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東京二期会オペラ劇場  ビゼー:《カルメン》|藤堂清

2025都民芸術フェスティバル 参加公演 
<東京二期会オペラ劇場> 
ビゼー:《カルメン》 <新制作> 
オペラ全4幕 日本語および英語字幕付原語(フランス語)上演 
Tokyo Nikikai Opera Theatre 
Bizet:CARMEN [New Production] 
Opera in four acts 
Sung in the original language (French) with Japanese and English supertitles

2025年2月23日 東京文化会館大ホール
2025/2/23 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall
Reviewed by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 長澤直子(Naoko Nagasawa)(2月18日ゲネプロ)

<スタッフ>
指揮:沖澤のどか
演出・衣裳:イリーナ・ブルック
装置:レスリー・トラバース
照明:喜多村 貴
振付:マルティン・ブツコ
衣裳補:武田園子
合唱指揮:河原哲也
演出助手:彌六
舞台監督:村田健輔
技術監督:大平久美
     村田健輔
公演監督:永井和子
公演監督補:大野徹也

<キャスト>
カルメン:加藤のぞみ
ドン・ホセ:城 宏憲
エスカミーリョ:今井俊輔
ミカエラ:宮地江奈
スニガ:ジョン ハオ
モラレス:室岡大輝
ダンカイロ:北川辰彦
レメンダード:高田正人
フラスキータ:三井清夏
メルセデス:杉山由紀

合唱:二期会合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団

 

ビゼーの《カルメン》というオペラはオペラ・コミックで初演されており、もともとは音楽の間を台詞でつないでいた。ギローによるレシタティーヴォ版でもつなぎの部分はそれなりの分量がある。この日はアルコア版を使用ということなので、台詞が入っているはずであるが大部分はカットされ、ほとんど音楽の部分のみの上演となった。ストーリーの展開が唐突に感じられるところもあるが、全体的に場面転換はスムーズで、さらさらと流れていく。これが演出の狙いだと言われれば、それと受け止めるしかない。
時代設定は現代か近未来か。第1幕の舞台、下手側に簡易なやぐらのような兵士の詰め所があり、ディスプレイに映像が映っている。上手の奥、ガレキの山の上にテントが置かれ、そこを入ったところがタバコ工場という設定。第1幕と第2幕は続けて演奏され、何枚かの幕が持ち込まれリーリャス・パスティアの酒場に転換する。第3幕はホテルなどの看板の残骸のある荒地、そこにスーツケースやコンテナで荷物を運び込む。第4幕は下手にエスカミーリョのイベントを行う布張りのアレーナがあり、下手奥からの通路を挟み関係者の使うテーブルが置かれている。彼の登場の前座を務める闘牛士たちの踊りは通路で行われる。といった具合にどの場面をとっても、オペラ《カルメン》で想定される舞台装置はなく簡素化されていると感じられた。こういった外形的な変更だけでなく、人物の描き方も具体性に欠ける。演出のイリーナ・ブルックはプログラムの中で「この作品を演出するにあたり、「こうやりたい」と考えて作るのではなく、「これを除いていくことで、物語をちゃんと伝えられる」という考え方で作っています。」と述べている。また「世界観をかっちり決めすぎず、自由度の高い世界としました。」とも。
台詞のカットも舞台上の設定も同じような考え方に基づいていることは理解できたが、それがこのオペラに新たな視点を与えてくれたかといえば、筆者は疑問に感じる。「引き算」だけからでは幅広い飛翔の翼は生まれない。

演奏面はなかなか充実していた。
沖澤のどかの指揮のもと、読売日本交響楽団は緻密な演奏を披露した。細かいところまで行き届いたもので、楽譜の指示を丁寧に音にしていた。ダイナミクスの幅や弱音での響きの美しさなど立派。歌手との呼吸も問題はなく、ゆっくりめのテンポでもだれることなく進んでいった。
歌手に飛びぬけた人はいないが、平均的なレベルはまずまず。カルメンの加藤のぞみは、スペイン在住でヨーロッパを中心に活躍しているメゾ・ソプラノ、明るい音色で主役としての役割を果たした。対するドン・ホセの城宏憲、この役に期待される厚みには欠けるが、後半はかなり頑張っていた。ドン・ホセを引き戻そうとするミカエラ、宮地江奈のリリカルな声が映えた。エスカミーリョは今井俊輔、少し軽い声ではあるが、明快な言葉さばきで歌った。

最初にふれたように台詞をほぼカットした上演であったことは、歌手にとって負担が少なくなったことだろう。その意味では良い効果があったといえようが、《カルメン》というオペラの本来持っているドラマを希薄なものとしてしまったように思われる。沖澤の音楽づくりがそれぞれの曲を精緻に描き出すタイプのもので、オペラ全体としての大きな流れやうねりを意識させることが少なかったことも、それを倍加していたように感じられた。
統一感のある良質の上演であったが、満足とはいかなかった。

(2025/3/15)

<Staff>
Conductor: Nodoka OKISAWA
Stage Director & Costume Designer: Irina BROOK
Set Designer: Leslie TRAVERS
Lighting Designer: Takashi KITAMURA
Choreographer: Martin BUCZKO
Costume Associate: Sonoko TAKEDA
Chorus Master: Tetsuya KAWAHARA
Assistant Stage Director: Miroku
Stage Manager: Kensuke MURATA
Technical Directors: Kumi ODAIRA
          Kensuke MURATA
Production Director: Kazuko NAGAI
Associate Production Director: Tetsuya ONO

<Cast>
Carmen: Nozomi KATO
Don José: Hironori JO
Escamillo: Shunsuke IMAI
Micaëla: Ena MIYACHI
Zuniga: Hao ZHONG
Moralès: Taiki MUROOKA
Le Dancaïro: Tatsuhiko KITAGAWA
Remendado: Masato TAKADA
Frasquita: Sayaka MITSUI
Mercédès: Yuki SUGIYAMA

Chorus: Nikikai Chorus Group
Children Chorus: NHK Tokyo children chorus
Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra

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