On Verra, 5e バスタイユ・カンタータの愉悦|大河内文恵
2025年8月30日 今井館聖書講堂
2025/8/30 Imai-kan Bible Auditorium
Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
Photos by On verra 事務局
<出演>
春日保人 バリトン/トラヴェルソ
大塚照道 リコーダー
長谷川太郎 ファゴット
丸山韶 ヴァイオリン
佐藤駿太 ヴァイオリン
島根朋史 ヴィオラ・ダ・ガンバ*
石川友香理 クラヴサン*
*On Verra主宰
佐々木梨花 字幕操作
<プログラム>
M-A.シャルパンティエ:〈器楽ソナタ〉H.548より グラーヴェ、パッサカーユ、シャコンヌ
J-F. ルベル:ラ・テルプシコーレ
L.A. ルフェーブル:バスタイユのための小カンタータ「幸せな酒飲み」
M. コレット:《コンチェルト・コミーク》第25番 1.未開人 2.愛し、喜ばせ方を知っている時 3.ラ・フュルステンブルク
~~休憩~~
L-G. ギユマン:四重奏のためのソナタ Op. 12-3
M. マレ:ガンバ曲集第4巻〈異国趣味の組曲〉より 宝石のロンドー つむじ風
P. ド・ラ・ギャルド:バスタイユのためのカンタータ「ラ・ソナタ」
~アンコール~
ラモー:優雅なインドの国々より 未開人(On Verraバージョン)
フランス・バロックというものをこれまで誤解していたかもしれない。とっつきにくいとか、小難しいとか敬遠されがちなフランス・バロックであるが、そんな今までの思い込みが完全に吹き飛んだ。
オンヴェラは石川と島根によって2020年12月に始められたシリーズで、今回が5回目になる。筆者は今回初めて聞いたのだが、これまでの4回を聞き逃したことを激しく後悔した。
開演前の島根のトークでも語られたように、今回のプログラムではルイ14世時代の作品は冒頭のシャルパンティエのみで、それ以降はすべてルイ15世時代の作品である。フランスらしさにこだわったルイ14世時代と異なり、ルイ15世時代にはイタリアの音楽がフランスにも押し寄せ、地元の作曲家もイタリア音楽の要素を自分の音楽に取り入れたという。たしかに、シャルパンティエからルベルになった途端、一気にわかりやすい音楽になり、アンサンブルが締まる。ルイ14世時代とは明らかに異なる音楽になったことに気づくが、それは旋律の動きがイタリアっぽいということであって、よく聞くと響きはフランス風。ラ・テルプシコーレという曲がもつ劇場的な雰囲気もあって、この混ざり具合がどういうことなのか、この時点では判然としなかった。
つづくルフェーブルのカンタータはヴァイオリン(佐藤)、リコーダー、ファゴット、ヴィオラ・ダ・ガンバ、クラヴサンによる小編成の伴奏だが、それを感じさせない。幸せな酔っ払いに扮する春日がいい味を出しているものの、この時点ではまだジャブ程度(と後からわかる)。
前半最後は、コレットによる《コンチェルト・コミーク》。すべてパロディ作品となっており、コレットが「自分ならここまでできますけど、なにか?」とドヤ顔をしているのが目に浮かぶよう。「未開人」(ラモー作品のパロディだが、最初はほぼそのまま)が少し遅いテンポで始まったと思ったら、途中からありえないほどの超絶技巧の嵐。イタリア的なこれ見よがしではなく、「このくらい普通ですけど?」と澄ましている感じがいかにもフランス的。コレットの作品はフランス・バロックのイメージを一新させるもので、他の作品も聞いてみたいと思った。
休憩後は、ギユマンの四重奏曲。アレグロの1楽章はイタリアっぽいのだが、ラルゲッ
トの2楽章はフランス的。その響きを耳に残したまま3楽章に入ると、フランスらしさを醸し出しているのはクラヴサンとヴィオラ・ダ・ガンバであることに気づく。そうか、前半でイタリア風の旋律なのにフランス風に聞こえたのは、通奏低音がフランス風に入っているからなのかと腑に落ちた。もうそこからは、クラヴサンがどう弾いているか気になって気になってしかたがない。もっと早く気づけばよかったと後悔してももう遅い。あとは全力で耳を傾けるのみ。
もうこれはお約束とばかりのマレの2曲をはさんで、最後はド・ラ・ギャルドのカンタ
ータ。これが楽器奏者も巻き込んだ抱腹絶倒の喜劇で、くすっとかうふふとかを通り越して、ぎゃはは!と大笑いしてしまうほど。ストーリーはソナタの話をしているはずが、嵐が始まり、いつのまにか宇宙の話になっていて、ばかばかしさと壮大さのギャップがまた可笑しい。また、字幕が歌詞対訳のみならず、それに関連する図像なども併せて表示しており、雰囲気を盛り上げるのに一役買っていた。フレンチ・カンタータってこんなに面白かったのかと目から鱗がぼろぼろとこぼれ落ちた。
アンコールは、「未開人」をラモーバージョンに戻し、オンヴェラ風にアレンジしたもの。演奏開始時に春日がいないなと思ったら、太鼓を叩きながら入ってきた! そうそう、やっぱり未開人には太鼓が必須。ノリノリ過ぎて踊りだしたくなるのを必死で我慢する。すると、春日が歌い出した。これだ!!!《優雅なインドの国々》では、「未開人」の後にソロの歌と合唱が入るのだが、その部分まで再現する演奏は今まで聞いたことがなかった。いや最高すぎるでしょう。
オンヴェラの次回公演はまだ日程など決まっていないそうだが、次はどんな手を使ってくるのか見逃す手はない。
(2025/9/15)


