・トラヴィアータ ~椿姫〜」が、9月初めに開催された。この公演は、新国立劇場・東京二期会との共催で、会場は新国立劇場オペラパレスであった。
同歌劇団はイタリアオペラを中心に上演を重ね、日本初演や人材育成の実績でも日本のオペラ文化を支えてきた団体の一つである。
本公演は、2019年に上演された粟國淳演出のプロダクションの再演で、舞台美術・衣裳はアレッサンドロ・チャンマルーギが担当。
指揮は阿部加奈子。欧州での活躍が目覚ましい同氏が、東京フィルハーモニー交響楽団を率いた。
上演は、9月5日から3日間のダブルキャスト。ヴィオレッタのみにトリプルキャストが組まれた。
以下に、9月6日組のゲネプロ取材からの所感を述べる。
この組は、題名役のヴィオレッタに田中絵里加、アルフレードには松原陸を配した、若手の活躍が目立つチームであった。
舞台には巨大な額縁が三つ。幕ごとに、置かれる場所と中にある絵画が変化し、第一幕ではヴィオレッタのサロン、第二幕第一場では郊外の別荘といった風に、その場ごとの情景を描き出す。一幕のアルフレードの告白の場面では絵が透過され、別室で催されている舞踏会の様子を浮かび上がるように見せた。
場面に応じて背景の映像も変化。豪華な天井や深紅のカーテンといった実際そこにあるだろう光景の他、パリの街の情景やヴィオレッタの心情を映し出すような投影もあった。
特に印象深かったのは、第三幕である。冒頭、闇の中にヴィオレッタの肖像画だけが浮かび上がる。舞台は極端に光量が少なく、生者の世界から切り離されたようなヴィオレッタの孤立が描かれる。アリア「過ぎ去った日々」では、肖像画に描かれたかつての美貌と痩せ細った現在の姿が対比され、涙を誘う。アリアが終わると肖像画は見えなくなり、鏡のように無機質な存在になってしまう。他の額縁の中にも絵はもうなく、舞台の奥が見えているだけのほぼ空白の空間になっている。
アルフレードが戻って来た「パリを離れて」でのヴィオレッタの喜びはつかの間の一瞬だ。やがてジェルモンもアルフレードさえも暗闇へと消え入り、ヴィオレッタただ一人が薄闇の中に立ち尽くす。そして再び肖像画だけが浮かび上がる幕切れ。誰にも看取られない死。死後に彼女を社会につなぎ止めるものが肖像画だけとは、何とも切ない。



















歌唱への言及は差し控えるが、ヴィオレッタのような難度の高い役を3人も揃えるということは、同団体の歌手層の厚さを端的に示すもの。また、藤原歌劇団合唱部/新国立劇場合唱団/二期会合唱団の三団体が、垣根を越えて同じ舞台に立つという、極めて稀な共演も聴きどころの一つであったことを挙げておく。
(2025/10/15)
