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5月の1公演短評|齋藤俊夫

5月の1公演短評
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)

伊福部昭総進撃 〜キング伊福部まつりの夕べ~
2025年5月26日 東京オペラシティコンサートホール→曲目・演奏

演奏会を最後まで聴いて、これはキングレコードが仕掛けた「キング伊福部まつり」の締めくくりとしての「伊福部昭総進撃」という祝祭であって、細々とした演奏技術評は無用なのだ、と筆者は結論付けた。石丸由佳によるオルガン版『SF交響ファンタジー第1番』、本名徹次の指揮による『交響譚詩』『シンフォニア・タプカーラ』には個人的には色々言いたいことはあったが、『タプカーラ』の最後の最後の大爆発で筆者も会場の皆と一緒に喝采し、アンコールの『ロンド・イン・ブーレスク』で頭の中カラッポにしてまた喝采したのだから、これでいいのだ、と。第二部の和田薫指揮による『SF交響ファンタジー』全三作の「延々と続く伊福部節」の伊福部ならではの過剰な満腹感もまた祝祭に相応しい。会場の何もかもが伊福部色に染め上げられる三時間以上の大祭、これはもう何も言うことはなかろう。
と言いつつ、一言いい残しておかねばならないのは、第一部で登場した松田華音の高貴にして渋い光輝を放つ伊福部ピアノ独奏曲群である。
伊福部曰く、「作品が見事に構成された場合は、作品それ自体が一つの哲学的表現となることは明らかです。この場合、私たちはその作品から作者の思想、哲学、その他を明瞭に読み取ることができるのです。それでこそはじめて作品といい得るし、また、鑑賞者の立場からも鑑賞にたえ得られるのです」(伊福部昭『音楽入門』より)。松田のピアノから聴こえてきた伊福部は伊福部の思想、哲学そのものであった。娯楽的消費を拒む厳粛なる伊福部音楽を演奏会の頭に持ってきて、これぞ!と筆者は背筋が伸びる気持ちで構えられた。その後の結果は敢えて重ねては語らないが、しかし松田の伊福部こそが本当の本物であったと改めてここに記したい。

関連評:NHK交響楽団 12月公演 NHKホール|齋藤俊夫
神奈川フィルハーモニー管弦楽団みなとみらいシリーズ定期演奏会第397回|齋藤俊夫

<演奏>
指揮:和田薫、本名徹次
ピアノ:松田華音
オルガン:石丸由佳
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
<曲目>
全曲、伊福部昭作曲
<第1部>
『子供のためのリズム遊び』(抜粋)(ピアノ:松田華音)
運動会行進曲
楽しい学校
場所取り鬼
『ピアノ組曲』(松田華音)
『SF交響ファンタジー第1番』(和田薫編曲パイプオルガン版)(オルガン:石丸由佳)
<第2部>
『SF交響ファンタジー第1番、第2番、第3番』(全曲)(指揮:和田薫)
<第3部>
『交響譚詩』(指揮:本名徹次)
『シンフォニア・タプカーラ』(指揮:本名徹次)
(アンコール)オーケストラのための『ロンド・イン・ブーレスク』