太陽王の残光~ヴェルサイユ宮殿で聴かれた音色~|大河内文恵
2025年5月31日 日本ホーリネス教団東京中央教会
2025/5/31 Tokyo Central Church
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by ©MOXAM
<出演> →foreign language
宇治川朝政 リコーダー
中島恵美 リコーダー、フラウト・トラヴェルソ
平尾雅子 ヴィオラ・ダ・ガンバ
曽根田駿 チェンバロ、バロック・ハープ
<曲目>
マラン・マレ:組曲ハ長調(トリオのための作品集)より プレリュード サラバンド ファンタジー ロンドー メヌエット 第2メヌエット
ルイ・クープラン:前奏曲(ボワン手稿譜/パルヴィーヌ手稿譜)
ジャン=バティスト・リュリ:王室のトリオより 若きイリス サンフォニー
マレ:サラバンド(ヴィオル曲集第3集)
リュリ:王室のトリオより ガヴォット メヌエット
マレ:ジーグ(トリオのための作品集)
フランソワ・クープラン:王宮のコンセール コンセール第3番
~~休憩~~
ロベール・ドゥ・ヴィゼ:前奏曲(ヴォードリー・ドゥ・セズネ手稿譜集)
ジャン=フランソワ・ダンドリュー:ソナタ第3番(トリオのためのソナタ集)
アンドレ・シェロン:ソナタ第6番(トリオのためのソナタ集)
ピエール=ダニカン・フィリドール:まねっこのロンドー サラバンド上のエール
マレ:パッサカイユ(トリオのための作品集)
アンコール
マレ:ラ・マリアンヌ(トリオのための作品集)
この公演は、2024年9月20日(金)に愛媛県でおこなわれた同じタイトルのコンサートを曲目の一部を変更して開催されたものである。前半はマレやクープランなどの舞曲で構成された作品、後半はそれより少し後のソナタと題された作品を中心としたプログラムで、前半と後半の対比は、音にしてみるとイメージしていたよりも大きな違いになっていた。
前半は三つの部分から成る。二つめの部分はルイ・クープランの前奏曲から始まり、リュリ、マレ、リュリ、マレと作曲家を渡り歩きながら全体で一つの組曲を構成するという凝った構成。最初のクープランが始まった瞬間に、ああクープランだ!と当時のパリに紛れ込んだような感慨を覚えた。リュリを挟んでマレのサラバンドではハープの音色にせつなさが感じられ、水平線に沈んでゆく夕日を見ているような気持ちになった。踊りだしたくなるダンサブルなリュリのメヌエットに、マレのジーグが続き、全体が締まる。
前半最後のフランソワ・クープランのコンセールはゴブラン織りを見ているような、きめ細やかさと贅沢さが共存したこれぞフランス・バロック。1曲ごとに、チェンバロとガンバ、そこにフラウト・トラヴェルソとリコーダーが加わり、チェンバロがハープになりといった具合にどんどん編成が変わっていく。ミュゼットではハーディガーディの音色が聞こえてミュゼット感満載。
前半は全体に低音に重きを置くフランス風の響きになっており、時にリコーダーの音が聞こえにくいことはあったが、それはバランスが取れなかったためではなく、敢えてそうしているということが、後半のイタリア風の曲で高音寄りの響きにシフトすることで明らかになった。
ダンドリューの2楽章アレグロはかなりイタリア的な曲であり、最後のジーグはフランス風の軽いジーグではなく、いわば四角いジーグで、イタリア人のイタリア音楽とは一味違っていて面白い。ふと、当時のフランスの人々はこうしたイタリア風の音楽をどんな風に受け止めていたのだろう?と疑問がわいた。
続くシェロンのソナタは一つひとつの楽章が長めで、全体的にイタリア的でわかりやすい音楽。フランスでもイタリア音楽の勢いには抗えなかったのかと思っていたら、最後のパッサカイユはイタリアとフランスの見事な混合で、途中からのフランス風の部分に耳を持っていかれた。
全体として4人の組み合わせのバランスの良さが際立っていた。若手とベテランの組み合わせであっても、舞台の上では対等になるように心がけているように見えた。前半も後半も小さな曲の集まりであるが、その1つ1つをどういう楽器でどういった音色で演奏するかが練り上げられていて、満足度が高かった。この日はマレの誕生日ということもあり、古楽の演奏会が数多く催されており、他のすべての演奏会を諦めることになったが、この演奏会が聴けてよかったと心から思った。
(2025/6/15)


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<players>
UJIGAWA Tomokazu Flûte à bec
NAKAJIMA Emi Flûte à bec, Flûte traversière
HIRAO Masako Viole de Gambe
SONEDA Hayao Clavecin, Harpe baroque




