クリストフ・プレガルディエン&ミヒャエル・ゲース シューベルト・アーベント|藤堂清
〈歌曲(リート)の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第29篇
[ Song Series 29 -Gedichte und Musik- ]
クリストフ・プレガルディエン(テノール)&ミヒャエル・ゲース(ピアノ)
シューベルト・アーベント-別れ そして 旅立ち
Christoph Prégardien(Ten) & Michael Gees(pf)
Schubert Abend -Lieder von Abschied und Reise
2024年5月22日 トッパンホール
2024/5/22 Toppan Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 藤本史昭/写真提供:トッパンホール
<演奏> →foreign language
クリストフ・プレガルディエン(テノール)
ミヒャエル・ゲース(ピアノ)
<プログラム>
シューベルト:
逢瀬と別れ D767/星 D939/夜曲 D672/弔いの鐘 D871/さすらい人 D489/
さすらい人の夜の歌 I〈汝、天より来たりし者〉D224/ヴィルデマンの丘で D884/
亡霊の踊り D116/魔王 D328/さすらい人の夜の歌 II〈山々に憩いあり〉D768/あこがれ D879/
ミューズの子 D764/ブルックの丘で D853/夕映えの中で D799/憩いない愛 D138/
囚われの狩人の歌 D843/竪琴弾きの歌より〈わたしは家の戸口にそっとしのび寄っては〉D479/
さすらい人 D649/さすらい人が月に寄せて D870/独り住まいの男 D800/舟人 D536/
御者クロノスに D369/《白鳥の歌》より〈影法師〉D957-13/夜と夢 D827
—————-(アンコール)—————-
シューベルト:わが心に D860/《白鳥の歌》より〈別れ〉D957-7
シューベルトの歌曲の中から、「別れ そして 旅立ち」というタイトルに合わせて選ばれた24曲のプログラム、まるで歌曲集のようなつながりと流れが感じられる。「別れ」や「旅立ち」の中には「死」も含まれており、それを歌う曲も当然含まれている。また「旅立ち」により始まる「さすらい」も多くの歌曲でテーマとなっている。「別れ」に始まり「旅」の明るさを感じつつ、再び「別れ」に戻っていく、これらの曲の並び、よく考えられたものだと思う。この構成、1996年にクリストフ・プレガルディエンとミヒャエル・ゲースが録音したものと同じで、その時点で完成していた曲集を30年近く経った今また取り上げていることになる。
クリストフ・プレガルディエンは今年68歳、テノールとして高齢であることは否めない。実際、高音域では以前に較べれば多少苦労していることは感じられた。だが、言葉の美しさには変わりがなく、一言一言が聴き手の体に伝わってくる。またダイナミクスも大きくとっており、大胆な強声からささやくような弱声まで幅広い表現を行った。この点に関して、ミヒャエル・ゲースのピアノも大きく貢献していた。
最初の曲〈逢瀬と別れ〉の馬を駈って恋人のもとへと向かう場面、ピアノの3連符が急かせるように歌を引っ張る。〈夜曲〉で老人が歌う “Du heil’ge Nacht: Bald ist’s vollbracht,” という部分のゆったりとした表情、そして曲の最後の “Der Tod hat sich ihm geneigt.” でテンポを落として消えるように終わる。〈さすらい人〉の一番最後 “Dort, wo du nicht bist, ist das Glűck!” では “das Glűck!” を低い音でほとんどささやくように歌い終えた。〈魔王〉では、語り手、魔王、子ども、父親の4役を細かく歌い分け、ドラマを描き出したが、最後の “das Kind war tot.” は絞り切るように声を落とした。前半最後の〈ミューズの子〉の弾むリズムの明るさ、楽しさ。
叩きつけるようなピアノの前奏で始まる〈ブルックの丘で〉、プレガルディエンの歌も速めのテンポでたたみかける。続く〈夕映えの中で〉ではゆったりとした歌い口が対照的。〈憩いない愛〉と〈囚われの狩人の歌〉がほとんど間をおかずに演奏されたのには、ドキッとさせられた。〈独り住まいの男〉の第5節に入るところで、グッとテンポを落としたりとゲースのピアノの独自の弾き方も印象的。〈御者クロノスに〉のダイナミックな馬の駆ける情景の後、打って変わって〈影法師〉の静かに語るような歌に変わる。プログラム最後の〈夜と夢〉はプレガルディエンの十八番、しっとりと聴かせる。
プログラムは、曲と曲、詩と詩のつながりが良く考えられ、本当に曲集と言ってよいほど完成度の高いもの。プレガルディエンとゲースの緊密な共同作業もすばらしいものであった。ところどころで装飾的に入れられた変化も楽しめた。まだまだ歌って欲しいと心から願う。
(2024/6/15)
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<Performers>
Christoph Prégardien, Ten
Michael Gees, pf
<Program>
Schubert:
Willkommen und Abschied D767 / Die Sterne D939 / Nachtstück D672 / Das Zügenglöcklein D871 /
Der Wanderer D489 / “Wandrers Nachtlied I”, Der du von dem Himmel bist D224 / Über Wildemann D884 /
Der Geistertanz D116 / Erlkönig D328 / “Wandrers Nachtlied II”, Über allen Gipfeln ist Ruh D768 /
Sehnsucht D879 / Der Musensohn D764 / Auf der Bruck D853 / Im Abendrot D799 / Rastlose Liebe D138 /
Lied des gefangenen Jägers D843 / “Gesänge des Harfners”, An die Türen will ich schleichen D479 /
Der Wanderer D649 / Der Wanderer an den Mond D870 / Der Einsame D800 / Der Schiffer D536 /
An Schwager Kronos D369 / “Schwanengesang”, Der Doppelgänger D957-13 / Nacht und Träume D827
—————–(Encore)——————
Schubert:An mein Herz D860 / “Schwanengesang”, Abschied D957-7