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プロムナード|裏庭の訪問者たち|藤堂清

裏庭の訪問者たち
Visitors in the backyard

Text and Photos by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh)

練馬の今の住居に移ってきて7年が経った。ここに住んでいた妹が熱心なネコボランティアであったこともあり、かつて駐車スペースであったところに、ネコのためのボックスが積まれている。実際にそこに常住していたものがどれほどいたのかは聞いていないので分からないが、彼女の話に出てきたネコの名前は5~6匹になるから、そこそこ使われていたのかもしれない。それぞれにエサの好みもあるようなことを言っていたし、ほとんど飼っていたようなものだったのだろう。彼女は近所の方にエサやりをお願いして逝ったのだが、我々が転居してくるまでのタイミングで、そのネコたち、世代交代というか、顔を見せなくなったり、死んだりして減っていったようだ。
別に頼まれていたわけではないのだが、引っ越してすぐに裏庭でのエサやりを再開。朝、おいておくとサッサとなくなる。姿も見えないのに一体どんなネコが来ているのだろうかと思っていたら、羽のある訪問者だったようで、セコムの防犯カメラに写っていたのはカラス、二羽で訪れていることもある。仕方がないので、暗くなってから与えるように変更してみた。活動時間がこちらの方が合致したようで、キジトラのネコが現れるようになった。エサをくれるのを少し離れたところで見ていて、人が家に入るのを待って動き出す。「マルコ」と名付け、呼んでみるが反応することはなく、愛想もなにもないが、とりあえず外ネコとして存在するようになった。
しばらくすると、ネコ界にエサやりの実績が認知されたのだろうか、他のネコも顔を見せるようになってきた。相当な面構えの黒白のブチネコ、少し汚れ加減な茶トラのネコなどが、入れ代わり立ち代わり来るようになった。もっとも、来たらエサをやるというほど注意していたわけではないので、それぞれがどれほど食べていたのかは定かではない。

あるとき、防犯カメラの映像記録を何気なく見ていたら、ネコとは思えない動物が写っている。しかも親子で。ネットで可能性がありそうなものを調べたところ、口の形や体型からタヌキと判明。ウチのエサはタヌキも養っていたのか・・・。しかし、一体どこで暮らしているのだろう? 家から半径100メートルくらいの範囲を考えれば、林、木の多い庭、さらに放置された古い家など、彼らの生息・繁殖場所になりそうな所はそれなりにあった。もう少し拡げて200メートルくらいまで考えれば広い公園もある。とはいえ、子連れで移動してくるのはリスクはあるだろう。それでも来るというものを拒むことはできない。
真夜中の訪問者を注意して見るようになると、ほかにも野生の動物が来ていることが分かってきた。
次に気付いたのは、額から鼻にかけて白い線があり、シッポが体長と同じくらい長いもの。ハクビシンである。都区内でも広く分布していると言われ、古い家に住み着いていることが多いそうだ。夕暮れ時に電線を伝って歩く姿を見かけたこともある。じつは、前に住んでいた家の屋根裏はハクビシンの住処であったので馴染みのカオではあった。
最後に姿を見せたのは、シッポが太く黒い横縞のある動物、アライグマ。特定外来生物に指定されており駆除対象となっているようだが、住宅街で駆除することはむずかしそうに思える。

7年の間で、あらわれるネコも変わっていった。
3年ほど前になる。道路をはさんだ向かいの家の駐車場で鳴く子ネコがいた。薄茶色と白のブチの子。親ネコがいて、それについてきているわけでなく、一匹でか細い声を出している。「こっちへおいで」と声をかけるが、鳴くばかりで来るわけではない。そんなことが2週間ほど続いただろうか、いつの間にか我が家のエサを食べる一員となっていた。近年、地域ネコ活動とやらで、野良ネコを捕獲し避妊手術を行うということが徹底しており、外で子ネコを生み育てることが少なくなっている。それもあって、希少な新顔ということになる。とりあえず「チビチャン」と呼んで気にするようになったが、半年もするともう立派な体格になって呼名とのギャップが生じてきた。それでも、かわいい声でエサの催促をしてくるので、こちらも思い入れがでてきた。しかし、彼(オスだった)が1才になったころ、急に姿が見えなくなった。避妊手術のため捕獲され、そのまま保護されたかとも考えたが、外ネコのメンバーから外れたことは間違いない。少し残念な気持ちが残った。

同じころ、ネコ以外の野生動物の姿も見かけなくなった。近所にあった無人の廃屋が取り壊され、小規模な分譲住宅が建てられていく。あるいは、庭にたくさん植えられていた木がすっかり切り払われ、アパートと住宅に変わっていく。タヌキやハクビシンの住まいだったところが無くなってしまったのだろう。どこかに移り住んでいればよいのだが。
ずっと変わらずに顔を出していたマルコだが、去年の夏ごろから乾燥エサを食べにくそうにしている姿が目立つようになった。仕方なくゼリー状のエサにしてみたら、それはなんとか食べていった。だが、今年になってからはその姿をみることはない。野良ネコとしては十分長生きであったろうから、天寿を全うしたと思うしかないだろう。

狭い裏庭だが、そこを訪れる動物たちの営みが、近隣や自然の変化を浮き彫りにする。

(2024/2/15)