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三つ目の日記(2025年1月)|言水ヘリオ

三つ目の日記(2025年1月)

Text by 言水ヘリオ(Kotomiz Helio) : Guest

 

2025年1月10日(金)
年賀状をいただいた方へ送るはがきを作成するため、折り紙で星を折る。星とはがきを合わせて試作するがうまくいかず、星は不要となる。さらに試した結果、星の場所には月が浮かび上がることになる。

 

1月16日(木)
作品のタイトルになっているEchoes of Colorってなんだろう、と、その状態を思い浮かべる。こだまする色。エコーの響いている色。山びことして返ってくる色。
(聞こえてくる声や音が色として反映される)
目を閉じて視野に光があらわれる現象を「眼閃」というらしい。この現象によく遭遇する。眠る前、眠りから覚めたときなど、目を閉じたままの状態で、色のついた光があらわれ、なにかを探索するレーダーのように形を変えながら回転して、そのうちに消えてしまう。
並んでいる、15センチ四方、厚さ3センチくらいのサイズの絵画作品。それらを、閉じた自分の瞼の裏と想定してみる。明るく強い色の混ざり合いは、いまは遠ざけておきたい色。淡く冷たい感じの色の混ざり合いは、そこに足を浸していたい色。といったように、感情が動く。
(一日一作品、というのではなく、たくさんのキャンバスが並んでいて、並行して描く作業が行われる。ひとつひとつが響き合い、その影響で色が置かれていくこともある)
隣の部屋の大きな絵画作品。近づくと、さきほどの作品とは異なる質感であるという印象。ところどころ、何層にも重なった絵の具の奥まで削り取られたような箇所があり、層が見えている。
(描きかたは小さな作品とかわらない。絵の具を何層も重ねて削って描いている)
(指で絵の具を置いてゆく。それは、からだで直接というより、木炭でデッサンするときのように指を使ってしまうということ)
酒井香奈の展示を見て。

 

同じ日
17時30分頃。いつのまにか暗くなった。記録のため看板の写真を撮ってギャラリーに。稲憲一郎展2022年11月14日の日記)。
相対する。ほとんどからっぽの状態で、見ることの体験がなされ、ときが過ぎる。ことば豊かな人であれば、語ることがたくさんあるのかもしれない。自分はただ、見ることしかできない(見ること。会場に掲示されている文章のなかで、稲は注意深くひらがなで「みる」と記述している)。そして、集中しすぎて、すこし休んだりする。透明な表面の奥に描かれている線描と表面とのあいだで視線が行き来を繰り返し、焦点が不確かになる。色の描画が、影のように感じられ、それから、雲や、煙のように感じられ、勢いのある描画も含め、なにかが起こっている、ある場、のように思われ、といった具合に、自分の感覚が、あるいは作品が、刻々と変化してゆく。
気がついたら閉廊の時間になっていた。
食事して電車に乗り最寄駅に着く。停車中の電車と駅のホームにかかる屋根との隙間から、満月に近い丸さの月が左右にずれて3つ見えた。

 

1月21日(火)
ジャン゠リュック・ゴダールの『彼女について私が知っている二、三の事柄』を見る。映画のなかの「目は膝じゃない」ということばが記憶に残る。

 

同じ日
5日前のできごと。目の前に人があらわれ目が合った。知らない人だったので視線をはずしたが、いや、と思い直しもう一度その人を見て、○○さんですか?と問う。違います、と返ってくる。

 

1月24日(金)
ファーストフードの店で昼食。地下鉄で高田馬場へ移動する。ギャラリーまでの道は途中まで飲食店が立ち並んでいるのだが、その先にある橋の付近にさしかかると急に店がなくなる。そのあたりも今日は人通りが多い。そういう時間帯なのだろう。ギャラリーに着いてなかに入る。晴れていて外光がふんだんに注ぎ込んでいる。明るく白い空間。壁や床には斜めに差しこむ光が面をなし、屈折していくつかの色の帯があらわれている部分もある。
「篠田優個展「Garden|Medium」」の展示を見ている。南房総の島で撮った写真と、本を一冊撮った写真が並ぶ。4×5の大判フィルムを密着印画し、その縁も見える状態で額装されている。これらの写真がどういうものであるかということは、ギャラリーのサイトにあるこの展示のページに、写真家、飯田鉄あてのことばとして記されている。
自分がこれらの写真を見るということはどういうことだろう。
そう自問する最初のときは、この展示を見始めたときだったのであろう。返答の声がいくつか発せられて、受けとってはまた戻す。声は影となり、きのうの夢を思い出そうとするようにすぐに霧散する。
見終えて外へ出たとしても、問いは続くだろう。扉を閉じて横断歩道と踏切を、その先の橋を渡る。
2022年1月15日の日記)(2023年3月16日の日記)(2023年8月22日の日記)(2024年4月3日、4月25日の日記)(2024年8月24日の日記)

 

1月30日(木)
原稿が郵便で届く。400字詰め原稿用紙に書かれたもののコピー。それを傍に置き、パソコンで入力してゆく。最近は入力するにもかつてのようにはいかず、間違えたり、同じ文字を続けてしまったりすることがしばしばある。なので、ゆっくり確認しながら指を動かす。文字変換の上位候補に絵文字が表示されることが何度かありストレスを感じる。プリントして間違いがないか確認する。誤字と思われるところに書き込みをする。もう遅いので、明日ファクスすることに。

 

1月31日(金)
黄色い皮のみかんを切って器に盛る。いい香りがするので、しばらく食べないで置いておく。

 

〈写真掲載の展示〉
酒井香奈展 Sign of Color─色の兆し 会場:ギャラリーなつか/Cross View Arts 会期:2025年1月14日〜2月1日
◆稲憲一郎展 会場:ギャラリー檜B・C 会期:2025年1月9日〜1月18日
篠田優個展 Garden|Medium 会場:Alt_Medium 会期:2025年1月17日〜1月29日

(2025/2/15)

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言水ヘリオ(Kotomiz Helio)
1964年東京都生まれ。1998年から2007年まで、展覧会情報誌『etc.』を発行。1999年から2002年まで、音楽批評紙『ブリーズ』のレイアウトを担当。現在は本をつくる作業の一過程である組版の仕事を主に、本づくりに携わりながら、2024年に『etc.』をウェブサイトとして再開、展開中。

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