Pick Up (2025/7/15) |Dramatic Series 楽劇「ラインの黄金」|長澤直子
Dramatic Series 楽劇「ラインの黄金」 Dramatic Series Music drama Das Rheingold
2025年6月21日 横浜みなとみらいホール
2025/6/21 Yokohama Minato Mirai Hall
Text&Photos by 長澤直子(Naoko Nagasawa)
指揮:沼尻竜典 →Foreign Languages
舞台構成:榊原徹(神奈川フィル)
照明:高山晴彦(株式会社アルファソリューション)
〈キャスト〉
ヴォータン:青山貴
ドンナー:黒田祐貴
フロー:チャールズ・キム
ローゲ:澤武紀行
ファーゾルト:妻屋秀和
ファフナー:斉木健詞
アルベリヒ:志村文彦
ミーメ:高橋淳
フリッカ:谷口睦美
フライア:船越亜弥
エルダ:八木寿子
ヴォークリンデ:九嶋香奈枝
ヴェルグンデ:秋本悠希
フロースヒルデ:藤井麻美
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団
ゲスト・コンサートマスター:扇谷泰朋
















ワーグナーの《ニーベルングの指環》四部作の“序夜”にあたる《ラインの黄金》が、横浜みなとみらいホールにてセミステージ形式で上演された。神奈川フィルの音楽監督である沼尻竜典のタクトのもとに、豪華な歌手陣が集結。舞台装置に頼らず、音楽と光、そして声のパフォーマンスによって物語の核心に迫るこの公演は、視覚的な抑制がもたらす想像力の解放という点で、きわめて濃密なワーグナー体験となった。
ヴォータン役の青山貴は、威厳と焦燥を織り交ぜながら“神の矛盾”を丁寧に演じきる。フリッカの谷口睦美、ローゲの澤武紀行、それぞれとの息詰まるやりとりも聴きどころの一つだ。アルベリヒ役の志村文彦は、不気味な存在感を醸し出し“呪い”の重みを体現。ファーゾルト役の妻屋秀和の愛に揺れる巨人像は、ファフナー役の斉木健詞の欲望に突き動かされる巨人像と対比的に描かれる。さらに聞き逃せないのが、エルダ役・八木寿子の登場シーン。出番自体は短いものの、その声と舞台を制する佇まいは、未来(『ワルキューレ』以降)を期待させる力がある。また、キャストにはベテランのみならず、船越亜弥(フライア)、秋本悠希(ヴェルグンデ)、黒田祐貴(ドンナー)といった若手も起用され、多様な声の色彩が作品の厚みを一層引き立てた。
加えて特殊な金管・打楽器の活用も興味深い。ワーグナー自身が設計に関与したというワーグナー・テューバ、重厚な響きをもたらすバス・トランペット、そして祈りと権力のモチーフを担うコントラバス・トロンボーンといった特殊楽器が、この作品の神話的なスケールを支える。ニーベルング族の鍛冶場の効果音として使用されたアンヴィル(金床)も、こだわりの趣向だ。鉄道会社(京浜急行電鉄)から提供された本物のレールを加工して使用したというのには驚きだ。舞台上での動きはないが、音だけでも“地下の労働”のリアリティを感じさせる。
光の演出も印象的で、パイプオルガンを背景に全体を赤く染めるなど、音と視覚の緊張感が観客の想像力を揺さぶるような構成であった。
なお、公演チラシやポスターなどのメインビジュアルには、画家・真田将太朗氏による描き下ろしのオリジナル作品が使用され、無料で配布されるプログラムの表紙にもなっていた。登場人物の欲望や孤独を、静けさの中に浮かび上がらせる絵画表現は、ワーグナーの世界観と静かに共鳴しているようだ。ロビー階にはオリジナルの作品が展示されており、間近でじっくりと鑑賞することが出来たのも良かった。
(2025/7/15)
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Conductor: Numajiri Ryusuke
Stage composition: Sakakibara Toru (Kanagawa Philharmonic)
Lighting: Takayama Haruhiko (Alpha Solutions Co., Ltd.)
<cast>
Wotan: AOYAMA Takashi
Donner: KURODA Yuki
Froh: Charles Kim
Loge: SAWABU Noriyuki
Fasolt: TSUMAYA Hidekazu
Fafner: SAIKI Kenji
Alberich: SHIMURA Fumihiko
Mime: TAKAHASHI Jun
Fricka: TANIGUCHI Mutsumi
Freia: FUNAKOSHI Aya
Erda: YAGI Hisako
Woglinde: KUSHIMA Kanae
Wellgunde: AKIMOTO Yuki
Floßhilde: FUJII Asami
Orchestra: Kanagawa Philharmonic Orchestra
Guest Concertmaster: Ogitani Yasutomo
