ジョヴァンニ・アントニーニ指揮 イル・ジャルディーノ・アルモニコ Trauer-悲しみ―|大河内文恵
ジョヴァンニ・アントニーニ指揮 イル・ジャルディーノ・アルモニコ Trauer-悲しみ―
Giovanni Antonini Il Giardino Armonico Trauer
2024年12月13日 トッパンホール
2024/12/13 Toppan Hall
Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
Photos by 大窪道治/写真提供:トッパンホール
<出演> →foreign language
指揮:ジョヴァンニ・アントニーニ
イル・ジャルディーノ・アルモニコ
<曲目>
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K136(125a)
ハイドン:交響曲第52番 ハ短調 Hob.I-52
~~休憩~~
アルヴォ・ペルト:主よ、平和を与えたまえ
シャイト:《音楽の戯れ》より4声の悲しみのパヴァーヌ イ短調 SSWV42
ハイドン:交響曲第44番 ホ短調 Hob.I-44《悲しみ》
~アンコール~
グルック:バレエ音楽《ドン・ジュアン》より 第14場 Larghetto 第15場 Allegro non troppo
モーツァルト:セレナード第13番ト長調 K525《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》より 第2楽章 Romanze Andante
フライヤーに踊る「これぞ、ハイドン!再発見!」の文字、パンフレットの解説で強調された「Trauer―悲しみ」という言葉がこの演奏会のキーワードだと思っていた。とくにプログラム後半のペルト、シャイト、ハイドンの《悲しみ》という流れはTrauer(ドイツ語で悲哀、哀悼を表す)そのものではないか。
たしかに今回のコンサートツアーはハイドンの交響曲のレコーディングに伴うもので、ハイドンがメインに据えられているけれども、結果的にはそういった枠組みを超越するような一夜になった。
始まりはモーツァルトのディヴェルティメントニ長調。よく知られた曲だが、耳に馴染んだものとは少し違う。何かの振り付けなのかと思ってしまうくらい踊っているように見えるアントニーニの指揮から繰り出される音楽は、聴きなれたものとは少し異なるフレージングが紛れ込む。それは違和感ではなく、こういうのもアリなんだ!という新しい発見だった。
古楽器による演奏はヴィブラートをつけないのが特徴だとよく言われるのだが、彼らの演奏を聞いていると、古楽器=ヴィブラートなしという単純な図式ではなく、ヴィブラートをつける必要がないほど音そのものが魅力的なのだということがよくわかる。
聴きなれた演奏とずれが生じているのは、フレージングだけではない。通常よく聞こえるメインの旋律以外にもあちこちから魅力的な楽句が聞こえてくる。第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、すべての楽器がいい意味でソリストの集まりでできている。
モーツァルトで受けた印象は、次のハイドンでも続く。アントニーニの紡ぎだす音楽はどこまでもエレガントだ。ハイドンの疾風怒濤期に書かれた52番も彼らにかかると、悲壮感は消え、ハイドンのエスプリだけが残る。
後半のペルトとシャイトは、圧倒的な悲しみや祈りというよりも、21世紀と17世紀の世界に旅をし、その後で改めて18世紀のハイドンに耳をチューニングさせる仕掛けの一部であり、この3曲が続けて演奏されることにこそ効果があるのだと感じられた。
ハイドン交響曲第44番《悲しみ》は、第1楽章の冒頭こそ悲しみを感じさせるが、すぐに長調に転じる。2楽章冒頭はマーラーを思わせる壮大さで始まる。第3、第4楽章も含め、作品全体を「悲しみ」という言葉のみに還元させるのではなく、その意味の多様な広がりに目を向けさせるような演奏だと感じられた。オーケストラの演奏会においてハイドンは前座として演奏されることが多いが、演奏の仕方によってはメインになりうることを彼らは証明してみせた。
アンコールのグルックとモーツァルトはいずれも絶品。ハイドンがメインのコンサートだったが、彼らが真に生き生きとしていたのはモーツァルトだったように思う。今回のプログラムはドイツものを中心としていたが、彼らの演奏はいかにも「ドイツ」といったものではなく、イタリア人の「ドイツ」であると感じられた。奏者の中にはイタリア人でない人も含まれるが、アントニーニが彼らから引き出しているのは紛れもなくイタリアンである。他のプログラムも聴いてみたいと思った。
(2025/1/15)
Giovanni Antonini, conductor
Il Giardino Armonico
<program>
Mozart: Divertimento D-Dur K136(125a)
Haydn: Symphonie Nr.52 c-Moll Hob. I-52
–intermission—
Arvo Pärt: Da pacem Domine (2006)
Scheidt: “Ludorum musicorum”, Paduan dolorosa à 4a-Moll SSWV42
Haydn: Symphonie Nr. 44 e-Moll Hob. I-44 “Trauer”
Encore
Gluck: Don Juan XIV. Larghetto XV. Allegro non troppo
Mozart: Serenade No. 13 in G Major, K. 525, “Eine kleine Nachtmusik” II. Romanze: Andante