プロムナード|過ぎ行くもの|藤堂清
過ぎ行くもの
Text by 藤堂清
何をしている訳でもないのだが、日々の過ぎて行くのがはやい。コンサートに出かけたり、少しばかりの文章を書いたりというくらいしかしていないのだが、いつの間にか一日が終わっている。「日日是好日」ならぬ「日日是同日」だろうか。少しはちがいのあることを思いつくままに書いてみよう。
裏庭への訪問者も世代交代が続く。マルコの次に常連となったのは黄色と白のブチ模様の年寄りネコ。ニャゴニャゴと鳴いてすり寄ってくる。野良猫とは思えないような親愛の情の示し方。毛皮は自分では手入れができないとみえて、ボサボサ、ボロボロで抜けているところも目立つ。欠けている歯もあり、よくこれで外ネコとして生きていると思わなくもない。鳴き声をとって「ニャーゴ」と呼ぶことにした。
朝晩エサをやっていたら、ほとんど常に家のまわりのどこかに居て、人が外に出るとすぐに反応して大きな声で鳴くようになった。同居人の強い意向で、マルコと同様柔らかいエサを中心にやることになる。食いつきは結構よく、ワグワグという声を発しながら食べる。こういった反応があれば、エサをやる方のモーティベーションも上がるというものだ。
道の近くの給湯器の上で寝そべっていることが多いこともあり、外を通る人たちも声をかけていく。ネコもそれに鳴いて応えるものだから、なにかと立ち止まっていく人が増えていった。小さな犬の散歩に通る人も、犬ともども相手にするし、子ども連れの人も子どもが呼びかけるのでしばらく見つめている。飼い主になったわけではないが人気ものになっているのは、なんとなくうれしい。
ある日エサをやりに出ると、興奮した様子で駆け寄ってくる。口に何かくわえている。よくみると羽が飛び出している。スズメらしい。自分でとらえることができるほど敏捷だとは思えないが、落ちてでもいたのだろうか。獲物をとったから褒めてほしいといった様子。翌朝みると羽の一部が落ちているだけだったから、しっかり食べたとみえる。骨もあり、硬そうなのに・・・
ニャーゴは、頭をなでてやればよろこんで押し付けてくるし、体をさわっても逃げるわけでもない。ひょっとしたら、どこかで飼われていたものがなにかの具合で外ネコになってしまったのだろうか。家に入れてやればすぐに慣れそうではあるが、家にはすでに別のネコがいるし、そこまでやろうとは考えなかった。
この夏の暑さをなんとか乗り切り、涼しくなった10月、朝、外に出ればすぐに駆け寄ってきていたニャーゴの姿がない。昼になっても、夜になっても現れない。心配してみても何ができるわけでもない。一応エサはおいてみたが、カラスの餌食になってしまったようだ。翌日も翌々日も戻ってこない。犬をつれて散歩している人からも「最近ネコちゃん、姿がみえませんね。」と言われる。ネコは死期をさとると姿を隠すというが、そういうことだったのだろうか。1年に満たない付き合いであったが、懐いてくれていただけに、ポッカリと穴が開いたように感じる。
その後も夜だけはエサをおいてみている。朝になるときれいになくなっているので、だれかが食べに来ているのは間違いない。ニャーゴの後継となりそうなネコが1匹、ときおり来ているが、まだ常連になったというわけではない。セコムのカメラに写っている姿をみると、ネコではなくタヌキの訪問の方が多いようだ。これからどのようなことになっていくのだろう。
区の健康診断、かかりつけ医のところで毎年受けているが、胸部のレントゲンに影があり、きたないと言われてきている。かといって年毎に変化があるわけではないということなので、「経過観察」を決め込んでいた。もっともこのお医者さん、循環器の専門医なので、細かな変化があっても識別できているかどうかは定かではない。今年もそのままでよいと思っていたのだが、「一度呼吸器の専門医に見てもらったらどうですか」という。とくに症状があるわけではないし、と思いながらも、大きな病院の呼吸器科に行ってみることにした。
かかりつけ医の診療情報提供書にどのようなことが書かれていたのか分からないが、まずは胸部レントゲンとCT。それで「間質性肺炎」という診断。原因や状況を調べるために検査をしますということになり、痰、血液を採取、そして次回、肺機能の検査をすることに。驚いたのは血液検査の種類の多さ。採血管が20本くらいあっただろうか。血液の担当の方が、どこの科ですかと聞いてくる。呼吸器科だというと、あそこは多いんですよねという。献血する場合と較べればそれほど多いわけではないのだが、貧血を心配したくなるほど。
そんな感じで初回の診察は終わったが、間質性肺炎という病名はあまりありがたいものとはいえない。実際これで亡くなる人もいるわけで、今後の進行状況がどうなのか分からなければ、どう考えていったらよいか判断しようもない。それでも、肺がんや肺結核といった肺の主たる機能の疾患ではないことが分かったのは良かったのかもしれない。
2回目の診察では、間質性肺炎についての説明があった。肺胞をつつむ間質が線維化し硬くなり呼吸が困難になっていくという。原因として考えられるのは、鳥関連の吸入や過敏性肺炎などというのだが、組織をとって検査してみないと分からないという。いや検査しても分からない場合もあるとのこと。しかも、この検査のためには入院が必要と言われ、少し引いてしまった。
それに先立って行った肺機能検査の結果も説明があった。おおざっぱにいうと、吐く力は年齢相応で問題ないが、吸う力は標準より落ちるとのこと。
問題は何ができるかだが、すでに硬くなってしまった肺を治すことはできず、線維化を起こしていない肺を悪化させないようにする、進行を遅らせるというのが治療目標となる。そのための抗線維化薬は2種類あるとのこと、効果としては、悪化を防ぐ、急性増悪予防、肺がん予防の可能性。デメリットは、副作用もあるが、高価であること。月々の負担が5~10万円と言われ、ここでもまた引いてしまった。
まず、入院して検査するというのは今後の病気の進行状況を掴む上で、やっておく必要があるだろう。その上で抗線維化薬の服用を開始するかどうか判断していくことになる。次回2月の診察までに考えておかねばならない。
大して変わりばえのしないことを繰り返している、そんな余裕のあるうちに身の回りにある使わないもの、見ないものなどを処分し、「終活」を考えるべきなのだろう。だが、そこに踏み込むことも面倒に思える日々である。
(2024/12/15)