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1月 短評|藤堂清 

1月 短評

Reviewed by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh) 

脇園彩&小堀勇介 ニューイヤー・デュオリサイタル with 園田隆一郎 
2024年1月9日 浜離宮朝日ホール 
2024/1/9 Hamarikyu Asahi Hall 

ロッシーニとドニゼッティのオペラから選ばれたアリアと二重唱によるデュオリサイタル。脇園はロッシーニを歌うメゾ・ソプラノとして世界的にもトップ・クラスであるし、小堀は国内では太刀打ちするもののないロッシーニ・テノールである。この二人がベルカントの名曲を歌うというのでおおいに楽しみで席に着いた。
前半で聴き応えがあったのは、ドニゼッティの《マリア・ストゥアルダ》からの2曲、マリアのアリアとそれに続くレスター伯爵との二重唱。脇園の声の美しい響き、ベルカントの極致と言えるだろう。二重唱での彼女の心の動き、エリザベッタと会うことへの逡巡と、それを説得するレスターの言葉。見事なドラマであった。
《ランスへの旅》の二重唱も、二人の技巧の限りを尽くした演奏で、会場は熱く盛り上がった。
後半は二人ともロッシーニのアリアから始まる。《湖上の美人》の最後に歌われるエレナの長大なロンド・フィナーレ。早いフレーズでもむらなく響かせる脇園の技術。一方の小堀も《オテッロ》よりロドリーゴのアリア、超高音と超絶技巧のかたまりのようなこの曲を完璧に歌う。
続くドニゼッティのアリアは、ともになめらかな旋律の美しさが際立つ。《ラ・ファヴォリート》のフェルナンのアリアでは、小堀の高音の確実さが見事。
プログラム最後の曲、ロッシーニの《エルミオーネ》の幕切れ、〈何をしてしまったの? 私はどこに?~復讐は果たされました〉での二人の白熱の歌唱が、この日の頂点となった。エルミオーネは婚約者ピッロが他の女性と結婚しようとしているのを知り、エルミオーネを愛しているオレステにピッロの殺害を依頼する。しかしそれでもピッロへの愛に揺れる心を歌う。オレステが戻ってきてピッロの暗殺を告げるところから二重唱となる。エルミオーネはピッロの死に錯乱、オレステを責める。オレステの驚愕。エルミオーネを歌う脇園のしっかりした響き、確実なアジリタ。それを受け止める小堀の明るく輝く声。
アンコールでは、《ラ・チェネレントラ》からアンジェリーナとドン・ラミーロが初めて会う場面全体を取り出して歌い、聴衆の熱狂をさそった。
期待に違わぬ充実した演奏を聴かせてくれた二人、だが彼らを支えた園田のピアノもすばらしかった。前奏を弾きだすとすぐ舞台が見えるような演奏といえるだろう。 

◆ Program
ロッシーニ:
 《アルミーダ》より〈甘美な鎖よ〉★◆
 《湖上の美人》より〈おお、胸を熱くする優しい炎よ〉◆
ドニゼッティ:
 《マリア・ストゥアルダ》より〈空を軽やかに流れる雲よ〉★ 、〈全てから見放され翻弄されて〉★◆
ロッシーニ:
 《ランスへの旅》より 〈私にいったい何の罪が?~卑怯な疑いを持ったことです〉★◆
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ロッシーニ:
 《湖上の美人》より〈たくさんの想いが今この胸に溢れ〉★
 《オテッロ》より〈ああ、なぜ私の苦しみを憐れんでくれないのですか?〉◆
ドニゼッティ:
 《ロベルト・デヴリュー》より 〈苦しむ者にとって涙は甘美なもの〉★
 《ラ・ファヴォリート》より 〈王の妾だと?~夢の中の清らかな天使〉◆
ロッシーニ:
 《エルミオーネ》より〈何をしてしまったの? 私はどこに?~復讐は果たされました〉★◆
◆ アンコール
ロッシーニ:
 《ラ・チェネレントラ》より〈すべてが静かだ 〜 えも言われぬ甘美なものが〉★◆ 

★=脇園彩、◆=小堀勇介 

(2024/2/15)