小林沙羅&大西宇宙 デュオ・リサイタル コミックオペラ《電話》 |藤堂清
アフタヌーン・コンサート・シリーズ2024-2025
小林沙羅&大西宇宙 デュオ・リサイタル
コミックオペラ《電話》
~どうなる!?僕のプロポーズ~
2025年1月29日 東京オペラシティ コンサートホール
2025/1/29 Tokyo Opera City Concert Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by Kano Hayasaka/写真提供:ジャパン・アーツ
<出演> →Foreign Languages
小林沙羅 (ソプラノ) *
大西宇宙 (バリトン) +
河原忠之 (ピアノ)
<プログラム>
モーツァルト:《フィガロの結婚》より
“5…10…20…30” *+
ロッシーニ:《セビリアの理髪師》より
“私は街のなんでもや” +
“今の歌声は” *
“それなら私のことね” *+
バーンスタイン:《ウェスト・サイド・ストーリー》より
“マリア” +
“サムウェア” *
“トゥナイト” *+
—————–(休憩)—————–
メノッティ:電話 ~または愛の三角関係~ *+
ルーシー:小林沙羅 ベン:大西宇宙
————–(アンコール)————–
レハール:オペレッタ《メリーウィドウ》より ワルツ “唇は語らずとも”*+
平日の午後に行われるアフタヌーン・コンサート・シリーズ、13時30分開演と通常のマチネより早いスタートだが、コンサートの後お茶を楽しみながら語り合っていただき、ゆっくり帰っても夕飯まで余裕がある、そういった想定とのこと。この日は、人気の二人の歌手、小林沙羅と大西宇宙の共演、「コミックオペラ《電話》~どうなる!?僕のプロポーズ~」と題して、メノッティのオペラを取り上げる。それ1曲だけでは30分弱で終わってしまうので、プログラムの前半に、モーツァルト、ロッシーニ、バーンスタインの作品から独唱曲、二重唱曲を歌う。これらはどれも馴染みのある曲ばかり。メノッティも1946年という作曲年で考えられるような難しいところはない。ゆったりと楽しみ、ほっこりとした気分で会場をあとにする、そういったコンサート。
小林沙羅は軽めな声のソプラノだが、コロラトゥーラの技術を売り物にするといったタイプではない。《フィガロの結婚》のスザンナあたりが適役だろう。一方の大西宇宙はバリトンとしてかなり幅広い役柄に対応できそうで、モーツァルト、ロッシーニ、両方のフィガロは当たり役になりそう。
プログラムの最初の曲、モーツァルトの《フィガロの結婚》から“5…10…20…30”は、序曲が終わるとすぐ歌いだされるフィガロとスザンナの二重唱。フィガロはベッドを置くスペースを測っている。一方スザンナは自分の作った帽子を見てくれるよう呼び掛ける。フィガロはそれに応え、二人で声を合わせる。なかなか洒落たコンサートの開始。大西のしっかりした声が下から支え、小林の声がその上で無理なく響く。
続いてロッシーニの《セビリアの理髪師》から3曲、大西、小林がそれぞれフィガロとロジーナのアリアを歌った後、二人の二重唱。大西の“私は街のなんでもや”は切れ味鋭い歌い口、言葉は明瞭、はずむリズムも決まって気持ちいい。小林の“今の歌声は”、高音域での少しキンキンした響きが気になったが、ロジーナの芯の強さをしっかりと表現していた。二重唱“それなら私のことね”では、ロジーナはリンドーロ(実はアルマヴィーヴァ伯爵)の想い人が自分だと確信し、フィガロに彼と連絡を取るように頼み、すでに用意していた手紙を渡す、驚くフィガロ。二人が歌詞に合わせた演技を加え、会場の笑いをさそった。
前半最後のブロックは、バーンスタインのミュージカル《ウェスト・サイド・ストーリー》から、ニューヨークのウェスト・サイドの対抗するグループに属する二人、トニーとマリアの悲恋を扱う。“マリア”ではトニーが一目惚れした彼女のことを想い歌う。声域は広く、弱声から強声まで要求される。大西はそれに十分応えるとともに、英語の美しさでも聴かせた。“サムウェア”では、グループの抗争に巻き込まれ別れざるを得なくなった二人がともに生きることのできるところが「どこか」にあると歌う。小林がしっとりと聴かせた。“トゥナイト”は、二人が出会ったこの夜すべてが変わったと、恋する想いを歌い上げる。前半を締めくくるに相応しい熱唱。
後半はいよいよコンサートのタイトルでもあるメノッティの《電話》。登場人物はルーシーとベンの二人、それに「電話」が重要なかかわりを持つ。二人は恋人どうしである。ベンは一時間後の列車で旅にでることになっているが、出発に先立ちルーシーにプロポーズしたいと思って訪ねてきた。話を切り出そうとしていると、電話がかかってくる。ベンとは関係ない話が長々と続く。ようやく終わると、彼女は連絡しておく必要があるからと言って電話をかける。また長話。ようやく終わったので、再度仕切り直しでベンが話しかけるが、再び電話がかかってくる。その長電話を終えて、ルーシーが席を外すと、ベンは電話が自分たちを邪魔するものと考え、電話線を切ってしまおうとする。しかしまたもや電話がかかってきて、ルーシーが戻る。あきらめて立ち去るベン、それに気付かずに話し続けたルーシーが受話器を置いたときには彼の姿はない。ベンは何を話したかったのかしらとつぶやいていると、電話。今度はベンが公衆電話からかけてきた。そして電話でプロポーズ。それにすぐにOKするルーシー、私の電話番号を忘れないでねと注文をつけて。ソファーと電話の置かれたテーブルがセット。座る位置や姿勢を変えたり、電話を持ち歩いたりといった形で場面を組み立てていき、それなりに舞台を作っている。二人の演技もスムーズなもの。電話での会話の一方だけを聴かせることでストーリーを進めていくメノッティの台本もよくできている。多くの時間、一人で歌った小林の歌唱力が際立った。笑いがこみ上げてくるようなエンディング、気持ちよく聴き終えた。
小林、大西、二人とも高い水準の歌唱で楽しませてくれた。また、ピアノの河原は手練れの領域。さらにMCも担当、舞台の進行の中心となった。昼下がりのひととき、気持ちがゆったりとする時間をすごすことができた。
(2025/2/15)
—————————————
<Player>
Sara Kobayashi (Soprano) *
Takaoki Onishi (Baritone) +
Tadayuki Kawahara (Piano)
<Program>
Mozart: “Cinque… dieci… venti… trenta” from Le nozze di Figaro *+
Rossini: from Il Barbiere di Siviglia
“Largo al factotum della città” +
“Una voce poco fa” *
“Dunque io son tu non m’inganni?” *+
Bernstein: from West Side Story
“Maria” +
“Somewhere” *
“Tonight” *+
—————(Intermission)—————
Menotti: The Telephone, or L’Amour à trois *+
Lucy: Sara Kobayashi, Ben: Takaoki Onishi
——————(Encore)——————
Lehár: “Lippen schweigen” from Die lustige Witwe