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リヒャルト・シュトラウス:歌劇《ばらの騎士》|藤堂清

リヒャルト・シュトラウス:歌劇《ばらの騎士》(演奏会形式) 
Richard Strauss: Opera “Der Rosenkavalier” (Concert Style) 

2024年12月15日 ミューザ川崎シンフォニーホール 
2024/12/15 MUZA Kawasaki Symphony Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by 池上直哉/写真提供:ミューザ川崎シンフォニーホール 

<出演者>        →Foreign Languages
指揮:ジョナサン・ノット(東京交響楽団 音楽監督)
演出監修:サー・トーマス・アレン
元帥夫人:ミア・パーション
オクタヴィアン:カトリオーナ・モリソン
ゾフィー:エルザ・ブノワ
オックス男爵:アルベルト・ペーゼンドルファー
ファーニナル:マルクス・アイヒェ
マリアンネ/帽子屋:渡邊仁美
ヴァルツァッキ:澤武紀行
アンニーナ:中島郁子
警部/公証人:河野鉄平
元帥夫人家執事/料理屋の主人:髙梨英次郎
テノール歌手:村上公太
動物売り/ファーニナル家執事:下村将太
合唱団:二期会合唱団
管弦楽:東京交響楽団

 

指揮者ジョナサン・ノットが東京交響楽団を率いて行ってきた、リヒャルト・シュトラウスのオペラの演奏会形式による公演、今年が最後となる。演目は以前の2回、《サロメ》《エレクトラ》という一幕ものとは異なり、全3幕の《ばらの騎士》、幕間に休憩をはさむこともあり上演時間は大幅に長くなる。また、前二作が主役一人のみに負荷がかかる作品であったのに較べ、こちらは主役級四人がそろう必要がある。元帥夫人のミア・パーション、オクタヴィアンのカトリオーナ・モリソン、ゾフィーのエルザ・ブノワ、オックス男爵のアルベルト・ペーゼンドルファーの四人はこの条件を充たしていた。ジョナサン・ノット指揮する東京交響楽団も、昨年までのダイナミックな力技というような演奏とは異なる、抒情的で色彩感豊かな音楽を聴かせてくれた。
第1幕冒頭の元帥夫人とオクタヴィアンのシーン、パーションの緻密な歌い方、モリソンの豊かな声、それぞれの特徴を活かした音楽を聴かせる。パーションのドイツ語、多少の難はあるが、ポイントとなる言葉はしっかりと浮き上がってくる。彼女がつい “einmal” と口走ってしまうあたりの声の表情の見事なこと。その一言を咎め明らかにするよう迫るモリソンの圧力、それをいなすパーション。細かな演技がつくわけではないが、歌だけで舞台を作り上げる。オックス男爵のペーゼンドルファーが登場すると雰囲気が一変、ガサツな感じが漂う。彼の歌、通常カットされることが多い部分も今回は演奏されたこともあり、存在感が大きく感じられた。幕切れ前の元帥夫人のモノローグ、パーションの年をとることへの悲しみが痛切に受け止められた。
第2幕で登場するのはゾフィー、エルザ・ブノワ、透き通った声が美しい、そしてドイツ語の発語がはっきりしている、実に素晴らしい。オクタヴィアンとの二重唱は天国的な響き。ゾフィーの父親であるファーニナルを歌うマルクス・アイヒェが、スタイリッシュな歌で聴き応え充分、まさに儲けもの。この幕でもオックス男爵の登場で雰囲気が変わる。ゾフィーは彼の馴れ馴れしく遠慮のない振る舞いに強く反発、オクタヴィアンに助けを求める。オックス男爵とオクタヴィアンは剣を抜いて対決、男爵が軽い傷を負う。このあたりのドタバタをノットが的確にコントロールして聴かせる。幕切れのオックス男爵のワルツ、そして長く引き伸ばした最低音に大きな拍手があった。
第3幕の開始は通常の舞台であれば無言劇となるところだが、ここでは音楽だけ。ノットがかなり煽るので、オーケストラもその速めのテンポで演奏、しっかりついていく。女装のオクタヴィアンとオックス男爵の会食から場面は始まる。男爵を嵌めようとするオクタヴィアンの策略で騒ぎが起き、元帥夫人が男爵に引導を渡す形で、男爵とゾフィーの結婚はなかったものとなる。男爵が去った後、元帥夫人は愛人であったオクタヴィアンをゾフィーに譲る形で身を引く。ここでの三重唱、そして続くオクタヴィアンとゾフィーの二重唱はこのオペラの中での聴きどころ、この日の三人(二人)の歌唱は美しく、終わらないでほしいと思わずにはいられなかった。
全体としてみればソリストの充実がこの日の演奏を生んだと言えるだろう。
一番に挙げたいのはゾフィーのエルザ・ブノワ、言葉がよく聞こえること、どの声域でも安定していることが評価される。ついで元帥夫人のミア・パーション、表現の幅広さが際立っていた。オックス男爵のアルベルト・ペーゼンドルファーは細かな歌い分けがあるわけではないが、声の力で聴かせた。オクタヴィアンのカトリオーナ・モリソンもその豊かな声を最後までしっかり保って歌いきった。他の歌手もよく歌っていて、すべてにおいて高いレベルの公演であったと思う。
最初にふれたように、オーケストラの頑張りもこの日の演奏の水準を高いものとした。それが、多様な表情を持つこのオペラの骨格を支えていた。
狭い空間を使ってではあるが演技を付けて上演。演出をどうこうと言うのはむずかしいが、オペラを理解する上での助けにはなっていた。
これだけの公演を実現した東京交響楽団に感謝したい。

(2025/1/15)

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<Cast>
Conductor: Jonathan Nott
Direction: Sir Thomas Allen
Marschallin: Miah Persson
Octavian: Catriona Morison
Sophie: Elsa Benoit
Baron Ochs: Albert Pesendorfer
Faninal: Markus Eiche
Marianne & A milliner: Hitomi Watanabe
Valzacchi: Noriyuki Sawabu
Annina: Ikuko Nakajima
A police commissioner & A notary: Teppei Kono
An Italian singer: Kota Murakami
Marschallin’s major-domo & An innkeeper: Eijiro Takanashi
An animal vendor & Faninal’s major-domo: Shota Shimomura
Three Orphans of Noble Family: Mika Tasaki, Mayo Matsumoto, Yukie Tamura
Child Actor: Katsumasa Koshizu
Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra