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​​大阪フィルハーモニー交響楽団 第57回 東京定期演奏会​ |藤原聡

​​大阪フィルハーモニー交響楽団 第57回 東京定期演奏会​
OSAKA PHILHARMONIC ORCHESTRA
Tokyo Subscription Concert #57  

​​2025年2月18日 サントリーホール​
2025/2/18 Suntory Hall
​​Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
写真提供:​ 大阪フィルハーモニー交響楽団 

​​〈プログラム〉        →Foreign Languages
​​松村禎三:管弦楽のための前奏曲​
​​ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 『ロマンティック』(ノヴァーク版:1878/80年 第2稿)​

​​〈演奏〉​
​​大阪フィルハーモニー交響楽団​
​​指揮:尾高忠明​
​​コンサートマスター:崔文洙​

​​大阪フィルの東京定期演奏会も今回で57回目を迎える。ここ数年は音楽監督の尾高忠明が指揮台に立ち、前半に日本人作曲家の現代作品、そして後半にはブルックナーの交響曲という構成となっている(2022年はブルックナーのみ──交響曲第5番──であったが)。今年もこの形を踏襲しており、後半のブルックナーは『ロマンティック』、そして前半には松村禎三の管弦楽のための前奏曲が置かれた。傑作として名高い松村作品ではあるが、そうそう実演で耳にする機会もあるまいし、これは期待するしかないだろう。​

​​さてその松村禎三の管弦楽のための前奏曲、まずはステージに所狭しと並んだオーケストラの人数に驚く。多数の打楽器、ピアノ、チェレスタもある。なるほど解説を読めば4管編成とあるわけで多いのは当然なのだが、マーラーやR. シュトラウスであればコンサートレパートリーとしてあまりに定着しきっておりもはや何も感じなくなっているものの、メインのブルックナーの前にブルックナーよりもはるかに編成の巨大な作品を置くということも含めて仰天する。作品はオーボエ・ソロのいささか奇妙な旋律が次第にピッコロや複数の楽器に受け渡されて進行するが、それらの各声部は西洋音楽的な対位法でロジカルかつ堅固に展開するのではなく、それぞれがそれぞれの「パトス」に基づいて拍節やハーモニーが未分節のままうねうねと這うように、もっと言えば野放図に進んでいくというイメージだ。そして音量は増大、驚きのピッコロ6本による耳をつんざくばかりの刺激的な音響が鳴り渡り、頂点ではチューブラーベルや銅鑼すら炸裂する。各パートの作り出す音楽素材が重層的に堆積、絡み合うのだ。むろん極めて緻密に計算された音響には違いなかろうが、カオティックに膨張するようなメイルストロム(エドガー・アラン・ポーの短編邦題風に記せば「メエルシュトレエム」)はなにやらいわゆるクラシック音楽の概念を超えているような衝撃。作品の中央に位置するその激烈なトゥッティののち、音楽は冒頭のフルート/ピッコロの音楽に戻って静かに閉じられる。筆者は岩城宏之の2種の録音でしか本作を知らず実演は今回が初であるが、それを前提で述べるなら、今回の尾高忠明と大阪フィルの演奏は岩城にも増してていねいな手つきでこの難曲をレアリゼしていたように思う。岩城のものも良い演奏だが尾高に比べれば明らかに粗い。カオティックに聴こえてその実松村が仕組んだ多層的な音響の緻密な堆積が文字通りのカオスになってはしょうがないが、その点でやはり尾高の力量はすばらしく、これはあまりに明白である。それにしてもブルックナーの「前座」にこのような強力かつ激烈な作品を置いてよかったのかどうか。コンサート全体の座りが悪くなる気がしないでもないし、聴衆は前半で疲れてしまわないか。​

​​それはそれとして、後半の『ロマンティック』は流れがよく自然体、奇を衒わない柔和な演奏が展開された。リズムの抉りが深いわけではなく、溜めもあまりない。また、金管群をむやみに咆哮させず弦楽器群との調和が常に意識されている。これらの特質をもって重厚感の不足を感じる聴者がいても不思議ではないが、しかしこれほど美しいこの曲の演奏もそうそう聴けないのではないか。筆者がもっとも感銘を受けたのは第3楽章のスケルツォ、通常聴かれるよりもゆったりしたテンポを採用、膨らみのあるホルンとトロンボーンの柔らかい音色が実に心地よい。終楽章にはさらなる峻厳さと壮大なスケールが欲しい瞬間もないではなかったが、尾高の目指す本作の再現という意味では曲頭から一貫性がある。聴き手を力業でねじ伏せるのではなく、自然と作品に寄り添わせる。誠に良い演奏であった。余談だが、筆者は朝比奈隆と大阪フィルのブルックナーを実演で聴いておらず、それゆえこの日の演奏をフラットな耳で聴いたと自覚しているのだが、古参のファンはこの尾高のブルックナーをどう捉えるのかにちょっと興味がある。「豪快さと野性味が足りない」などと感じるのだろうか。

(2025/3/15)​

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〈Program〉​
Teizo Matsumura: Prelude for Orchestra
Anton Bruckner: Symphony No.4 in E-flat major “Romantic” (Nowak edition 1878/80 second version)

〈Player〉​
OSAKA PHILHARMONIC ORCHESTRA
Tadaaki Otaka, Conductor
Munsu Choi, Concertmaster

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